もう下火になってしまいましたが、北朝鮮の核実験の後、あれが「周辺事態」にあたるかどうかという議論がありました。「周辺事態」というのは「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」というのを指します。そして、特定の事態が周辺事態に当たる場合は、その危険を除去するために活動する米軍に対する後方地域支援、後方地域捜索救助活動や、日本自身が船舶検査活動を行うことができるということになっています。まあ、普通に考えれば朝鮮有事か台湾有事のことを想定していると思っていいでしょう。台湾有事の時に米中が戦争するかどうかは甚だ疑問ではありますが。


 私は今回の核実験に関する「周辺事態かどうか」の議論は少しおかしいなと思っていました。時々、外相や防衛庁長官が「今後の推移を見ながら周辺事態に認定するかどうかを判断したい。」みたいな趣旨のことを言っていました。それって、米軍が臨検活動をするならその後方支援をしなきゃいけないから周辺事態認定する、ということを含意していると思うのです。


 しかし、とある事態が周辺事態かどうかを判断するには、その事態そのものの特性に応じて判断すべきものであり、米軍がどう動くかを考慮材料に入れるのは、法の趣旨としてはとてもおかしいと思うわけです。米軍がどう動こうと、周辺事態に相当するものは周辺事態だし、そうでないものはそうでないのだと思うのです。まあ、周辺事態という概念自体が米軍への後方支援を主とした行動を前提にしたものですから米軍が動かないのであれば意味がないのかもしれません。しかし、周辺事態時には日本独自で船舶検査をするという可能性もあるわけです(そのための法律がある。)。なのに、米軍の動向が最優先されるかのような日本政府の姿勢は間違っていると思います。


 「周辺事態の認定に関し、米軍がどう動くかというのは判断材料となるか?」、この基本的な質問を誰もしないのが不思議でなりません。日本の安全保障のあり方として、米軍の動きに応じて日本に対する危機認識が左右されるというのはおかしいと感じます。