オーストラリアとのFTA交渉が始まるそうです。まあ、その目的とせんところは分からないでもないですが、本当に大丈夫かねというのが正直なところです。


 何故、オーストラリアかというと理由は幾つか考えられます。まず、中国が急成長する中、これから鉱物資源、農産物をめぐって激しい競争が出てくるでしょう。そういう中、資源の豊かなオーストラリアとの経済関係を強化しておきたいという思いがあるはずです。実はFTAを結んだからといって、それは資源や農産物をオーストラリアが(中国より優先して)継続的に供給してくれることを確保するものではないのであまり説得的な理由だとは思えませんが。


 オーストラリアに日本の産品がどんどん入りやすくなるというメリットも勿論、あります。ただ、あの国、あまり人口が多くないのです。国土が大きいので大国だと思うかもしれませんが、人口比で行くと大したことはありません。


 あとはオーストラリアにはサマーワで世話になったので恩返しという意味合いが全くないとは思えません。絶対に表には出てきませんが、当初、サマーワを守っていたオランダ軍が撤退した後、引き継いでくれる国が見つからなかったのです。そういう中、オーストラリアのハワード首相はサマーワに軍を派遣してくれました。日本の自衛隊は武力の行使はやらないという制約があるので、人道支援をしている間、どうしても何処かの軍が近くにいてもらう必要があるのです。私はこのオーストラリア軍派遣の決定の際に、日本側はタマとしてFTAを出したのではないかと見ています。小泉・ハワードの人間関係だけで軍隊を日本を守る番犬のように出すはずがないでしょう。


 私が思うのは「FTAはそんなに甘くない」ということです。FTAというのは「両国間で実質的に貿易障壁を撤廃する」ということです。本来はFTAを締結する国の経済構造に大きな変革をもたらすくらいのインパクトのあるものです。特にオーストラリアは農業大国ですから、オーストラリアから農産品が廉価でジャカジャカ入ってくることをきちんと覚悟しているのかなということがかなり疑問です。小麦、砂糖などなど、オーストラリアが圧倒的に強い作物が頭に浮かびます。本当にWTOの規定に忠実にFTAを実現したら、北海道の農業などひとったまりもありません。オーストラリアとFTAを締結したら北海道経済に1兆数千億円の損害が出るというレポートが出ていました。ちょっと数字が誇張しすぎじゃないか?と思いますが(そういう誇張した数字を出すから信憑性が疑われるのですが)、まあ、相当の損害は覚悟しなくてはいけないでしょう。


 WTO農業交渉では、オーストラリアは最大の敵です。大体にして、日本の農業市場の閉鎖性をボロクソに言うのはオーストラリアです。そういう国と今度は(WTOよりも遥かにインパクトの大きい)FTA、ちゃんと覚悟があるのかな、簡単に考えちゃいかんよと思います。どうも、ここ数年「FTA」というのが非常にクローズアップされてきて、「二国間の関係強化のため」にFTAをやろうという人が増えていますが、あれは「二国間の関係強化」のためのものではないのです。「実質的に二国の経済が統合する」くらいまでお近い関係になりましょうということなのです。どうも、その感覚が欠けているような気がしてなりません。


 多分、交渉を開始するや否や、農業で相当に攻め込まれて雰囲気は悪くなるでしょう。逆に日本は自動車の関税などを撤廃するように攻めるでしょう。オーストラリアは市場が狭く、しかも、近隣に大市場がない(東南アジアはちょいと遠い)ので工業分野があまり強くありません。しかし、第一次産業や鉱業は雇用の吸収力が相対的に低いので若年層の失業率が高く、雇用吸収力の強い工業分野を保護しています。オーストラリアとしても、農業で思ったほど取れないのであれば、工業で出そうという気にはならないでしょう。そうすると、お題目は立派でも超セコい縮小均衡型FTAが出来上がってしまうかもしれません(そもそも、実質的に貿易障壁を撤廃するので「縮小均衡」なんてことは本来ありえないはずなのですが)。


 オーストラリアとのFTA、それ自体にケチをつけるつもりはありません。ただ、「本当にその覚悟があるの?」というところになると甚だ心もとない気分になります。