私が役所を辞めて1年が過ぎました。色々と思うことはあるのですが、その中でも「紙はタダじゃない」という点について思ったことを書いてみます。結構、こだわりのテーマです。


霞が関を出て別の社会に出ると、途端に紙をコストとして捉える感覚が身に付きます。やっぱり日々ポケットから紙代が出ていくようになる(出ていくのを具体的に見るようになる)と、その金額の多寡にかかわらず、とても気になるようになります。あと、私は「(リッチな左翼に多い自画自賛で結構身勝手な)何が何でも環境保護派」ではないと思っていますし、ロハス男、ロハス女にはどうしても違和感がある人間です。ただ、目の前で大量に紙が無駄遣いされていると「あーあ、森林が・・・」と普通に感じる人間だということです。


A4再生紙ですと大量購入すれば1枚0.5円くらいになりますが、まあ、普通は1円弱といったところでしょう。単純計算で100枚で100円、1000枚で1000円です(もっと安いところがあるのは知っていますが、まあ、少量だと結構コストパフォーマンスが悪いのです。)。


私は役所にいた時、いつも居眠りをしていたり、時に騒がしい人間でしたが、一つだけ誰にでも自慢できることがあります。それは「紙を大切に使っていた」ということです。片面しか使っていない紙を集めて、ホッチキスの部分をスコスコと外して、それを机の下に山積みしていました。あまり重要でない書類とか、保存しない書類とかを印刷する時は裏の使ってない部分に印刷していました。ただ、難点はホッチキスの後がプリンターやコピー機に引っかかりやすいことです。なので、そういう紙で印刷する時は深夜、誰にも迷惑を掛けない時間帯にやっていました。ただ、某上司から「なんだ、この書類は?裏にまで色々書いてあって読みにくいな。綺麗な紙に印刷してくれ。」と言われたこともあります。まあ、その時はへいへいと頭を下げながら、「おっさん、その感覚じゃダメだな。」と思っていましたけどね。


(ちなみに在任時に毀誉褒貶の多かった川口外務大臣。前ポストが環境大臣だったためか、省紙化には熱心でした。大臣就任当初、「書類は両面コピーで持ってくるように」という指示が省内に流れたのを今でもよく覚えています。色々批判される大臣でしたが、そういう常識的な感覚を持った人だったと想起します。)


お役所ではすぐに大量のコピーを取ります。すぐに書類を作るのはお役人の習性なので、あまりあれこれ言えないのですが、大量コピーはあまり褒められたものではありません。よく20枚の書類を50部コピー(つまり1000枚)とかした後で、平気で「あーちょっと書類に幾つかミスがあったから、手で差し替えるのも手間だし、もう1回全部コピー取り直して。」なんてことは多々ありました。「1000円のコストが掛かる上に、森林が消えていくぞ。」と思いはするのですが、なかなかこういう構図が改められることはなかったように思います。一日にどれくらいの紙ゴミが出るかは知らないのですが、一省庁だけで一日100キロ単位でゴミになっているような気がしました。まあ、紙はタダ、無尽蔵に使えるくらいの感じで考えている人は少なくないでしょう。


この紙の無駄遣い、役所にいた間もひどいもんだと思っていましたが、もっとひどいところを見つけました。「国会」です。ともかく、何でも紙でやってきます。公報、官報、お役所の持ってくる書類、陳情、供覧等、ともかくとてつもない紙がやってきます。永田町にある議員会館の各階のゴミ置き場には、毎日のようにそれはそれは大量の紙ゴミが捨てられていってます(しかも、残念ながら裏紙として使えないものが多い)。あれが通常の感覚になっているというのが、私には結構驚きでした。その大半は殆ど振り返られることのないまま捨てられていくのです。


役所が書類をたくさん作る理由、役所に紙ゴミがたくさん出る理由、議員会館に山のように紙ゴミがある理由、これ結構繋がっているのです。原因は主に2つです。


● 役所側の原因:責任回避

● 議員側の原因:自尊心


まあ、簡単なことです。何かを議員に「連絡した」ということを最も明確に証明できるのは「書類にして渡すこと」です。書類にして渡せば、役所側からすれば、後刻「知らないとは言わせない」くらいのところまでは言えるようになります。そうすると、自ずと何でも書類にして議員に渡すようになります。これは役所・国会間のやり取りの一部に過ぎませんが、大体、お役所の仕事の仕方というのは「あとでゴチャゴチャ言われないエクスキューズ(言い訳)だけはできるようにしておく」ことが根本にあります。そうすると、一番良いのは書類にして、具体的に紙にして渡すことなのです。その力学は別に対国会だけではなく、お役所内部、お役所間でも妥当します。そして、自ずと書類の数が増えていきます(ちなみに責任回避型お役人の典型は国会事務局です。)。議員事務所にいると、ホントにくだらないものまで届けられてきます。


議員側の理由ですが、自尊心とかプライドの強い人が多いので、どうしても「(特定の案件に関し)自分にも連絡があった」という事実を大切にします。議員が一番怒ったり、へそを曲げるのは「中身がけしからん」時ではありません。「オレは聞いてないぞ!」という時です。往々にしてそういう時は「あなたは聞いてなくても、物事はきちんと進展していますから大丈夫です」という場合が多いのですが、そんなことを言おうものなら逆鱗に触れてしまいます。結局、そういう「知っていても知らなくてもいいおじさん」にまで手当が必要になるのです。


そういう「オレは聞いてないぞ」と吠えやすい人種の人と、「できるだけエクスキューズは用意しておきたい」という思惑の人が接点を持つと、どうしても書類の数は増え、そしてもその書類は読まれず、議員会館の階毎に毎日数十キロ程度の紙ゴミが溜まるということになります。今もゴミ捨て場を見ましたが、もうひどいもんです。行政改革、国会改革を言う前にまずこの惨状を見ろよなとボヤいてます。


「紙はタダじゃない」、当たり前といえば当たり前なんですけどね。最近特に強く感じます。