尼の三衣 ( ヱ )ハ 子もちのにほひ 朝のつとめハ お小僧斗
よいのつとめハ かねうつ斗 昼夜小めくり 御布施をむいて
酒とかケ碁て 寺役をわすれ 居間柱の 状さし見れハ
様ハ丸さま 御ぞんじよりと べにのついたる かなふミ斗
門徒寺衆ハ 利欲にふけり くわんけ一座に ほうしやが四五ど
祖師のほうじや 自坊の法事 畳 ( タゝミ )やねかへ 造作普請 ( フシン )
嫁をしつける つきめをすると 後生ハ二の次 先其事に
旦那あつめて 身がつて斗 奢り相談 くわん金さへり
法事しまいの 咄をきけば こんど法事ハ 時節がわるい
参詣不足で まふけがないと 祖師の法事を あきなひらしく
人目はちずに 咄をめさる 後生しらずの じやけんな者も
金を上ケれハ 信心者とて 住寺ごりよんの あしらいちがう
なんぼ信 ( シン )心 りやうけの人も 金を上ケねハ けだうじやなとゝ
葬礼おさへる 宗判せぬと 上をおそれぬ 法外斗
寺が寺とて 同行共も 御講もとりの 咄をきけバ
しうとこしうとハ 嫁聟そしり 嫁や娘ハ 舅のざんぞ
そして近年 安心まへも いたこ長うた 新内なとを
ませて語にや 参りがないと 寝ても起ても 欲心斗
仏まかせの ぢいばゞたちも あちらこちらて すゝめがちがひ
とれが誠か 迷ひがはれぬ 後生の大事ハ 頼す方と
すゝめなからも 旦那をよせて 金の無心ハ 御頼方よ
口へ出すハ 自力のたのミ 口へださねバ がいけにそむく
御より合たの さうそくなどゝ 知りもせぬこと うかべたやうに
をのもわからぬ 後生をもだき はてハ互 ( タカ )に いさかひはかり
中に見事な りやうけをいひば 両刀つかひと ミやうもくつける
うそか誠ハ 死なねハしれぬ わけてつまらぬ 法花の教へ
蓮花往生て しくじりながら いまたまよひの 目がさめぬやら
他宗そしりて わか宗じまん あまりをしへが かたいぢ故に
ひろいうき世を 小せまくくらす 仏きらひの 神道衆も
和学神学 六根清浄 はらひ給ひと 家財をはらひ 清め給ふと
身上 ( しんしやう )を洗 ( あら )ふ 口のふしやうハ けかれた物を のますくわねバ
いひわけたてと むねと心ハ 只もろもろの 欲と悪との
不浄で染る ねきの社 ( シヤ )家しやの 神主なとも 神の御末 ( ミすえ )と
身ハ高ふれど 冨をするやら あやつりかぶき まやしあつめて
山事斗り 祈祷神楽も 銭からきめる 夫が神慮に かなふかしらん
わけてにくゐハ いしや衆てごさる となり村へも 馬かこもたき
しれぬ病ひを のミこみ顔に 少しやうだい わるいと見れハ
人にゆつりて 己レははづし さじの先より 口さき上手
しろとたましの 手からをはなし 金匱 ( きんき )要略 ( やうりやく ) 傷 ( しやう )寒論 ( かんろん )ハ
若いしふんに 習ふた斗 たまに取出し 婦くして見ても
やミの烏で わからぬ故ニ きかずさわらぬ 薬の数を
たんと呑 ( のま )して 衣服をかさり 礼の多少て 病気をつかひ
病家見舞も うけむけ立て うらやせとやハ 十日ニ一と
金になるのハ 毎日四五度 されハゐしや衆の をきてといふハ
銭や金にハ かゝはるましく 人をすくふが 教 ( をしへ )の本と
道のいましめ 守らぬわけハ 欲 ( よく )がふかふて がんもふ故 ( ゆへ )ぞ
あんま取迄 夫見習ひて 近い頃迄 上下もんて
廿四文が 通用なるに いつの程にか いづくの町も
やがて八文 ましたるかわり ちからいれすに 手拍子 ( びやうし )はかり
すこし長いと なかまがにくむ 又ハ婚礼 法事の席 ( せキ )へ
ゆすりがましく 大勢つめて 祝義くやうの 多少をねたり
ならぬ在所ハ 手あまるうわさ されば一々 さかして見れハ
士農工商 儒仏も神も くとくことばに ちがひハあらじ
天のいましめ 今よりさとり 忠と孝との 二ツの道と
己 ( をのれ )おのれが 職分守り 上に居る人 下あはれミて
下に居る人 上敬ひて 常にけんやく 慈悲心ふかく
奢る心を 慎しむならハ かゝる稀代 ( きたい )の 変 ( へん )事ハあらじ
かゝるこんきよも あるまい物ぞ さらば仏も 天道様も
恵ミ給ひて 只世の中ハ 末世末代 波風たゝず
四海太平 諸色もやすく 米も下直に 五穀もミのり
地震所か 町在共ニ 子孫さかゆる 末繁盛の
基なるへき ためしを上て 語る此身も 罪 ( ツミ )深 ( フ )きやら
地しん潰れの 掘立小屋に しばし篭りて 世人々の
穴とくせとを 書記 ( しるし )おく 筆の命毛 ( け ) おそろしや
※ ブログ管理人所蔵『天保十四癸卯弥生吉日 奥田氏蔵版』
※ 版元 きまゝやひま右エ門 泣和津地声太夫版とは異なる箇所あり
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