私はせっかちなのでよく勘違いをします。そして、他人に迷惑を掛けたり、失敗したりします。その中でも「最低」の部類に入るのが、フランスにいた時の勘違いです。こればかりは今でも突然思い出して、その恥ずかしさにどうしようもなくなります。


フランスについてすぐの頃、アンジェという町で語学学校に行ってました。まだ、全然フランス語がお話にならない頃です。日々暗中模索でした。スーパーで、パン屋で、それはそれは色々なところで小馬鹿にされていました。そんな中、私の話を丹念に聞いてくれたのがソフィー(女性)でした。語学学校でオリエンテーションをやっていた大学生だったと思います。まあ、語学学校でバイトでもしていたのでしょう。とても私に親切でした。


ある時、カフェテリアでソフィーと一緒になることがありました。どういう話の流れだったのかはすっかり忘れてしまいましたが、ソフィーが私に「日本のオム(homme、男性の意)というのはどんな感じなの?」という問いを投げかけてきたのです。その時ばかりはとりあえず話している文の構造は理解できました。しかし・・・、どういう思考回路だったのか、「オム」を完全に聞き間違えてしまったのです。「homme japonais(オム・ジャポネ、日本の男性)」の「homme」が私には「オーム(オウム)」に聞こえてしまいました。1995年の夏のことです。当時、日本では某宗教団体が様々なかたちでメディアに取り上げられており、社会派の私は「Hmmm?? こいつは日本の社会情勢に関心があるのか?変な質問をするヤツだな。」とすっかり思考回路が何処か変なところに行ってしまいました。


「変」だと思いながらも、そこは外務省の在外研修できている身、きちんと日本の事情を伝えなくては、という使命に駆られて、緒方青年は説明を試みました。「日本では宗教事情が色々あってね・・・、最近は新興の宗教団体が華やかでね・・・」、「数ヶ月前、僕も地下鉄に乗っていた時、近くの駅で毒ガスが撒かれ・・・」とすっかり関係ない説明を繰り広げました。「やっぱり、これだけじゃ分かりにくいよな。ヴィジュアルで正確に伝えよう。」と更に勘違いして、「以前は東京都知事の選挙にも出たことがあって変な踊りを踊ってたんだよ。」とか言いながら、リズムに乗せて「しょーこー、しょーこー、あ●●●しょーこー」とあの奇妙な踊りの一部を実演してみたりもしました。


どれくらい通じたのか、通じなかったのかは定かではないのですが、おそらく言葉が辿々しい上に、意味不明のことを言い続けたあげくに変な踊りまで踊るこの青年は気が触れたに違いないと感じたに違いありません。精一杯頑張って「オーム」について説明した緒方青年に、ソフィーは一言、「で、その宗教とhomme japonaisと何の関係があるの?」。これまたきちんと聞き取れてしまいました。


「Hmmm??? おかしいなぁ。折角説明したのに・・・。」と思いはしたものの、私がとてつもなく頭が変な方向に行っているなど露にも思わず、結局気まずいままその場は別れてしまいました。帰りがけになって、色々試行錯誤した結果「あーあーあー、そういうことね」と思っても既に時は遅し。「変な青年」のインパクトを残しただけの自分がとてつもなく自己嫌悪でした。しかも、その後まもなく、私は別の町に移っていってしまったのでリカバリーショットも打てませんでした。


「日本の男性」について聞いてくるくらいだから、もしかしたら私に好意を持っていたのかもしれません(これまた勘違いかもしれませんが)。今となってはどうしようもない出来事でしたが、時々突然思い出しては、やるせない気持ちになります(それが今日でした。)。