31.1.10最終


⑥テヒョン




22.4.29

社長が唾を吐き捨て立ち去った。ガソリンスタンドの壁にグラフティをして殴られた。

グラフティを始めたのは少し前。誰かが捨てたスプレー。灰色の壁に鮮やかな黄色。別のスプレーを持ち上げ、僕にも分からない心を壁に振り撒いた。全てのスプレー缶を空っぽにして、ようやく手を止めた。全力疾走をしたように息がきれた。壁の色が僕の心というのは推測出来た。自分自身の心を壁の上に吹きかけたみたいだった。

最初は憎いと思った。汚い、馬鹿らしい、無駄、可哀想だと思ったりも。気に入らなかった。生乾きのペンキをこすり続けた。消してしまいたかった。ペイントは塗り潰され他の形になった。その壁に寄りかかって座った。それは僕だった。

体を起こすと咳が出て、手の平に血。誰かの手がスプレー缶を取った。見上げていくとナムジュンだった。くっくっと笑った。幻かと思った。差し伸べた手をただ見上げた。ヒョンが僕の手を引いて起こした。その手が温かかった。

少し前からグラフィティーを始めたテテ。自分の感情を吐き出す行為である様子。吐き出した色は消そうとしても消えなくて形を変えるだけ。

ナムの手の温度で心まで温まる様子。兄であり、ヒーローみたいなタイミングに思えたかも。



22.5.22

" ヒョン、それが全てですか?僕達に隠している事はありませんか?"

周囲が一気に静かになった。皆の視線が僕に集まった。ジンを真っ直ぐ睨みつけた。ジンも睨んだ。その視線に少しの疲れと困惑と、切なさのようなものが滲み出ていた。

もう一度責めようとした瞬間、誰かが腕を掴んだ。振り返らなくても分かった。ナムジュンだった。

"ヒョンに何の関係があるんですか?実の弟でも無いのに。" 

ナムジュンから視線を感じた。腕を振り払った。僕は今ナムジュニヒョンに腹が立っていた。ヒョンが誰かとの電話で言っていた言葉を繰り返し、

"今の僕は腹が立っている" "あまりにも残念だ"

と話した。ヒョンの言葉に間違えは無かった。僕はヒョンより1歳しか変わらないし、実の弟でも無く、自分のことは自分で知る必要があるのが正しかった。だけど寂しかった。反論すら出来ないことがもっと腹立たしかった。僕の心をヒョンが理解してくれる事を願った。

"テヒョンア、僕が悪かった。この話はもう終わりにしよう"

そう口を開いたのはソクジンだった。名前を呼んだのも、すまなかったと言ったのも。ナムジュニヒョンは何も言わなかった。

"何をやめるんですか?話しが出たついでに話しましょう。ヒョンも僕達に隠している事があるんじゃないんですか?" 

"外に出て話そう。" 

ナムジュニヒョンが再び腕を掴みながら言った。僕はまた腕を振り払ったが、ヒョンは手に力を入れて引っ張ろうとした。僕は抵抗しながら言った。

"放っておいて下さい。何の権利があって僕を止めるんですか?ヒョンに何がわかるんですか?何も知らないくせに、ヒョンは自分が何かすごい人だとでも思っているんですか?"

その時だった。ヒョンが手を放した。反動でつまずいた。ヒョンが腕を放したとたん、ぷつんと切れたみたいだった。僕を支えてくれていた全てにヒビが入り割れて崩壊していくようだった。

僕はヒョンが最後まで腕を放さない事を望んでいたのかもしれない。怒鳴って引っ張り出してくれる。実の弟にするように。あまりにも近くて大切で引き下がる事が出来ないように。僕をもっと叱って欲しかったのかも知れない。

ところがヒョンは腕を放した。ただ笑いがでた。

"一緒にいることが何でそんなに凄いことなんだよ。お互いが何だって言うんだ。結局、皆独りぼっちじゃないか。"

ソクジンヒョンが僕を殴ったのはその瞬間だった。

久しぶりに皆で海に来て、テヒョンがヒョンの電話を盗み聞きした後。

ソクジンの隠し事を責めているうちに、制止したナムに怒りをぶつける形に。

テヒョンはナムを実の兄みたいに慕っていて、自分が何をやっても実の弟みたいに叱り続けて欲しかった。

怒りを受け止めたり殴ってでも叱る、テヒョンが望む兄の姿はジンがしている。また、テヒョンは家族なら何でも話すべきと思っている様子がある。

ジンの隠し事は、校長に生徒の話をしていた事。皆と会った後もそれを続け、ユンギが退学になるきっかけになった事。それを話さない事にテヒョンは傷ついているから、ジンには兄らしくされたくない印象。

ナムの電話の会話は相手も内容も解釈しにくいが、家族と弟の話をしていた?ナムが皆に見せたくない姿がある事が、テヒョンには隠し事として映っているかも。

結局皆独りという言葉は、心がギリギリだった全員にささったように思う。



22.8.11

Xの下に小さな文字を見つけた。

"君のせいではない"

その子の字を知っているわけでもないが分かった。最後の挨拶だった。

去るのは君の為。君に起きた多くの事も君は悪くない。自分を責めたり、苦しんだりしないように勇気を出せと言うように見えた。

気がつくと家の前だった。ドアの向こうから姉の悲鳴。ドアを開けて入ると、見慣れた風景。父を遮る為に立った。腕を掴み真っ直ぐ見つめた。父は、最初は驚いたようだったが直ぐに拳を振り回した。何度も倒れた。姉の泣き声はさらに大きくなった。顎が痛み、口の中は錆びた鉄の匂い。

諦められなかった。父の腰に纏わりついた。父が怒鳴り叫んだ。背中を無慈悲にパンチされたが、掴んだ。痛いし怖いが、それ以上に、自分がまた手を離したら、同じ日常が繰り返される。変わってほしい。変えたかった。僕は父とは違う。僕の家族は僕が守る。

女の子がグラフィティーアートにバツをしたのはテヒョンには本当に関係がなく、虐待の経験から何かあると自分を責める癖があるところを読者に見せたのかも。相手は悪くないはずと思う優しい性格も?

(父親が子に暴力をふるうなんて必ず理由があるはず、自分が悪いからだ、と自分を責め続けてきただろうから、何かあると自分を責める癖がついていた?うまく言えない……)

とにかく、自分を責めるのはやめて自分を大事にする、love myselfの流れに読める。勇気は自分を信じて父親に向き合う勇気?

怒ったり殴られたり間違った事をされても最後まで離さないようにして、前述した4/11notesを振り返ってみても、テヒョンは自分が家族に望む事を父親にして、父親を含む家族を守ろうとしている。


MVで見た父親を刺すシーンだが、この流れでテヒョンがそれをするとは思えない。他の皆も前向きになり、環境が改善してきている。

例えば、頭の中で何度も殺した、の想像のシーンを描写したとしたら、それにしてはインパクトのある、物語の本筋に見えるMVのワンシーンだった。だから、父親を刺した過去が変わったように思うが、notesでははっきりしない。