Incomplete soup-天使


或る朝、天使が舞い降りた

それは突然に何の前触れもなくやってきた


早朝4時の目醒め

ぼんやりとした頭の中で想い出される優しい記憶

或る春の日にやさしく出迎えてくれた彼の微笑み


そのままもう一度眠ろうとしたが

その存在が離れなくなった


眠ることを諦めた私は熱い紅茶を淹れようと湯を沸かす

どうにも離れられない記憶に向き合おうと腹をくくる


ふと、あの人に借りた詩集を開く

数ページを読み終えて紅茶に手を伸ばしたその時だ


窓の外から差し込む強烈な光に

吸い込まれるような感覚でベランダに出た


陽が昇り始めていた

空に広がる雲を照らし出し

薄いブルーグレーに

赤やピンクやオレンジが

マーブル状に混ざり合う


彼の魂は解放されて自由になったのだ

そう感じた

地上から天に昇っていくそれは彼だった


何かを伝えたかったのか

或いは何も伝えたわけではなかったのか


しかし天使は

確かに私のところに舞い降りたのだ






二度目に目覚めた朝

あの人が居ないことに驚く


緑色に覆われた空から差し込む

湖の水面に反射してきらきらと輝くいっぱいの光の中

手を繋いで歩く足元は雲の上を散歩している浮遊感

なにもかもが夢の中のことのように過ぎていく


あの朝のバスの窓に流れる景色

あの夜歩いたいつもの道のり

たどり着いた夜の公園のベンチ

たまらなく大好きな落ち着く匂い


なんでもなかった日常が光り輝く毎日

数え切れないくらいに感じるたくさんのことを

ひとつひとつ身体の中に染み込ませるよう

何度も何度も反芻する夢の跡


きっとすべてが幻想

きっとすべてが現実

隠そうと思った瞬間に見つかった宝物


離そうと思った瞬間にくっついた磁石


消そうと思った瞬間に流れたメロディー


保とうと思った瞬間に傾くバランス