教育基本法が盛り上がっています。「愛国心」について議論が百花繚乱になっています。私は比較的教育については自由競争的な発想の持ち主なのですが、私がそういうことを言うと、すぐに「東大→外務省みたいなエリートコースを歩んだ人間に言われたくない」と批判されるのでやりにくいです。まあ、それはともかくとして色々思ったことを書いて見ます。


外国生活をしていたせいかもしれませんが、「愛国心、当たり前じゃないか」と思います。自分の生まれた国を愛し、誇りに思うのは当たり前ですよ。「愛国心を謳うのはおかしい」という主張が罷り通る国なんて、日本以外で見たことがありません。フランスに行けば「Vive la France(フランス万歳)」というのは皆に共通する感情です。アメリカに行けば「USA」のシュプレヒコールを聞くことは多いです。昔、ブルース・スプリングスティーンが「Born in the USA(アメリカに生まれて)」というアルバムを出して1000万枚近く売ったことがありました。それくらい、自分の国で生まれたことを誇りに思えるわけです。


(注:勿論、何処の国でもゆがんだ愛国心の表れとして、極右や排外主義が生まれるという現象はありますが、だからといって「愛国心」自体を否定する議論には絶対に繋がりません。)


よく、人は言います。「戦争中、お国の名の下に悲惨な目にあった。それを繰り返してはいけない。」と。それも変な話です。戦後60年、平和の道を歩んできたその積み上げはそんなに脆いものなのでしょうか。そんなに我々は「ともすれば、愛国心の名の下に戦争に行きかねない」人々なのでしょうか。愛国心を否定する人は、「日本は戦後の平和主義の積み上げに自信を持てない人達である」という議論から出発しているのかなあと不思議になってしまいます。


あと、混同されているなと感じるのが、「国」と「政府」の違いです。小泉政権のやっていることが嫌いだから、これまでの自民党政権のやってきたことが嫌いだから、というところから「愛国心」反対という議論になる人がいます。「政府」が嫌いなのと「国」が嫌いなのは別物じゃないですかね。「日本は好きだけど政府は嫌い」、これが自然に成り立たないのであればおかしなことです。一つの仮定を置いてみたいと思います。「愛国心」反対と言っている人が仮に政権に就き、それらの人が望む施策がすべて実現したとしましょう(それはそれですごい世界ですが)。その時にも、それらの人は「愛国心」反対と言うでしょうか。自分たちが望むユートピアが実現しても「愛国心」がダメだというなら、それはかなりのアンチ国家主義者であって、そもそも政治の中枢に関わることが適当でないのではないかと思いますし、逆に「そういう国ならOK」なのであれば、その人は「国」が嫌いなのではなくて、「政府」が嫌いなだけです。この議論、変ですかね。


私は健全な愛国心を教育の場で伝えることは全く問題ないと思いますし、当たり前だと感じます。とは言え、「愛国心」を学校で教えることを直接的に教育基本法に盛り込むことに反対する人達が多数いて、全国民の相当な部分を占めているのも事実です。その民意は(完全に納得できるものではありませんが)尊重することが必要だとも思います。


ということで、今の与野党の案を見ていくと、


■民主党(前文)(我々が目指す教育は)日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求することである。


■与党案(第二条5項(教育の目標))伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。 となっています。


自民党の案を評すると、むき出しの「愛国心」でないところに苦心の跡が見えます。「愛国心」ならどんなものでも良いということではなく、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた」「我が国と郷土」ということで歯止めがかかっていて、しかも「我が国と郷土」という若干郷愁を誘う表現になっているのも苦心の跡が見えます。


民主党の案は「日本を愛する心を涵養し」と簡潔です。「国」という権威的な印象を与えうる言葉を避け、しかも自然に湧いてくるニュアンスの強い「涵養」という表現を使っています。能動的な意の強い「養う」よりも一歩下がった感じです。しかも、法の具体的な規定ではなく、目的等を書く「前文」の部分に置いたという配慮も見て取れます。


さて、どっちが良いかというと、民主党の方が上手いと思います。どう上手いかと聞かれると難しいのですが、より多くの人を取り込むための仕掛けが多くなされているということに尽きるでしょう。自民党の中にも「やられたなぁ」という思いを持っている人は少なくないのではないでしょうか。私は上で述べたとおり、もう少し直裁的に愛国心を述べた方がいいと思う人間ですが、今の国民感情の中庸をとるということであれば民主党案で行くのが賢明だと思っています。