多分、日本では殆ど注目されないと思いますが、トルクメニスタンのニャゾフ大統領が死にました。トルクメニスタンなんて国を知っている人はいないでしょう。歴史で勉強したパルチアのあったところと言っても余計に煙に巻かれるだけです。


 世界には独裁者といわれる人がたくさんいます。日本で一番有名なのは「将軍様」ですが、世界的にはそれに類するくらいの独裁者がいます。ニャゾフ大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領なんかは「将軍様」と同じか、それ以上の独裁者だろうと思います。その不思議な独裁振りは昔、このブログに書いたので(http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-10014538036.html )、それを参照してください。田舎の国民は本を読まなくていいといって地方の図書館を潰したり、贅沢はいけないといって金歯を禁止したり、かといって首都アシュガバードのど真ん中に自分の金の像を作ったりと想像を絶するものがあります。


 何故、ニャゾフ大統領の死に私が注目するかというと、大体以下のような理由があります。

● 石油資源
 トルクメニスタンは国土の大半がキジルクム砂漠という砂漠ですが、膨大な天然ガスが出ます。この資源を巡る動きというのは、1995年くらいから相当に盛んになり、一時期はアメリカのUNOCALという会社がトルクメニスタンからアフガニスタン西部を通じ、パキスタンからインド洋に出すルートを追及しようとしたことがありました(その過程で、当時アフガニスタンを制圧しようとしていたタリバーンと組むことすら考えた。このあたりはアフメド・ラシードの「タリバン」(http://www.amazon.co.jp/%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%B3%E2%80%95%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%8E%9F%E7%90%86%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AE%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%81%9F%E3%81%A1-%E3%82%A2%E3%83%8F%E3%83%A1%E3%83%89-%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%89/dp/4062102552/sr=1-1/qid=1166747004/ref=sr_1_1/250-1857081-2729043?ie=UTF8&s=books )に詳しいです。)。今や天然ガスをめぐっては世界的な競争が起こっていて、トルクメニスタンには日本(たしか伊藤忠)を始めとして多くの会社が秋波を送り、一部事業化も行われていました。そして、そういう会社からの貢物でニャゾフ政権は潤い、独裁の手綱を強めていたのは否めないでしょう。今後、政情が不安定化する中でどの国がトルクメニスタンの新政権に一番上手く食い込めるか、興味は尽きません。


● 民主化?
 ここ数年、旧ソ連諸国の中に民主化(=ロシア離れ)を進める国がありました。具体的にはウクライナとグルジアです。どちらの国もロシアから締め上げられて、相当に辛い思いをしています。ウクライナのユーシチェンコ大統領は、政権運営があまり行っておらず、この前の総選挙では親ロシア派、ティモシェンコ派(美人の元首相、怪しい噂が絶えない)についで第三勢力に甘んじてしまい、大統領就任時のユーフォリアは既に終わっています。昨冬はロシアからのガスの値段を上げられてしまい、抵抗したらガスの配送自体を止められてしまいました。グルジアもEUやNATOに擦り寄っていることから、ロシアから相当にいじめられてしまい、一部産品(ワインや水)の輸入禁止、在ロシアのグルジア人の追放、グルジア国内の自治共和国の独立運動支援(南オセチア、アブハジア)などコテンパンにやられています。
 では、トルクメニスタンでウクライナやグルジアで起こったような蜂起が起きるかというと、私は起きないと思います。何故かと聞かれると困るのですが、そういうことが起きないくらいまで徹底的にニャゾフ政権に抑えこまれていたので、いざ独裁者がいなくなったからといって民衆のムーブメントは起きないと思うのです。私は4年前にアシュガバードとマリという2つの町に行きましたが、街の雰囲気が暴動を起こすようになっていないのです。「人間は常に自由を求め、そのために行動する」、民主主義の理論の根幹をなしそうなテーゼですが、私はこういう人間像が世界中何処でも妥当するかというと相当に懐疑的です。


● 今後
 ただ、ロシアは親ロシア政権を作ろうと策動するのではないか(既にやっているのではないか)と思います。少しでも不穏な動きは排除して、第3のグルジア、ウクライナは避けたいと感じているはずです(昨年、キルギスでアカーエフ政権が倒れたときも相当に介入していた)。ロシアとトルクメニスタンの間には、トルクメニスタン産天然ガスを欧州につなぐパイプラインの使用料等で揉め事が絶えなかったので、まあ親ロシアの大統領を据えようとするだろうと思います。
 逆にアメリカは少しでも親欧米の政権を据えたいと思うはずです。今一つ、送油量が足らないと言われるバクー・トビリシ・ジェイハンのパイプラインにトルクメニスタンの石油資源を誘導して、ロシアを経由しない石油資源を確保したいと思うのではないでしょうか。
 あと、中国。よく中央アジアでの中国の資源漁りを警戒する話を聞きますが、トルクメニスタンからの資源を中国に誘導するのは少なくとも陸路では難しいのではないかと思います。距離があることと、中国のウィグル自治州まで持ってくる間にウズベキスタン、キルギスを経由する必要があるという事情があります。あまり過大評価しないほうがいいでしょう。
 私が密かに注目しているのはトルコ(軍)の動きです。いつも私が「こやつらは何を目的としていて、どういう手段で動いているのか?」と疑問で仕方ないのはトルコの軍です。何事においても、具体的な目的意識を持っていることは明らかで、しかも自分の勢力圏で何か動きをしているのだが、それがよく分からないのです。パンテュルキズム(汎トルコ主義)の思想から、「トルクメニスタンかくあるべし」という理念を持っているはずですけどね。トルクメニスタンを自己の勢力圏に引き付けるためにどう影響力を及ぼそうとするのか、結果から類推するしか手段はありませんが・・・。
 なお、長い国境を接するイランとの関係はよく分かりません。
 
● 隣国への影響
 これを過大評価する人もいます。トルクメニスタンが不穏になるとウズベキスタンに波及すると考える人もいるようですが、多分、ニャゾフ死亡による周囲の国への影響は極めて限定的だと思います。トルクメスタンは大半が砂漠の国で人口も少ないですし、しかも、理念系を強く打ち出すようなムーブメントは起きないでしょうから、そういうものに共鳴する人も少ないでしょう。


● 次の指導層
 反対派はニャゾフ下で徹底的に抑えこまれていました。反対派はロンドンかモスクワに住んでいるケースが大半です。殆ど、国内への足場がありません。反対派はニャゾフの死を契機に騒ぐでしょうが、あまり国内への影響はないような気がします。
 次の指導層は集団指導体制に近いかたちになるような気がします。これまでニャゾフが大統領、首相、参謀総長を兼任していたのですが、それ程の巨大な権力を負える人物は今のあの国にはいません。勿論、後継者は選ばれるでしょうが、形としては集団指導体制っぽくなるような気がします。そして、その政権はあまり安定的ではないでしょう。中長期的には常に不安定要素を抱えながらも、当面は平穏に過ぎていくくらいの見立てでいいと思うのですが。


 思い入れが強いのであれこれと書きました。多分、幾つかは思いっきり上記の予想は外れるでしょう。ただ、資源を持つ北朝鮮並みの独裁国トルクメニスタン、意外に面白くて重要な国です。ちょっと注目してみるといいかもしれません。