『中央盲人福祉協会会誌』第十六号 昭和十六年二月付より
石原博士の色盲研究に就て
医学博士 庄司義治
(注.東京帝国大学眼科部長
中央盲人福祉協会理事)
石原忍博士の色盲研究は、氏が眼科に一歩踏み込んだ時から初まつて居る。日本で初めて全色盲の例を報告したのも博士である。それから興味を覚え、ことに一友人に色神異常者があつたので、当時世界に広く行われて居たスチリング氏仮性同色表にまねて色を塗つて見たりして研究しておられたそうである。独逸留学からかへつて陸軍で徴兵検査用に色盲表を作らうと云ふ議があり、この役を買つて出たのが石原式色盲表のいとぐちであつた。其時に作られた色盲表は陸軍部内に秘めてあつて民間には出されない。其後一層の研究を重ねてつぎつぎと優秀な色盲表を発表せられたのである。今日では色盲表と云へば石原式と云はれる程にひろまつて居るが、それにはそれ相当の理由がある。
石原式の外に古くから小口式及び伊賀氏の色盲表があつて何れも優秀なものであるが、従来紅緑色盲の検出に、この色盲者がまちがへ易いと云ふ紅と緑との色点を用ゐて文字をあらはして居つた。ところが石原氏はそれに黄と青の調子をとり入れて極めて巧みな仮性同色表をつくつたのである。故に色そのものとして相当はつきりして居ながら色盲、色弱者には読めないのである。もう一つの特徴は色盲、色弱者には読めるが、健全な色覚の人には読めない表が加はつて居る事である。これは出来て見れば何でもないやうだが、茲にいたるまでには大抵の苦心ではあるまいと思ふ。色盲者と健康者とちがつた読み方をする表などもよいおもひ付きである。
殆んど三十年の苦心が報ゐられて、第十三回国際眼科学会ではスチリング氏仮性同色表と共に世界最優秀なるものと認められ、一九三三年の第十四回国際眼科学会に於て航空、自動車、鉄道、海員等の検査には二種類以上の仮性同色表を以て検査すべく、最も之に適したるはスチリング表及び石原表であると規程するに至った。勿論色神異常の精密なる研究はスペクトルムを用ゐて行べきものであつて、検査器としてもスペクトラムを応用したるもの例えばナーゲル氏の「アノマロスコープ」の如きは最もすぐれて居るのであるが、之は大きな器械であるし、多人数を短時間に検査するには適しない。其点に於て石原式件巣表は最優秀なりと推奨するに値するものである。今回朝日文化賞をかち得たるまた当然と云ふべきである。