アフリカの政治について考えてみたいと思います。アフリカというと、ちょっと馴染みがないかもしれません。私も勤務しなければ関心を持つことはなかったかもしれません。私が肌で感じたアフリカの見方について書いてみます(ただ、私の経験はどちらかというと西アフリカに偏っていますので、東部、南部アフリカについてはあまり大したことが言えません。)。


【アフリカの国のまとも度を測る指標(案)(1.→6.でまとも度が下がっていく)】

1. 大統領選をやると、誰が勝つか分からないくらい競る。かつ、その結果を尊重しない勢力が許容されない。 しかも、大統領がポストに長居しない。

2. 大統領が名君なので、大統領が比較的出来レース気味。ただ、それ自体はあまり問題にならない。

3. 大統領選が出来レース。しかも、大統領が独裁者で問題多し(今の大統領が死んだら国が荒れる)。

4. 大統領選がある程度公正に行われるものの、その結果を尊重しない勢力が許容されてしまう。

5. 現在、過渡期の国。

6. それ以前の問題として、国に纏まりがない。


まず、大統領選で競争が働くというのは途上国では極めて重要な要素です。1990年くらいまではそんな国は殆どありませんでした。1990年くらいから冷戦の終結を受けて、アフリカでも民主主義という概念を取り込もうという動きが出てきました。その流れに乗って成功した国が幾つか出てきています。1.の範疇に入るのはセネガルのアブドゥライ・ワッド、マリのアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ(ATT)、ベナンのヤイ・ボニ、ケニアのムワイ・キバキ、ガーナのジョン・クフォーといったところだと思っています。これらの国では、公正な選挙が行われる文化が根付いたと言っていいと思います。


私が昔から「この国は良い」と目をつけているのがベナンです。一時期、よくテレビに出ていたゾマホンの国です。ここは1990年くらいまではマティウ・ケレクーという共産勢力側の独裁者がいたのですが、90年代前半の民主化の流れの中で国民会議を開催し、ニセフォール・ソグロが首相に。ソグロはその後、ケレクーを破って大統領になる。ただ、ソグロはあまり評判が良くなく、しかもヨメが輪をかけて悪評が高く、1996年の選挙では(心を入れなおした)ケレクーが大統領に復活。最近、大統領選挙がありましたが、それまで政権中枢にいたアドリアン・ウンベジ元首相・元国会議長を、ヤイ・ボニが破って大統領に・・・、という感じです。まあ、欧米諸国ではありふれた内容かもしれませんが、このプロセスがすべてクーデターなしで実現されているのはアフリカでは驚くの部類に入っていると言っていいでしょう。下記でも書きますが、お近くのトーゴーやコートジボワールがお粗末なのでベナンの安定振りが目立ちます。


しかし、それと同じくらい重要なのが2.のカテゴリーの「名君」の存在です。アフリカでは立派な大統領のおかげで分裂せずに、それなりに纏まっていけるという国が結構あります。 実はここでのポイントは「民主主義」ではないのです。アフリカではむき出しの民主主義が実現するよりも、名君が出る方が遙かにましという状況が多々見られます。特にそれは多民族国家では顕著です。 今、大統領が名君だな、と思わせるのは、ウガンダのムセヴェニ、タンザニアのキクウェテです。与党がガッチリ強いので、選挙が出来レースっぽいのですが、大統領がしっかりしていることが国の名声を高めているという感じでしょうか。私はこの「名君」の存在というのは大きいと思います。ナイジェリアのオルシェグン・オバサンジョ、ニジェールのママドゥ・タンジャなんかも、国は相変わらず不安定ですが、しっかりやっていると思います。実は数年前なら、ここに間違いなくブルキナファソのブレーズ・コンパオレを入れたところなのですが、どうも最近独裁、不正の度合いが高まっているような気がします。少しずつ、2.から3.のカテゴリーに落ちていっているのではないかと懸念しています。


