「胃の具合どうですか?」
「随分良くはなったが、本調子ではないんだ」
「お肉は大丈夫なの?」
「いやっ、今日は少な目にしておくよ。ゆきは、沢山食べなさい」
「あなたが戴けるもので良かったのに‥」
「いいんだよ!ゆきに、此処のお肉を食べさせたかったんだよ」
一口食べて、彼がそう言ったのも解るような気がした。
一口食べると口の中で溶けていく上質のお肉に感激した。
しかし、彼は私の半分も食べなかった。
三鷹に営業所をオープンするために忙殺の日が続いているそうだ。
そんな大事な時期に、我が儘で彼を振り回してしまっていることに猛省した。
「ゆき、何かデザート食べようよ」
彼は、全く お酒を頂けない代わりにスイーツが大好きだ。
私たちは、丸太の橋を戻りホールに入った。
ラタンのテーブルがバランスよく配置され、椰子の木で仕切られた店内は、まるで南国ムードだった。
しかし、聴こえてきた生演奏は、確かロシア民謡だった。
マラカスとコンガの軽快な音楽が店内を和ませた。
「ゆき、素敵だろ~この音楽」
「ロシア民謡ね」
「よく知ってるね。ロシアでは軍歌とか労働者の歌だと聞いたよ」
「そうなんだぁ~こんなに軽快なメロディーなのにね」
そのとき、聞き慣れたメロディーが流れてきた。
「カチューシャですよね」
「そうだね。そのうち、トロイカや、ともしびも聞けるよ」
「私、大好きなんです」
そんな哀愁帯びたロシア民謡が、今の心境に心地好かった。
すると、彼が
「ゆき、この前 こちらへ来た帰りに隆正君と相沢さんに手紙を渡したんだって!?」
突然、聞かれたので、
「すみません、余計なことを‥」
「いやぁ~嬉しかったよ。ありがとう。相沢さんが大変喜んでいたよ」
「そうでしたか、お世話になっていながら何のお礼も出来なくて!」
「それにしても、ゆきは達筆だね。隆正君も感心してたよ。なんだか俺は、気分が良かったさ!!」
「私が達筆?孜さんほどではありませんよ」
いつも、メールのやり取りでは気がつかないことですが、
彼の字体は、女性らしく優しい美しい文字を書かれます。
その反面、芯が通っている感がします。
それに繊細さが漂ってくるのです。
私の文字は?と言うと、流れるような崩し文字で荒々しく強さを感じるのだと思います。
よく、存在感がある字体だと言われます。
文字とは人の性格を表すのかもしれません。
「ねぇ、孜さん、その手紙を読まれました?」