北朝鮮人権法(その1)では明確に書きませんでしたが、この法律だけを読んでも「具体的に何をするのか」がよく分かりません。その一方で「この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない」的な条文がありません。おそらく、この法律を受けて新たに新規立法をするつもりはないのだと思います。


そういう前提で考えると、北朝鮮人権法第六条2の「政府は、脱北者の保護及び支援に関し、施策を講ずるよう努めるものとする。」は、「既存の法律の範囲内でできることをやるように努める」ということになります。これは大きなポイントです。「既存の法律の範囲内」ということと「努める」ということが鍵になります。



第七条の制裁部分には既に北朝鮮を念頭に置いた法整備が進んでいるので既存の法律でも具体的なイメージが得られます。しかし、第六条2の「保護及び支援」は何か現時点で、ある程度北朝鮮を前提にした具体的な法律があるわけではないので、愚直に現行法で何ができるかを考えるしかありません。


じゃあ、既存の法律で北朝鮮籍の人に何ができるかと思って入管法などをあれこれと見てみました。私が達した結論から言うと(漏れがあるような気もしますが)、


○ 例えば大使館等に逃げ込んできた場合:まあ、大使館不可侵の範囲で保護する。食事、住居等の支援も与える。

○ 日本に入国する場合:脱北者が渡航証明書(ビザみたいなもの)申請又は入国の際に難民でないとの前提に立てば渡航証明書を出す際に若干の配慮をするくらいか。外務省や法務省が審査において一定の配慮をするという程度ではないか。

○ 日本に入国した場合:何ができるんでしょうね。予算措置等が取られているわけではないので、拉致被害者に対する財政支援(法律あり)のようなことはできません。生活保護とかなんだろうと思います。生活保護法は国籍条項がありますが、外国籍の方にも定住等の一定の条件の下、生活保護法を準用しているようです。じゃあ、どれくらい貰えるかというと、30代の母親と小学生の子供2人で、生活費としては月に15万円(都市部)程度。その他、母子加算、教育費、住宅費、医療費等だそうです。まあ、それくらいは貰えるのでしょう。


多分、これくらいじゃないかと思います。それ以上のことは現行法上は無理でしょう。一番ポイントは入国の際、この法律の「保護及び支援」という趣旨を受けて、外務省と法務省が何をするのかだと思います。私はこのあたりは、ゆるゆるの審査となることはないと信じています。


結局、第六条2については、そんなの物事が大きく変化するわけではないのではないでしょうか。実務の現場においては政治的なメッセージの範囲を超えないと思います。