最近、スーパー内を徘徊しては、片っ端から商品を裏返して見るという「変なおじさん」をやっているのですが、「そういえば、遺伝子組換え作物って結構輸入していると聞いたんだけど表示されてないよな。」ということに気付きました。どれを見ても「遺伝子組換え●●不使用」と、「使ってませんよ」ということばかりが書いてあります。


 まず、輸入量を調べようとしました。早速挫折。何処にもそういうデータは無いのです。そもそも全体像は把握していないみたいです。政府は明確に「把握していない」と答えているみたいです。


質問:http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/139/syuh/s139003.htm  

答弁:http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/syuisyo/139/touh/t139003.htm  


 しかも、相当量輸入されているみたいです。まあ、アメリカで作られているものの内、日本に輸出されるものの中に平均的に遺伝子組換えが含まれていると仮定したとしても、とうもろこしで30%強、大豆で60%強と結構な数量が輸入されているようです。全然知りませんでした。


http://www.s.affrc.go.jp/docs/genome/saibaikentoukai/h1511/sankou3.pdf


 まあ、ともかく「数量は結構入っているらしい」ということと、「あまり見ない」ということのギャップについて考えてみようと思い、遺伝子組換え作物の表示について調べました。ザクッと言って大体、こんな感じです。


● 対象:大豆、とうもろこし、じゃがいも、菜種、綿実、アルファルファとその加工品31種(大豆なら豆腐、みそ、きなこ、とうもろこしならコーンスナック、コーンスターチ、じゃがいもならポテトスナックなどなど)。これ以外の「製造の過程で組み込まれた遺伝子やその遺伝子が作る新たなたんぱく質が検出されない場合」には表示は不要だそうです。つまり、菜種油とかしょうゆとか、そういうものは遺伝子組換え作物で作っていても遺伝子組換えの表示が不要だということです。


● そのしくみ

(1) 生産流通段階を通して分別された非遺伝子組換え農作物を原料とする場合は表示不要(「非組換え」などの任意表示可能)

(2) 生産流通段階を通して遺伝子組換えが不分別の農作物を原料とする場合は「遺伝子組換え不分別」などを義務表示

(3) 生産流通段階を通して分別された遺伝子組換え農作物を原材料とする場合は「遺伝子組換え」などを義務表示

(4) 飼料用、工業用も食品とは直接関係がないので表示不要。

(5) 原材料の重量に占める遺伝子組換原料の割合が「上位三位以内で、かつ5%以上」でない加工商品も表示不要。


 ということで、現在表示が義務化され対象となる遺伝子組換え食品は1割程度だそうです。 まあ、それにしてもここまで除外してしまうと「表示の義務化」とは言えないなと思います。表示が除外されている部分が多いので、私がスーパーでどんなに商品をひっくり返して探そうとしても「遺伝子組換え作物を含む」という表現は出てこないわけです。まあ、普通に考えれば「含んでいる」と書けば、売り上げは半減、いや更に下がるでしょうから、そんなものを書き込むはずが無いんでしょうけどね。


 EUなどは表示の基準が厳しいので、例えば、3%の遺伝子組換え大豆を含む豆腐というのは、EUでは遺伝子組換え作物を含むということになり、日本では含んでいるという情報を提供されないということになるわけでしょう(多分)。


 ここで思ったのが、加工食品の中でも表示が義務的なもの(上記で述べた31種)とそうでないものがあります。この加工食品において、「何の表示もない」ということの意味を考えてみたいと思います。素直に考えると、


● 表示が義務付けられている加工食品で何の表示もない場合 → それは「遺伝子組換え作物を含まない」ことを意味します。


● 表示が義務付けられていない加工食品で何の表示もない場合 → 遺伝子組換え作物を含んでいるかどうかは全く不明であるが、日本が大量に遺伝子組換え作物を輸入していることを考えれば含んでいる可能性が高いです(最近はこの種の加工食品でも自主的に「含まない」と書いてあるケースを多々見かけますが)。


 ちょっと自信がないのですがこういうことではないのでしょうか。見えない部分で使われていると言うと、厚生労働省も農水省も「安全性が確認できているから表示不要としているだけ。そういう言われ方は心外だ。」という反論になるんでしょう。


