「バカね。本当にデリカシーがないんだから」
「そう言うなって。嬉しいよ、ゆき」
彼はベージュのスーツに身を包んでいた。
私を乗せて彼の車は、御殿場への真夏の薄暮に包まれていく。
「ゆき、少し早いが夕飯にしょうか?予約してるんだ」
車が停車したのは、丸材で組まれた丸木小屋風のレストラン。
御殿場でのゴルフの帰りに よく利用するらしく 入口を入ると店内を横目に彼は左に折れ 奥に続く細い丸太の廊下を歩き出した。
三歩下がって後に着いて歩く私の目に飛び込んできたのは‥
アットホームな懐かしさが漂うステーキハウスでした。
こじんまりとした店内には小さなアーム状になった鉄板。
その鉄板を挟むように並べられた椅子を彼が引いてくれた。
私の父は、家業をそっち除けでいろんな副業に手を出していた。
その中で小さなステーキハウスを開店した。開店して五年目で閉店してしまったお店だったけど‥
私は、そのお店の雰囲気が大好きで高校生の頃は、進んでアルバイトに精を出したものだ。
その店内と雰囲気が似ているのだ。
懐かしい匂いに囲まれた私は上機嫌だった。
そして、また 父のお店と同じように鉄板を挟んで私の前では、コックチーフがパフォーマンスを見せてくれた。
マジックのような手捌きは、私たちの会話を無にしていった。