国会論戦が始まりました。それなりにTVで「安倍総理は歴史認識に関し・・・」みたいな報道がされていますので、ある程度の注目は集めているようです。ただ、普通の人はあまり見ないでしょう。それでも国会議員はNHKが入る日は俄然力が入ります。


 私は国会審議が盛り上がることは基本的には良いことだと思っています。ただ、通常国会審議というのは盛り上がりません。見ていても眠くなります。私は答弁に立つ人のサポートで行っているにもかかわらず、あまりのつまらなさに寝てしまったことが多々あります。色で言えば灰色のモノトーンな風景が繰り広げられています。昼の一時過ぎくらいになると、丁度良い感じで睡魔が襲ってくる場所です。


 何故、国会審議が見ていても面白くないか。理由は簡単です。議論があまり噛みあわないからです。質問する議員は、一部のやる気に欠ける人を除けばそれなりに気合が入っています。事前によく勉強してきている人も少なくありません。それなのに何故面白くないか。それは噛みあわないからです。何故、噛みあわないか。答弁する側が噛みあわないようにしているからです。噛みあわなければどうなるか。噛みあわないまま終わります、それだけです。国会審議の大半は噛みあわないまま糞詰まりのような状態で終わります。


 ・・・とここまで来ると、「緒方はお役人答弁を批判しているのだな?」と思われた方も多いと思います。違います。


 答弁する側が「国会での質問に対し真正面から答えずに噛みあわない答弁で済ませよう」とするのには、それなりの理由があるのです。一番大きなものは「質問が重箱の隅つつきであまり本質的でないことが多々ある」というのでしょう。普通の人は「国会での議論」というと、それはそれは天下国家のことを論じているのだろうと思うでしょう。それが全然違うのです。とてつもなく枝葉末節なこと、とてつもなく揚げ足取りなもの、とてつもなく重箱の隅つつきなものが多いのです。ちょっとした言葉尻を捉えてチクチクやる文化が、この国の国会にはしっかりと根付いています。大臣やお役所(政府参考人)は議員からの質問なので表面上は丁寧に答えることにしています。ただ、下手に真面目に政策論をぶつけ闘わせようものなら、議員側から後で議事録をチェックされて「ここで言っていることと、この前言っていたことと違う」とか言われてチクチクやられてしまいます。だから、真正面から答えずに言質を取らせないようになります。その最たるものが「お役人答弁」になるわけです。あれは答弁する大臣やお役人が悪いとは一概に言えない部分が多いです。この国では、野党になると突然揚げ足取りマシーンになる人が多いですね(それは野党時代の自民党も同じ)。真面目に天下国家を語りたくても、揚げ足を取られてチクチク、時にはボコボコにやられるくらいなら、言質を一切取らせない答弁に徹したくなるのも分かります。国会対策上、良い大臣、良い政府参考人というのは「何か答えているようで何も言っていない人」ということになります。


 私は国会の内部にいていつも思うのは、「質疑において議員側はめいいっぱい間違える権利があるのに、何故答弁する側は間違える権利が一切認められないのだろうか。」ということです。議員の質問には、明らかに勉強不足から来る間違いが多々あります。しかし、そんな質問にも答弁はパーフェクトであることが当然のように求められます。日本の行政と立法との関係において、行政側は無誤謬であることを求められるのです。行政が本当に無誤謬な存在であれば、それはそれでいいのですが所詮は同じ人間ですから間違えることだってあります。しかし、対立法府(国会)では少なくとも理屈上誤謬がないことを追求しようとします(追求させられます)。だから、誤謬が生じにくい(何とでも解釈可能な)答弁にするか、それとも、本当は苦しいけど無誤謬を実現するために超無理な理屈を作り出すか、ということになるわけです。


 そういう役所の無誤謬性神話が巡り巡って「お役所答弁」になるわけです。しかも、時に政策を無理に無誤謬にするために変な理屈を生み出したりもします。本当に国会で行政側と立法側がきちんと天下国家を論じたければ、まず、あの揚げ足取りを止めて、しかも「答弁を間違えた時には訂正する権利」を行政側に認めなきゃいかんよな、と思います。そんなことを言うと、大半の国会議員は「オレ様が質問しているのに間違えた答弁をしていいとは何事だ!オレは国民の代表だぞ!」と憤慨するでしょう。間違った答弁は良くないのは当然ですけど、一言一句すべてにおいて論理が整合的なことを求めていくのはちょっとやり過ぎです。そういう姿勢が行政側の事勿れ主義を助長し、縮小均衡に陥り、最終的に国会をどんどんつまらなくしてきたんですよね。しかも、揚げ足取りで行政側をチクチク苛めるのは国民の代表の仕事じゃないですよね。


 ちなみに今の総理はとてもお役所答弁が多いです。ただ、あれは「揚げ足取りをされたくない」という次元よりももう少し低次元のところで生じている現象ではないかと思います。それが何かはあえて言いませんけど。