「雪乃さん、いらっしゃってたんですね」
「はい」
「社長、何も仰らなかったので‥」
「そうでしたか、昨日の夕刻に。すみません、お忙しいのに」
「いえ、今朝は社長は出勤なさらなく、こちらで打ち合わせを済ませたところです」
「そうでしたか。私が来てるからですね。ごめんなさい」
「いえ、私は仕事ですから。このバッグは‥えっと、横浜の~」
「はい、キタムラのバッグです。よくご存じですね」
「以前、家内にねだられたものでしたから。それにしても綺麗な色合いですね」
「母の見立てです。私も気に入っていつも同じ物ばかりを持っているんですよ」
「良い物は長く持てますもんね。このボストンバックもですねぇ」
「はい、あまりブランドものが好きではないので‥家業の関係で上質の革製品が好きなんです」
「そうですか。革製品を扱っていらっしゃるんですか」
「はい、父は早くに亡くなりましたが、今は母と弟が営んでおります」
「ほほぅ。バックとか靴とか?」
「はい、中には、自動車のシートとかバレーボールなども作っております」
「それは素晴らしい~」
詳しい話までには至らぬまま、彼が戻ってきた。
私たち三人は駐車場へと向かった。
専務さんは、鞄をお持ちしますと仰って下さったのですが、そのようなことまではと遠慮した。
私は、彼の車の助手席に乗り込んだ。
彼は、専務さんと何やら真剣な顔で話込んでいた。
きっと、あの鋭い洞察した目付きが、普段の社長としての顔なんだと思った。
暫くして、彼は運転席に腰掛け、
「ゆき、お待たせ」
と言った顔は、私に向けた少年の顔だった