夫と別れた歴史地区から、自宅までは約60キロ。


ほぼ一本道ですが、


そのうちの半分、約30キロは、


海沿いの一本道。


そこは富裕層の

お城みたいな別荘がひたすら

30キロも並んでいます。


サマーハウスと呼ばれる、

富裕層が夏休みだけ過ごす別荘です。




私はこの海岸通りをドライブするのが大好きでした。


日本では見たことがない、

学校のような大きさの大豪邸がひたすら並び、


眺めているだけでワクワクします。



本当に眺めているだけですが…笑い泣き




しかしこちらは、富裕層が夏休みの間だけ住む、サマーハウス。


冬の時期はゴーストタウンみたいに閑散としています。




冬の夕方、真っ暗な、お城のような別荘街の一本道を車で走りました。


気が滅入りました。


個人経営のコンビニが一軒だけありますが、冬は早い時間に閉まります。



どんどん気が滅入りました。



自宅に近づくと、昼間に夫と食事したマクドナルドのプレイルームが暗く見え、

更に気が滅入りました。


今日は夫も落ち着いていて、

昼間はここで家族楽しく過ごせていたのにな。





自宅に着いたら、子供たちは車で眠っていました。

1人ずつ子供たちを抱えて、3人とも寝室のキングサイズのベッドの上へ。


気づいたら、子供たちに夕飯を食べさせていません。

お風呂にも入れ、歯磨きをさせて、パジャマに着替えさせたいです。


しかし私はどっと疲れ、

子供たちと一緒に、キングサイズのベッドに横になりました。


しかし眠れませんでした。


そういえば…

夫のスマホの位置情報は、私のスマホで見れました。


チェックすると…



夫は歩いて、60キロ離れたあの場所から帰ってこようとしていました。


あの暗い、海沿いの高級別荘地をひたすら歩いていました。



あの海岸沿いは、約30キロはコンビニも何もありません。


アメリカでは道端に自動販売機はありません。

自動販売機なんてあったら、自動販売機ごと盗まれるからです。


それからアメリカではヒッチハイクはほとんどないです。


一昔前に、ヒッチハイクによる殺人事件が横行した為、

ヒッチハイクはするのもされるのもタブーです。


だいたい暗闇の海岸通りで、ヒッチハイクなんかしようとしたら、みんな不気味がって逃げていきます。



また富裕層の豪邸に助けを求めるのも不可能です。

そもそも富裕層が夏休みだけ過ごす別荘、冬にはほとんど誰もいなく、

いたとしても、冬の夜中、富裕層の豪邸を訪ねようものなら…

ただでさえ薬物依存症の夫、

強盗だと誤解され、家主に射殺されかねません。


日本人の方は「まさかそんなオーバーな」と思うかもしれませんが、

アメリカではよくある話です。


実業家、資産家、政治家などの富裕層たち。


アメリカは貧富の差が激しく、同じ街には犯罪が蔓延する犯罪多発地帯もあり、

その為、富裕層は警戒心もとても強いです。


富裕層に夫が射殺されても、正当防衛だといわれれば、無罪放免です。


日本だと考えられないかもしれませんが、

最強のエリート弁護士を雇える富裕層に、

「正当防衛だ」と言われてしまえば、

「射殺された夫が悪い」で全てが終わります。



しかも夫のスマホは、まもなく充電が切れると表示されていました。



翌日。


私が住んでいた地域は温暖でしたが、

翌日は冬の嵐。


雨と風がすごかったです。



夫は昨日、パーカーを着ていました。


夫のスマホはとうとう充電が切れたようです。



さすがに命に関わるかもしれない…。



午後、子供たちが遊んでいたオモチャが目に入りました…。


昨日、マクドナルドで夫と一緒にもらったハッピーセットのオモチャでした。



それを見て、私は苦しくなり、

冬の暗い嵐の午後、


子供たちを車に乗せて、

昨日きた道を戻りました。



冬の間は物悲しい、サマーハウスが立ち並ぶ高級別荘街。


更に冬の嵐で、午後でも暗く、一層物悲しかったです。



30キロ続く高級別荘地で、たった一つのお店、

コンビニに着きました。


コンビニといっても、個人経営の小さなお店で、

冬の間は営業時間は夕方まで。

昨日の夕方は閉まっていました。


そこでコンビニのお兄さんに、

夫の写真を見せました。


しかし覚えていない、とのこと。


私はコンビニから、また引き返しました。



暗い冬の日曜日の午後。


雨風は強くなり、

どんどん暗くなり、


夫の命との引き換えのようで、

焦りました。




私の行動を、依存性家族特有の「共依存」という方もいるでしょう。


しかしそんな簡単な括りではないです。



夫が薬物依存症になって約2年、

「夫が死んでくれたら、ラクだ。」

と思ったこともあります。


確か昨日も、

「死ぬと言うなら勝手にしろ」

と内心思っていました。


しかしこうやっていざ、夫の命に関わると、

やっぱり夫には死んでほしくないです。



依存性の家族会では

「愛情を持って突き放せ」

と習います。


それが夫の回復の為なら、いくらでも突き放します。


しかし夫に死なれたら、その「突き放せ」は意味がないです。



依存症の家族は時折、

「もうあの人が死んでも仕方がない」

と覚悟を決めます。


しかし私には、夫が、

そして子供の父親が死ぬのは嫌です。



今日、まだ当時29歳の夫が、


雨風に打たれ、

凍死するのは嫌です。


強盗に間違われて、

射殺されるのは嫌です。



生きていてほしい…。


しかし夫の姿はなく、

夫のスマホも電源が切れたまま…



どうしよう 


夫が死んでしまうかもしれない。


こわくて仕方がありませんでした。




すると…

電話が鳴りました。



…知らない電話番号。



夫だ!



「もしもし!?パパ!?」




「もしもし、凜。

そうだ、パパだよ。」




…え!?


「お、お義父さん!?」



2年前の10月、

逮捕され、刑務所へ収監された夫の父からでした。


夫の父に見た目がそっくりの東京オリンピック、女子バスケのトム・ホーバス監督。


私の子供も、

「ママ〜テレビにグランパが映ってる😳」と言います。