3.のカテゴリーはよく見る必要があります。一見安定しているように見えるからです。ゴリゴリの独裁政権というのは、その内部をよく見ていく必要があるのです。自画自賛になりますが、私は7年前くらいから「絶対にモーリタニアとチャドは危ない」と言い続けていました。当時、両国は安定していたのですが、どう考えても特定の地域を優遇する政策がおおっぴらにまかり通り、大統領がかなりひどい独裁を敷いていたのを見てそう判断したものでした。今やモーリタニアのウルド・タヤは放逐され、チャドのイドリス・デビーも息絶え絶えです。ともすれば、「安定している」ということを評価したくなりますが、そこは国の中枢がどれくらいしっかりしているかを見ないと長期的な見方を誤ります。私がお勧めする指標は「今の大統領が突然死んだらどうなるか?」を想像してみて、荒れた国が想像できればその国は潜在的不安定、粛々と大統領選が行われることが想像できるのなら、1.のカテゴリーの国と言っていいと思います。3.のカテゴリーはガボン、カメルーン、赤道ギニア、ガンビア、コンゴ共和国、トーゴあたりかなと思っています。


4.は低い評価を与えるのが躊躇われるのですが、こういう国がまだあります。例えばギニア・ビサオ。何度まともに選挙をやっても不満な人がクーデターを起こします。こういうことがアフリカでは起きてしまうのです。実はこのカテゴリーの国が一番かわいそうなのかもしれません。コンゴ民主共和国も似ていますね。映画にもなったパトリス・ルムンバの時代からどうもまとまりがありません。まあ、国が広大すぎて東西南北間でのコミュニケーションが成立しないので仕方ないのですが。アフリカでは「民主主義を実現すれば世界は幸せ」というテーゼが成り立たないことがよくあります。日本政府も無邪気に「民主主義」と話していますが、その時に何を話しているのかが不明なこともよくあります。この点は(その2)で書きます。


5.は最近上手く行きつつあるかもしれないので乞うご期待という国です。ブルンジ、ルワンダ、リベリア、アンゴラといった国です。安定しているとはとても言えないのですが、良い兆しが見えてきているかもしれないという国です。


6.はちょっと手がつけようが無いという国。まあ、今だとシエラレオネ、コートジボワール、ソマリア、コモロなんかそうですね。コートジボワールなんかは、元々1980~90年代前半までは「アフリカの象」と銘打って、アフリカの星だったのですが、名君ウフェ・ボワニの後のアンリ・コナン・ベディエが悪かったですね。狭量な人間でクーデターを引き起こしてしまいました。日本政府は、クーデター6ヶ月前のベディエを訪日招待しているんですよね。当時から「センスねえなあ」と思っていました。


まあ、好き勝手に書きました。あまり詰まっている指標でないところもあります。ただ、ある程度アフリカの政治をしっかり見る目を持たないと日本政府はアフリカで役割を果たせないでしょう。かつて、こんなことがありました。1998年のトーゴ大統領選挙だったと記憶していますが(2003年だったかも)、1967年から大統領をやり続けていたニャシンベ・エヤデマがかなりインチキをやって大統領に再選したのですが、それに対して欧米は援助をボイコットしました。ただ、日本は既に援助を閣議決定したという事実だけをもってトーゴに援助を実施。国際社会からお灸をすえられているはずのトーゴに、「けど、日本は支援してくれるもんね」という勘違いをさせてしまいました。まあ、センスのない話です。援助と政治を絡めすぎてもいけませんが、政治センスの無い援助は最悪です。


ということで、最後に小泉総理のガーナ、エチオピア訪問なんですが、エチオピアはアフリカ連合の本部があるので分かるとしても、なんでガーナかね?と思います。ガーナは上手く行っている国ですけど、今、日本として良いメッセージを送る対象かねぇと「?」を付けています。野口英世しか、アフリカでの外交資産はないんかいとちょっと残念になります。もっと、アフリカの中を良く見てよ、色々な動きあるんだからと言いたいです。