 しかし、国民のうち、どれくらいの人が上記のように「6作物、31加工品のみが表示の対象。それ以外は表示義務なし。」ということを前提に考えているでしょうか。普通、何も書いてなければ「政府は『遺伝子組換え商品には表示が義務付けられている』と言っていたけど、ここには何も書いてないから遺伝子組換え作物は含まれてないのね。」と思うでしょう。それって、安全性以前の問題として、自分が思っているものと異なったものを食べているという時点で何かが間違っているような気がするんですよね。


 農林水産省がアンケートをとっています。

http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/pdf/sankou1_6.pdf


 ちなみに余談ですが、このアンケートは、よくお役所がやるように誘導質問をしたあとに色々な感想を聞いているので公平なデータといえるかどうかは疑問です。「政府が安全性を確認していることを知っていますか?」と聞いた後に、「安全だと思いますか?」と聞かれれば、そりゃ一定の誘導がかかっているんじゃないでしょうか。統計学的に本当に評価しうる統計かどうかは疑問ですが、それでも一定の不安、疑心があるというのが一般の方の正直なところでしょう。


 ここまで読んで「とどのところ、おまえは遺伝子組換えに反対なんだな」と思った方、残念ながら違います。私は多分、遺伝子組換え作物をあまり気にしない人間です。ホイホイ食べてしまうでしょう。しかも、これから穀物をめぐる世界的な競争が始まるでしょう。中国や韓国と穀物を取り合う時代も遠くないでしょう。今でこそ選り好みしていますが、もしかしたらアメリカやブラジルに「遺伝子組換えでも何でもいいから穀物を売って下さい」とお願いする日が来るかもしれません。そうなった時にきっと遺伝子組換えという技術は日本にとっても有益だと確信しています。


 ただ、私が問題にしているのは、「技術的なことは自分にはよく分からないが、気味が悪い、食べたくない、不安だと思っている人がいる以上、その人には知って選択する権利を与えなきゃいかんだろ。」ということです。それを「大丈夫だから安心して食え」というのはおかしな話です。



 今は大量に輸入されているにもかかわらず、大半の人は自分が食べているものの原料が遺伝子組換えを含んでいることを知らないわけです。知っていたら、(安全性が確認されているかどうかにかかわらず)そんなものを食べるのはイヤだと思う人もいるでしょう。私は上記の通り「そんなこと言ってられない日が来るかもよ」と思っている人間ですが、それでも選択の自由はきちんと提供されなくてはならないという強い信念を持っています。


 何故、表示を制限的にやっているのかというと、私にはよく分かりません。「技術的な観点から表示は要らないと判断した」のかもしれませんし、「遺伝子組換え原料を含むと表示すると売れなくなるから懸念したアメリカの陰謀」という人もいるでしょう。私は一般論として、いわゆる「アメリカの陰謀」論が大嫌いです。日米間に何かあると「それはアメリカの陰謀だ」とぶつ論者がいます。そういう人がテレビに出ると一定のウケを取っています。ああいう人は、実は逆の意味で精神がアメリカの従属しているんだなと思っています(とりあえず、責任を全てアメリカに押し付ければ事は済む)。ただ、今の遺伝子組換え作物の表示制度が非常に「おそるおそる」やっていることは事実だと思います。なんでかなと思うと、それは「表示すると売れなくなるから」でしょう、普通に考えれば。そうすると、「おそるおそる」やることのメリットが帰属するのは生産者側だと推定されますから、結局、どちらの方向を見ながら今の制度を構築しているのか、何となく見えるような気もします(口はぼったい言い方ですけどね)。


 最後に参考となるサイトを紹介しておきます。なかなか奥の深い世界だなと思います。


農林水産技術会議(農水省)のQ&A

http://www.s.affrc.go.jp/docs/anzenka/qanda.htm


厚生労働省のQ&A

http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/kakou3/index.html#1

http://www.mhlw.go.jp/topics/idenshi/qa/qa.html


皆さん(特に男性の方)、スーパーの食料品売り場は結構楽しいです。また、(その3)でも書きますが、本当に色々な発見があります。あれこれ商品をひっくり返してみて下さい。