最近、とある選挙の予定候補者の政治活動の一環としてポスター貼りを何度かやりました。


最初は慣れないモノですが、慣れてくると普段歩いていても「ここは!」と思うスポットがとてもとても気になります。私などは愛車キューブに乗っている時、いつも「あー、この壁良いのにねー。ここの選挙区は誰が議員なんだ?」なんてことを考えるようになりました。


しかも、私は所有権の所在が明らかでない壁などにもポンポン貼ってきます。本当はあまり褒められた行為ではないのですが、特に選挙が近づいていたりすると「そんなことも言ってられない」ということで、ある程度大胆にやることも必要なのだと割り切っています。住宅地でやる時などは、それこそ挙動不審なおじさんそのものです。


ところで、あの政治家のポスター、色々なお作法があります。普通に生きていると全く気にしないと思いますが、それはそれは「通」な世界が存在しています。まず、公職選挙法に何が書いてあるかというと、とてもとても複雑で一回で理解できることはないでしょう。普段町中に貼ってあるポスターについて、私なりにザックリ要約すると以下のようになります。ただ、こういうことが法律に書いてあるわけではなく、あくまでも解釈としてこういうところまで可能ということに過ぎません。公職選挙法を素で読むともっともっと厳しいことが書いてあるように読めます。例外をある程度拡大して読むと以下のようになるだけですので誤解しないでください。


(注:ちなみに公職選挙法では「(日常的に行う)政治活動」と「選挙活動」をかなりクリアーに名別します。選挙活動と見なされると、かなり規制が厳しくなります。そして、かなり多くのモノは「政治活動」に押し込むことが出来ます。一般の方の常識感からはかなり逸れます。)


● 普段:政治活動の一環。ポスターの態様が政治活動に資するもの(例えば演説会の告知等)である限り、あまり制限は多くない。一人で写った個人名を前面に出したものも許容されている。

● 選挙の6ヶ月前から選挙の公示まで:政治活動にも制限が加わるようになり、一人で写って個人名を前面に出したポスターの掲示が不可となる。

● 選挙公示から投票日まで:政治活動に更に制限がかかり、すべての掲示物に制限がかかるようになる。候補者については決まったポスターしか貼れなくなる(選挙活動として)。


まあ、こんな感じです。かなり大ざっぱなのですが、あれは職人の世界なので細かく入れば入るほど分からなくなりますのでこの程度にしておきます。


ポイントが幾つかあります。選挙6ヶ月前になると、個人のポスターが貼れなくなります。この先が非常に面白いのですが、「個人のポスターは政治活動であったとしてもダメだけど、政党の政治活動としてならOK」と解することができる規定になっています。そこで発明されたのが「三連ポスター」という手法です。個人のポスターはダメだけど、政党が政治活動をするならOK→候補となる人の写真、名前がポスターに入っていたとしても、それが政党の政治活動と見なされうるのならOK、という論理構成になります。その結果がどうなるかというと、皆さんは時折「●●党演説会 弁士●山●夫、弁士●岡●治」みたいなポスターを見たことがあると思います。あれは実は個人ポスターではなく政党の政治活動用ポスターということになるのです。政党名が入っていて、弁士が二人以上いる、これは個人名を売り込むのではなく政党活動のポスターなのだ、そういうことになるわけです。一般的には、候補予定者とその所属する党の大物(党首とか)の写真が並んでいるケースが多いでしょう。あれは公職選挙法上は「選挙とは一切関係がない」という仕切りになります。ここでのポイントは「選挙活動ではなく(政党の)政治活動なのだ」という位置付けであることです。考えついた人間は偉いなあ、と思っていたのですが、どうもあの三連ポスターの手法を始めて導入したのは共産党だという話を聞いたことがあります。


ただ、「政党の政治活動」であることから来る一定の制限があります。候補予定者の名前が他の部分(もう一人の弁士が占める部分とか、政党の表示部分)よりも大きくなってしまうと、「やっぱり、それは個人のポスターだろ?」という疑いがあるという判断になります。したがって、三連ポスターだとすると以下のような計算式が成り立ちます。


(候補予定者の占める部分)≦(他の弁士の占める部分)

(候補予定者の占める部分)≦(政党の表示部分)

(候補予定者の占める部分)+(他の弁士の占める部分)+(政党の表示部分)=(ポスター全体)


簡単な不等式ですから、そのまま代入して解くと、

(候補予定者の占める部分)≦1/3×(ポスター全体)


つまり、候補予定者の部分がポスター全体に占める割合が1/3以下であれば良いという結論になります。なので、選挙の六ヶ月前になると、全体をピシッと1/3に割ったポスターが貼られるようになります。あのポスターが町中に増えてくると「おやっ、そろそろ選挙か?」と思ってください。


私がポスターを貼りに行った地域は選挙まであと少しだったのですが、以下のようなポスターが平気で貼られていました。選挙に慣れた人間なら違法ポスターだということにすぐ気づく代物です。何がまずいか?、政党部分が小さすぎて政党の政治活動用とは見なせない代物なのです、これ。



ちなみにこのポスターは枚数にも形状にも制限がありません。「政党の政治活動」という基本ラインを崩さなければ幾らでもやって構わないということになります。逆に言うと、政党に属しない人はこのポスターは貼れません。


しかも、この三連ポスター、選挙が公示されるとはがす義務が出てきます。たくさん貼れば貼るほど、はがすのはなかなか難しいですが、(一番お行儀良くやろうとすると)選挙用ポスターに張り替えることで対応できます。


さて、選挙に入るともっと厳しくなります。基本的に掲示物は決まったものしかダメです。個人のポスターは決められた場所にある掲示板にしか貼れません。したがって枚数が著しく制限されます(都市部だと700枚くらい)。ただ、ここにも「政党」が出てきます。ただ、衆議院議員選挙について言えば、「政党」には別途政党用のポスターが可能になります(1000枚)(この政党割当分の選挙ポスターを三連ポスターに貼り替える感じが望ましい)。この政党割当分も、詳細は述べませんが事実上は個人ポスターに近い扱いにすることが出来るので、結局政党に属しているかいないかで貼れるポスターの数が違ってくるのです(政党に属さないと公営掲示板以外に貼れるものがない。)。更には配布できるビラ、送付できる葉書にも制限が出てきます。先の選挙で無所属で出て勝ってきた「郵政造反派」の人達はそういうハンディを超えて勝ってきているのですね。感心してしまいます。


ということで、よく町中に貼ってある政治家のポスター、実はあれはあれで厳しいお作法があるのです。そうやって見ていくと、見え方が変わるかもしれません。私はすっかり見方が変わってしまいました。