日中関係、あまり大上段に構えるとすべってしまうので、まずは小さく始めてみたいと思います。日中関係を考える時に日台関係を切り離して考えることは出来ません。その基礎となるのは1972年の日中共同宣言になります。

台湾部分といえば、
二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

が該当します。これだけなのですが、これを正確に読むのにはちょっと力が要ります。そのまま読んだところで、その意味するところは把握できないでしょう。「台湾は中国のものだということなんだろ。」と言う人は多いのですが、ちょっとニュアンスがかかっています。


(以下は、http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/2382/1/A03890546-00-074A40039.pdf に依拠するところが大です。なかなか面白いので、日中関係に関心のある方は読まれるといいでしょう。あと、外務省のかつての同僚から「職務上知り得た情報」の漏洩だと言われて、国家公務員法で訴追されないように気をつけてやりたいと思います。)


まず、この背景には「サンフランシスコ平和条約第二条で台湾を放棄したので、わが国は台湾の帰属について発言する立場にない」という日本政府の公式的な立場があります。日本が国際社会と和平条約を結んだ時、「台湾はうちの領土じゃありませんよ」と言っているわけです。ただ、「うちの領土じゃないけど、何処の領土か」ということは明らかになっていません。

第三項の「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」ことは中華人民共和国政府の立場です。日本はこれを十分理解し、尊重するのですが、一般的に「尊重する」というのは、外交的には少し弱い表現です。日米安保条約などでは「法令尊重義務」というと「守るよう努力するけど守らなくても法的に追及することは出来ない」くらいのところまで下がってしまう表現です。したがって、例えば「承認」なんかと比較すると弱いです。

しかも、日本は昭和47年11月8日予算委員会の大平外相答弁で政府統一見解として、「わが国は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるとの中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重するとの立場をとっております。したがって、中華人民共和国政府と台湾との間の対立の問題は、『基本的には』、中国の国内問題であると考えます。わが国としては、この問題が当事者間で平和的に解決されることを希望するものであり、かつ、この問題が武力紛争に発展する現実の可能性はないと考えております。なお、安保条約の運用につきましては、わが国としては、今後の日中両国間の友好関係をも念頭に置いて慎重に配慮する所存でございます。」と表明しています。このポイントは「基本的には」というところで、ここに万感の思いがこもっています。ここで言いたいことは「基本的には国内問題だけど、武力侵攻がある場合には国内問題じゃないよ」ということです。


そういう理解の下、日米安保条約の極東条項の政府統一解釈(昭和35年岸総理答弁。日米安保条約の条約区域に台湾を含むとしている。)とも整合性を取りつつ、対中国外交を展開してきたということです。その後、78年日中平和友好条約、98年日中共同宣言がありましたが、まあ「一つの中国、一つの台湾」、「二つの中国」といった政策をとらないみたいな意図表明はありましたが、まあ、そのあたりは一線を踏み越えないように頑張ってきたと思います。


一方で、台湾側も陳総統は「在任中に独立を宣言しない、国名を変更しない、二国論を憲法に盛り込まない、統一か独立かといった現状の変更に関する住民投票は行わない」という4つのノーと「国家統一綱領や国家統一委員会を廃止しない」という1つのナッシングからは動かないでしょう。


じゃあ、今後、日本はどういうメッセージを送っていくべきかということなのですが、まあ、簡単に言えば「現状維持。武力侵攻は認めない。協議で統一するなら歓迎。」ということをもっとはっきり言っていくということだろうと思います。急激に政策の根幹を変えていくことは難しいでしょう。1972年宣言、1978年友好基本条約、1998年共同宣言に加えて、以下をこちらから(半ば一方的に)表明するというのはどうかなと考えたりします。実はあまり真新しい話はないのですが、改めて取り纏めて日本の基本政策として表明することは意義があるはずです。

(1) 台湾の4つのノーの一部をわが国の追及すべき政策として取り込む。

(2) (1)の対価として昭和49年大平答弁の「基本的には」の部分をもう少し明確にして、「武力行使の場合には内政事項とは見なさない」的なことを基本政策に取り込み、日米安保ともほんわかとリンクさせる(昨年2月の日米共同宣言で「地域における共通の戦略目標」として「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」ことを挙げたこと等)。


これなら、これまでの路線を維持しながらでもできる政策表明でしょう。両方に対するメッセージが盛り込まれており、良い圧力になると思います。外務省の元同僚、元上司には高評価を貰えないでしょうが、なんとなく「まあ、こんなとこじゃないの」と勝手に納得しています。


勿論、こんなことを言うと中国は強く反発するでしょう。ただ、これに徹頭徹尾反発して、決定的に日中関係が悪くなることもないでしょう(あちらにも内政上、軍との関係上言わなきゃいけないこともありますから。)。勿論、言い方やタイミングは要検討ですが、今の路線を維持しつつも、日本の毅然とした姿勢を見せていくにはこれくらいやってみたらどうかなと考えます。今の若干曖昧さの残る政策にも味が残りますけど、これだけであと30年中台と付き合っていけるかというと疑問が残ります。曖昧政策は長くやりすぎると相手方(この場合、中台両方)フラストレーションが溜まりますしね。


台湾ほど、親日的な場所はありません。もっと大切にしてあげていいんじゃないかねと感じます。メシは美味いし、気候も良い。おまけに付け加えれば、日本人男性がモテる数少ない場所です。