彼の話し方はまるで
やさしくて悲しい曲を聴いているみたいだった
彼の悲しみは海の底よりも深いように思えて
空いっぱいの光のヴェールで覆ってあげたいと思った
彼の涙は一粒の雨の雫よりも美しく
大地いっぱいの土の絨毯で吸い込んであげたいと思った
彼の悲しみに触れたとき
どうしようもなく溢れ出しそうになった感情を
こぼれないように懸命に保った
少しでも溢れたらその瞬間に脆く崩れてしまいそうだった
この無力感はどこまでも続くトンネルのようだった
その先に確かなものなんて何ひとつなかった
それでも出来ることならばこの悲しみを分け合いたいと思った
肌で感じる温もりだけがこの悲しみから逃れるための唯一の一瞬
共有したあの時間は確かに存在した
ふたりぼっちだねと寂し気に呟いた彼は
いまはもうここには居ない
音楽のように流れていくその声はとても心地が良かった
誰にも打ち明けられないで密かに隠した恋の証
無理矢理に色褪せるよう仕向けた記憶
想像もしていなかった裏切りに戸惑う君
悪戯に想像していたときはこんなふうじゃなかった
夢の中の話みたいに楽しんでいたように見えた
どうしたらいいのかなんてわからない
そう言って微笑んだ横顔が虚しく映る
こうなってみて初めて気づくこと
そして思うこと
いつだって弱い私たちは
進んでいるようなつもりになって
全然進んでいなかったのかもしれないということ
向き合っていたら今をやりきれなかったのかもしれないということ
やり過ごすことで精一杯だったのかもしれないということ
裏切ったあの人も本当はおんなじだったのかもしれないね
どっちがいけなかったのかなんて追求しても意味がない
すがれるものができたとき
自分が強くなったと過信した
お互いがただ弱かった
求めるものは欲張りにたくさんあったはずなのに
結局望んだものが何だったのかさえわからない
考えなかったのは、ただ楽になりたかっただけ
でもね
ここまできたらそれも苦しいだけ
なかったことになんてできないよ
なるようにしかならないなんて言わないで
なりたいようになることだってできる
ここらで立ちどまってみよう
これからたくさんの光を受け止められるように