先般、農業について書いたら(http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-10020320197.html )、私の同級生の中で最も学業優秀であった友人から概ね以下のような指摘がありました(私が少し抜粋しています)。なお、その友人は現在、某中央官庁で課長補佐をやっています。

● 農家の所得保証は米国等に同様の施策があるが、日本に導入するのは違和感あり。①一定の規模以上(=客観的に必要な経営環境)であり、かつ②企業経営的なマインドのある農家に対象を限定しないおそれがあるから。
● 現在の農業の大半は高齢者が片手間に(兼業農家)農業をやっているのが典型的。そうした農家に所得保証をする必要はない。
● むしろ、企業経営的なマインドのある農家に農地を集約させる。そうした集約のツールとして、現行の補助金(整備事業)を活用。
● 現行の補助金はばら撒きの要素が強い。田畑の区画が整備されても、住民全員の分散した土地を入れ替えて集約しただけで規模の集約がないケースが多い(農業が困難な高齢者であっても、適当な対価があっても農地を手放さない。農地の保有がノーリスクと認識されている。)。


 どれもこれも「そうなんだろうな、そう見えるんだよな。」というのがホンネです。農業従事者の方の反発が予想されるので大っぴらには言いませんが、中央官庁でこういう認識は比較的共有されているでしょう(農林水産省の中にもそういう人は少なからずいる)。


 先般の農政改革では、「規模の拡大」と「農業の担い手に対する直接支払い」を目的とする制度が導入されました。補助金は減収に対する収入補填と過去の実績に基づく直接支払いが基本です(農水省は「(減収を補填する)ナラシ」と「(収入補償という)ゲタ」という表現を使っています。なかなか上手い言い方です。)。この補助金を一定の規模を実現した農家(農家群)に出していくことで、集約化に向けたインセンティブを与えたい、そういうことです。


 まあ、ポイントは「本当にこれで農地の集約が進むか」ということです。まだ、よく分かりません。それは何を持って「規模の拡大」と呼ぶかについて、現行の制度は不明な点を残しているからです。今の制度では「集約営農」という集合体を作る要件が緩いからです。農地集約と規模拡大をしたとみなされるための要件が緩い(例えば銀行口座を一つにするとか)ために、真の規模の拡大が実現できるかどうかが分からないわけです。この制度が今後、どのように発展していくかを見守る必要があります。側聞するところでは、地理的に細切れになった土地を書類上のみ集めて「集落営農」と読んでいるケースもあるとか。制度の外形上だけ「集落営農」になった農地が増えるだけにならないことを祈るばかりです。


 上記の動き自体は多分、これでいいのだろうと思います。


 私の問題意識は、できるだけ多くの人を農業という産業に集めるために、農家が儲かるように補助金を出していくことがいいのではないかということです。今次制度改正で導入された補助金(ナラシとゲタ)では、まだ新規参入を促すほどではありません。また、集落営農に入らない農家にもある程度の補助金は維持していく必要があると考えます。集落営農への補助金とそうでない農家への補助金の水準に差をつけることで集落営農参加へのインセンティブを維持すればいいわけです。これから農業を始めようとする人にいきなり「集落営農」と言われても難しいでしょうから、慎ましやかに農業をやっていきたい人にもある程度魅力的なメニューを用意しなくてはいけないと思うわけです。それをばら撒きと批判する人もいるでしょう。ただ、私が切実に思うのは「儲からない産業に人は集まらない」ということです。今の国際価格差を考えれば、農業収入そのもので儲かろうというのは、特定の作物を作っている農家以外は無理です。となると、しっかり行政が儲かるようにしてあげなくてはいけません。その財源は一部は基盤整備事業に求めることができるはずです。どうも農業の基盤整備は無駄なものが多いような気がします。それを農家への補助金に振り向けるだけです(ただ、こういうことを言うと農林水産省の技術系の方からボコボコにされるそうです。怖いですね。)。


 地産地消、食育、食料自給率の向上、どれもこれも農業が振興されなければ実現できないものです。振興されるためには産業としてきちんと自立する必要があります。そのためには新規に産業に入ってきて頑張ってくれる人が必要です。そのためには儲からなきゃいけないわけです。ただ、それだけです。そのために十分な補助金を出す、これに反対する人もいるでしょう。ここは政治的な判断でしょうし、国民にきちんと信を問うていいくらいの話題だと思います。「農業を振興するために今よりも補助金を出して農家が十分に儲かる産業にすることにあなたは賛成ですか?」、分かりやすい問立てです。

 あと、農地の規模拡大という視点から踏み切っていいと思うのは株式会社による参入解禁です。今は個人事業者による形態が大多数ですが、最近、規制緩和でようやく農業生産法人が全国的に認められました。ただ、いまだに農業生産法人に求められる要件は厳しく、企業経営的なマインドの醸成を図るために株式会社の参入にまでは踏み切っていません。農水省や農協の議論は大体、以下のようなものだと思います。


● 農業は息の長い産業。土地を作り上げ、しっかり生産していくのは息の長い努力が必要。株式会社のように短期で利潤を挙げるという考え方と馴染みにくい。
● 利潤のみを基準とすると、儲からなくなったときに耕作放棄が行われてしまう。


 他にも色々と理屈を聞いたことがありますが、あまり説得されません。現行制度であっても耕作放棄は生じているわけであって、株式会社だからダメ・・・という理屈は「資本主義か共産主義か?」という基本的な世界観にまで戻って議論する必要を感じます。そもそも、今の日本の食卓の大半は株式会社形式で経営される農場で作られたものが並べられています。日本の商社が中国で大量に野菜を作って、輸入してきています。そういうところに目を伏せて、国内の農業で株式会社参入を認めるのは農業に馴染まないというのでは、現実から目をそむけているといわれても仕方ないでしょう。むしろ、今や農業に従事しようという人が十分に確保されない中、企業マインドを持った株式会社が厳しいコスト感覚を持って農地を運営していくことは耕作放棄を補う手段と考えることもできます。農業が利益を挙げて栄えていくための一つの手段として株式会社解禁はあってもいい政策だと思います。


 なお、冒頭の私の友人は、耕作放棄について「農地の空き情報(耕作放棄)をもっと流通すべき。不動産のように、仲介業者がいて容易に情報を把握できるのがベスト。」と言っていました。私はさすがに「ここまでやるかな」という留保がありますが、アメリカ的自由主義の発想からは当然出てくるアイデアです。。農地について最大の問題は、転用して宅地化、商業地化する際に莫大な利益が生まれることです。これは止めさせるべきです。まちづくり三法によってある程度規制強化になりましたが、厳格にゾーニングをきちんとやって農地転用を利権化させないための枠組みが必要じゃないかなと思っています。


 ダラダラ書きました。これまた推敲していません。読みにくいのですがご容赦ください。