日本の農業、色々と思うことがあります。短い文章で纏めることが難しいのですが、私の問題意識は2点です。とても単純な問題意識です。


● どうやったら農業はもっと儲かるようになるか。
● 都市(近郊)型農業を潰さないためにはどうするか。


 勿論、この延長上に食料自給率の向上とか、外国産農産物への対処とかあるのですが、私の発想ではまず上記の問題意識があるわけです。


 まず、農業はどうやったらもっと儲かるようになるか。儲からないと新規に入ってくる人材もいないと思うので、当たり前といえば当たり前の問題意識です。答えは簡単なのです。農家の方々のポケットにもっとお金が入るようにすればいいのです。ただただ、それだけのことです。

 ・・・これだけを言うと「おまえはアホか」と評されそうです。勿論、ばら撒けと言っているわけではありません。ただ、一つ私が強調したいことがあります。農家の方々は「農業はばら撒きだ、ばら撒きだと批判されているけど、そんなに貰っていない。」という思いを強くもっていることです。このギャップが農政に不幸な影響を及ぼしていると思うわけです。では、このギャップがなぜ生じるか。答えはこれまた簡単です。「農家の方々のポケットに行かない農業予算がたくさんあるから」です。日本の農業予算は2兆5千億くらいだったと思うのですが、1兆5千億くらいは基盤整備関係です。農業インフラに投じられる予算が非常に大きいわけです。欧米は農家のポケットにお金を突っ込む割合が大きいのに対して、日本は農家の人が間接的に裨益するようなお金がとても大きいのです。ここに認識のギャップがあります。

 ここをもう少しよく議論すべきだと思います。「農家が儲かるようにと言うが、また『ばら撒き』か?」と批判する人もいるでしょう。しかし、今、農業従事者がどんどん減る中、若い人を引き付けるには報酬が恵まれていることくらいは保証しなくてはいけないと思います。そうしないと自給率の向上など夢のまた夢です。今、農政改革が進んでいて、規模の拡大を基本的理念とする方向になっています。それは方向性としては良いと思うのですが、私はもう少し大胆にお金が農家の方々に渡るようにして、都会で就職するよりも農業をやりたいと思う若い世代を作ることがいいのではないかと思います。それが「ばら撒き」というのであれば、その批判は甘受します。

 ここで2つの問題が出てきます。財源と国際ルールとの関係です。まあ、「政府の施策で儲かるようにしろ」と言う以上、財源は考えなくてはいけません。私は農業のインフラ整備の意義を否定するものではありませんが、今の予算配分はあまりに土建関係に偏りすぎていると感じています。諸外国に比して、こんなにインフラ関係に割り振っている国は稀です。日本は中山間地域など条件不利地域が多いので、ある程度はインフラ整備は欠かせませんが、それでも多すぎです。農道は使い出が良いのでありがたいですが、国道と並走する農道を見ると「いい加減にしろ」と思うのは当たり前です。まあ、基盤整備関係の予算を削っていけば予算の捻出は可能でしょう。


 あと、農業補助金に関するWTOルールとの関係ですが、まあ、これは私がかつて担当していたので色々なことが脳裏に去来しますが、結論から言うと大丈夫でしょう。これは書き始めると長いですし、とてもテクニカルなので止めときます。日本は相当にきついルールを課されてもクリアーできるくらいのマージンを確保しています(興味のある人は個人的に聞いてください。1時間でも2時間でも説明します。)。

 最後にどういう補助金がいいのかについては、色々なアイデアがありますが、これは後日書きます。まず、言いたかったことは「自給率を上げるためには、たとえ『農家へのばら撒き』と批判されても、農家の方々のポケットにお金が行くようにすべき。財源は農業インフラ関係予算の削減でやる。」、これです。まあ、これは民主党が言っている農業政策と近いのですが、民主党案はあからさまにばら撒き感があり過ぎて、多くの国民のコンセンサスを得られるようになっていないような気がします。プレゼンテーションもあまりよくありません。


 次に都市(近郊)型農業なのですが、これは地産地消の農産物(野菜とか)が対象になります。近郊で作ったものを食べる、理想的な姿です。もっと推奨されていいものだと思っています。私の経験では、その土地で呑む酒はその土地で作ったモノと食べると一番合います。やっぱり、ウォッカは黒パンが合います。やはり歴史の培った知恵というのは大したものだと感心してしまいます。

 ただ、現在農地放棄が進んでいます。都市で農地を維持していけない色々な事情があります。後継者がいないとか、農業は儲からないとか。そうして虫食いのように農地が放棄され、見るも無残な爪あとが残っているケースが多々あります。

 私はまず農地の相続制度の改革によって、もっと農地を維持しやすくすることができないかと思っています。今の制度だと、後継者のいない農地は自ずと放棄されてしまいます。第三者に譲渡しようとすると税金がかかります。仕方ないので農業を放棄してアパートになったりします。ここに手をつけられないかと思うわけです。後継者がいない農地を一時的に農協か何処かに移転して、将来、その農地を使って農業をやりたい人、団体が出てきたら、そこに譲渡するようにすることを税制上優遇できないかなと思います。「後継者のいない農家」と「将来のまだ見ぬ後継者」をブリッジするような制度です。これくらいやらないとどんどん都市近郊の農家は滅びていき、地産地消なんて夢のまた夢になってしまいます。

 この件はもうちょっと勉強したいと思っていますが、都市型農業の意義を認めるのならもっともっと優遇する措置が必要です。たぶん、それは税制上の問題だと思うわけです。


 日本の農業、とても大切だと思います。(色々な国際農作物市場の駆け引きを抜きにして)一国民として、日本で作る農産物をもっと食したいというのが率直な感情です。外国産を敵視するつもりは毛頭ありませんが、日本人としてもっと国産農作物を食したい、ただ、それだけの単純なことです。しかし、日本の農業はこのままでは衰退していきます。日本の古きよき田園風景を守り、農業がもっと発展するには何をしなくちゃいけないのか、北九州市小倉南区の農村地帯を回りながらふと考えました。