CMを見ていたら「テスト・ザ・ネイション2007」という番組の宣伝をやっていました。


 何を隠そう、私は2004年にこの番組に出たことがあります。しかも、官僚グループのリーダーっぽい役割で。あれは2004年の夏も終わろうとしている時期だったように思います。役所の後輩からメールがやってきました。内容は「クイズ番組に官僚チームとして出る。一人年次の高い人がいた方がいいので宜しく。」というものでした。役所に数多いるおじさんの中で私に白羽の矢が立ったのは、おそらく「こいつならテレビで全国に恥を晒すことも厭わないだろう。」という読みがあったのではないかと思います(その読みは正しいのですが)。まあ、理由はともあれ、こういう時にお声のかかることはとても幸せなことです。


 役所ではテレビ出演する際には上司の決裁が要ります。普通は幹部クラスの方が外交問題を論じる番組に出ることが多いのですが、私は「テスト・ザ・ネイション」。有り体に言うと、適当にごまかして決裁を取ってしまいました。たしか、訝しがる上司を前に「いやー、チョイ役でサクラみたいなもんです。テレビに隅に映るかどうかも分かりませんから。」とか説明していたような気がします。


 そんなこんなで放送当日数日前、テレビ局から直接役所に電話がかかってきました。「いやー、緒方さん。官僚グループのリーダー役を受けていただいてありがとうございます。当日は小池栄子さんから紹介してもらって、官僚チームとしての意気込みを語っていただきますので。東大生チームごときには負けないくらいの威勢のよさでお願いします。」と頼まれてしまいました。おまけに「ちょっといけ好かない官僚の感じも宜しくお願いします。」・・・、いやーテレビって怖いなあと思いながらも安請け合いしてしまいました。


 収録当日、会場に行ってみると、官僚チーム50人の中で入省10年を超えているのは私だけ。あとは入省2~3年目の若者が主体で、ダントツで私がジジイでした。全体のチーム分けは東大生、タクシードライバー、銀座のママ、料理人、専業主婦、官僚でした。世間のステレオタイプをそのままグルーピングするとこうなるということなんでしょう。ただ、銀座のママの中には「おいおい、おまえはちょっと違うんじゃないか?」と思えるようなハジけた髪と服装の方が何人か混じっていました。きっと無理をして、ちょっと風俗に近い系の人も集めたんじゃないかと想像してしまいました。専業主婦の中にも生活感ありまくりの人から、全然生活臭のしない人まで千差万別でした。なお、私の座った席の隣は生活臭のある専業主婦の方でした。そういうのに弱い私は放送中、結構気を取られていました。


 番組が始まって暫くすると、各グループ紹介。私の隣に小池栄子がやってきて、私のことを紹介していました。「まあ、こういう局面でこそ、ちょっと高飛車な感じがテレビ的には求められるんだろうな。」と思って、胸を張って「まあ、東大生ごときには負けませんよ。」と言ってみました・・・、事前の振り付けの期待感には十分応えていたと思います。どうも、この番組を通じて私は相当画面に映っていたらしく、後で一族郎党、東京の友人、地元の友人等、あちこちで「見た」と言われてしまいました。一人くらい「あのテレビに映っていた外務省の素敵な方とお会いしたい」とかファンレターの一つも来るかと期待したのですが、それはさすがにありませんでした。


 番組自体は何の変哲もない知能テストでした。私は基本的にそういうのは得意なのですが、一つだけ超苦手なものがあります。それは記憶モノです。といっても記憶一般がダメなのではなく、無秩序に並んでいる記号を覚えたりする脳の回路が完全に壊れているようでした。そもそも、そういうことに対する関心とか執着心がないことが決定的な要因です。秩序だっているもの、理屈があるものについてはすぐに覚えることができるのですが・・・。ということで、5つテスト分野があるうち、記憶は何と2割の正答率。4択の問題が多かったのに、私はあてずっぽうでも達成できる25%の正答率を下回っていました。絶対に脳の何処かの回路が著しく壊れているのだと思います。


 結局、官僚チームは東大生チームにボロ負け。私は記憶での低正答率があるため敗北にかなり貢献していました(官僚チームの平均点より低かった)。まあ、知能テストなんてのは練習すれば相当程度レベルを上げることができるので、ヒマな東大生は練習することができたのでしょう。前の晩、朝3時くらいまで働かされた身ですからね、私は・・・(と言い訳をしておきます。)。


 この話は後日談があります。次の日、役所に登庁すると多くの方から「見た」、「どれくらいの出来だったのか」、「東大生に勝つといったのに負けちゃいかんよ」、まあ色々なコメントがありました。まあ、バラエティですから温かい目で見て、軽い気持ちでコメントしてくれた方ばかりでした。そういう中で「あんなくだらない番組に出て、テレビ側の振り付けに乗って、役所のイメージを落としてきた緒方ってヤツはけしからん」みたいなメールをばら撒いた御仁がいたようでした。記憶が正しければ、外務省の筆頭局の筆頭課と言われる部局でしたね。たかがクイズ番組に出て、面白おかしくやってきただけで誹謗中傷されるってのも割に合わんよと呆れたのを覚えています。