先日、いつものように公園の木陰を求め、踊れる場所を探していました。
自転車を走らせていますと、理想的な公園を発見。
川沿いにあり、なんとなく涼しさを感じる規模が大きめの公園で、木陰のベンチも5台あり
一番右のベンチにはギター弾きの青年が、右から二番目にはその音楽を聴いている女子二人。
先客がいましたが、私は一番左のベンチへ陣取りました。
私の持ち物は保冷バッグに保冷剤をたっぷり入れて
凍らせたタオル、凍っていないタオル、水、炭酸水、スポーツドリンク、麦茶
非常食でコンビニで買ったおむすび二つ。ですが、このおむすび
保冷バッグに一緒に入れておくと、冷え冷えで硬くはっきり言って美味しくはありません。
美味しいか不味いかの問題より、生きるか死ぬかの問題が重要なのです。
この外気温のなかで運動するのは命がけです。熱中症にはなりたくありませんものね。
万全の装備ですのでかなり重たいのですが、それをベンチの端にドスンと置き
日よけ用のパーカーを脱ぎ捨て、早速ストレッチングです。
右端の青年はなんとも甘いラブソングを唄っています。
観客の彼女たちのための選曲なのでしょうか。
私はその甘さにニヤつきながら足の筋をよく伸ばしました。
「青春だねぇー」とつぶやきながら。
そして腰に、背中に、腕に、首にと伸ばせるものは全部伸ばし、さて踊るかという時に
青年はまたしても甘いものを唄い始めました。
気になって踊るどころの話ではありません。
私は再びベンチに座りしばらく様子を見ていました。
観客の彼女たちもうっとり聴き入っています。
歌もギターも上手で彼の顔も歌同様に甘めの男前。まぁ…うっとりするでしょうね。
私はバッグから手探りで適当に出したものが麦茶だったので
それを飲みながら、彼らの姿を眺めていました。
頭の中では「スイカ食べたいな…かき氷もいいな…」などとぼんやり考えていました。
続きましての甘い曲が終わり、彼女たちが拍手していたので
私もそれに合わせて拍手しました。甘い、甘いと来たから次は爽やかな曲でお願いしますよ。
そう心で思いましたが、またもや甘い曲。
なにