ここ数年、特別会計が叩かれています。有名なのは塩川財務大臣の「母屋(一般会計)でおかゆをすすっている時に、はなれ(特別会計)ですき焼食ってる」というフレーズです。言葉は人を動かす、そういう名文句だと思います。


財務省から貰った特別会計の資料を大体読んでみました。


http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai_qa1804a.htm

http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai1804.htm


まあ、よくもこんな理由で特別会計を作ったもんだと思いたくなるものもあります。一概には言えないのかもしれませんが、予算の大半が一般会計からの繰り入れで賄われているものとか、事業そのものを政府がやる必要があるのか疑問があるものとか、そんなものが結構あります。得てしてお役所は「●●が必要な理由」を考えて説明する能力は非常に高いのですが、「●●でなく、他のやり方ではダメな理由」にまで踏み込んで正当化することはあまりやりません。各特別会計についても、問うべきは「何故、一般会計で処理してはダメなのか」についてなのです。そのあたりの検証なきまま各特別会計のポジティブな面だけを見ている(見せようとしている)ものがあまりに多いと感じます。このご時勢、Needを説明するだけではダメなのです。それがBestであるところまで説明できないと何事も正当化してはならない。そういう厳しい目を持ちたいものです。


特別会計になると、一般会計と異なり国会審議に係る資料もとても薄っぺら(それでも厚いですけど)くなります。一部の特別会計には、財務省や国会議員にゴチャゴチャ言われずに自由度の高い予算を持ちたいという気持ちがないといったら嘘になるでしょう。私は外務省という特別会計とはほとんど縁のないお役所にいたので、その実態はよく分かりません。ただ、かつて某省の方と一緒に海外出張した際、我々は普通に大使館差し回しのバスで移動していたのに、一部の方が別途車を手配して独自の動きをしていたのを思い出します。なんでも「特別会計から出張予算が出ているから」ということで、会計処理が普通の人とは違っていたようです。そして、会計処理が甘くなるという現象があったわけです。


ただ、世間でよく聞く「特別会計批判」にはトンデモないものがあります。特別会計だけを純粋に足し合わせると500兆円近くになります。特別会計間のお金の出入りを差し引いて225兆円くらいです。これをすべて一緒くたにして、「一般会計の数倍の予算を影で無駄遣いしている」と批判している人達がいます。ひどいのになると「特別会計を全部潰せば、国の借金は返せる」みたいなのまで見たことがあります。自称経済評論家と名乗るおじさん達の中にもこういう愚かな批判をしている人達がいます。少し資料を読めば分かる話です。ああいう扇情的な言論でお金を貰っちゃいかんよと感じます。


私が財務省から貰った資料はそのあたりをやんわりと嗜める内容になっていました。たしかに特別会計の中には、国債償還管理のためのもののように事業性が全くなくて、国全体のお金を回していくためにある特別会計が幾つか存在しており、そういうのを外していくと、実際に「はなれ」に当たり、改革の対象となるのは12兆円だと言っています。最近、お役所の方からは「実は改革の対象は225兆円ではなくて12兆円」という説明をよく聞きます。まあ、その背景には別ルートで改革を進めているので、特別会計制度そのものを切り口とした改革の対象とはしないものがあるという理屈です(例えば、地方交付税交付金は三位一体改革で、社会保険給付は社会保障制度改革でやるべきで特別会計改革の射程からは外すということらしい。)。


ただ、私はこれも「ちょっと嘘っぽいなあ」と思っています。例えば、財務省は「財政融資資金特別会計」を、特別会計改革の対象範囲から外しています。これはいわゆる「財政投融資」に当たるものなので、財投改革の一環として既に別のルートで取り組まれているということのようです。元々、小泉総理は郵貯資金からの預託が財政投融資を経由して、無駄な特殊法人に回るのを止めさせるために郵政改革をやっていたんだと理解しています(「お金の入口を閉めれば特殊法人の無駄遣いはなくなる」的な発言を何度も聞いた。)。昔は郵貯は義務的に財政投融資に預託されていましたが、2001年以降自主運用になりました。ただ、預託は減ってきているものの郵貯は財投債を購入して(財投債の発行額は近年非常に伸びている)、結局財政投融資にお金を流しつづけています。それはやっぱり特殊法人に流れているわけです。常識的に考えれば、これは会計制度にもある程度原因があるのではないかという結論になります。単なる特殊法人改革には収まりきらない部分があります。そうやって考えていくと、特別会計の改革の対象からこの財政融資資金特別会計を外すという論理は本当に正しいのかね?と思います。財務省の言う「特殊法人改革は別のルートで行っているから、今、取り組んでいる特別会計の射程からは外す」という理屈は分からなくはないのですが、何処か「見ない振り」をしていないか、「特別会計の無駄はそんなに多くないんですよ」というふうに世論を誘導しようとしているのではないか、そんな印象を受けます。どうしても、私の頭の中では財務省が言うような「会計制度という観点から無駄遣いをきちんと見張って改革しなきゃいかんのは特別会計の中でも12兆円分だけだ。」という説明は「変なの?」という気がしてなりません。


まあ、いずれにしても「特別会計」が注目を集めていることはいいことです。一般会計よりも自由度が効く予算なんて、えてしてロクなもんではありません。12兆円がどれくらい削れるのかは分かりませんが、一般会計に繰り込めるものは全部繰り込んで、事業もきちんと精査して、1円でも2円でも頑張って削んなくちゃいかんと思います。上記でも書きましたが、お役所にそう言うと「うちの所管する特別会計が必要な100の理由」みたいな書類を作ってきて説明しに来ます。そんなのを全部聞いていたら頭が変になります。時には玉石混交なものを「玉」の部分も含めて果断に叩き切ることも必要なんだろうと感じます。


乱暴な議論ですが。