■社長の必要保障額
ある日、社長から電話がありました。
いつもは、経理部長から連絡があり、予定をあわせながらお伺いするのに、随分せっかちな感じで驚きました。
「先ほど、顧問税理士が来て、社長にかけている生命保険の額があまりに小さ過ぎると言われたのだけれども、本当に足りていないのか?」
当時の保障額は、15,000万円でした。必要保障額という言葉を巧みに利用して、生命保険のかけ過ぎは、損です!という論調が多いけれども、支払っていれば、万一のとき保険金が支払われる以上、「損」というのは、どこかおかしいと思っていますし、将来の事業の発展を考えると、社長の保険に、上限はないと考えています。
とは申せ、必要最低限の保障額というものは、あってしかるべきで、足りていないという話は、そこに到達していないということになります。
社長のお考えは日ごろからよく理解しておりますので、足りないということないと思っている旨を、伝えさせて頂き、論理的な根拠が必要であれば、決算書を何期か頂ければ、決算の数値から、割り出してお話しを差し上げますと言うお約束をさせて頂きました。
顧問税理士は、T●Cという業務支援会社と契約されており、T●Cと深い関係のあるD生命の担当者とご一緒に提案に来たとのことでしたので、合点がいきました。
D生命は、当社も代理店委託契約を結んでいます。正直、あまり好きな保険会社ではありません。保険商品のラインナップや、約款の構成、事業保障に関する考え方などは、悔しいくらい理にかなっているのですが・・・。
顧問税理士とD生命が持ってきた保障額は以下のとおりでした。
①企業防衛資金+②家族を守る資金=約3億5千万円
①企業防衛資金=(1)運転資金+(2)借入金返済資金+(3)納税資金
(1)運転資金=1ヶ月の人件費+6ヶ月
(2)借入金返済資金=借入金額
(3)納税準備資金=(1)+(2)×0.7(準備割合:実効税率41%)
②家族を守る資金=(1)役員退職金+(2)功労加算金+(3)弔慰金
(1)役員退職金=報酬月額×在任年数×3.2(功績倍率)
(2)功労加算金=役員退職金×0~30%(功労加算率)
(3)弔慰金=報酬月額×6ヶ月(業務外死亡)
それに対して、私が提示したのは、十数年前からお世話になっている税理士の井上先生が提唱したFLITという理論をアレンジして現実的な運用を施した内容で、1億5千万円から2億円の保障という内容でした。
FLITでは、A.会社を解散した場合とB.会社を継続した場合の二パターンで考えます。
A.会社を解散した場合
貸借対照表を、お客様と相談しながら、時価に置き直し、保障も含めて、資産が幾ら残るかを試算します。
また、遺族の生活資金や住宅ローン残額の清算を考慮して、お手許に残る金額が十分かどうかを検証します。
B.会社を継続した場合
社長に万一のことがあったとき、現実に何が起きるかを数字で検証します。
売上激減(売上がゼロになる可能性もあります)・回収率の低下・手形支払率の低下
金融機関の融資条件の変更依頼・幹部の辞職(退職金 財源)・後継者の幹部の問題
社長の退職金・遺族の生活・相続税(自社株の評価)などを考慮し、キャッシュフローを中心に「そのとき」をシミュレートします。
計算式なので、一発で数字が出ますが、企業経営は生き物です。毎年、その基礎となる数値や、組織運営などが、変化します。その都度、細かい数字を出しても、運用面にあまりにも負担がかかるため、最後は、数字を見た社長の感覚で、大雑把に捉えて頂きます。
つまり、社長の勘が届くところまで数字を出して、最後は、社長の感覚に従うということです。
倍以上の開きがある理由は、経営を、完全に止めて見るか、それとも、動いている状態のまま捉えようとするかの差です。人の営みと言うものは、決して止まるものではなく、その意味で、このFLITという理論は、大好きです。
年々歳々の変化に対応するには、あまりに細かくシミュレーションできてしまうため、前述のとおり、最後は、社長の感覚に頼るのですが、これまで、この方法で、ご相談して決めた金額には、ほとんどの社長が、不満を感じていらっしゃらないと感じております。
ところで、その後の結果ですが、生存退職金の積み増しを目的に、10年満期の定期保険を解約し、長期平準定期保険に加入して頂くこととなりました。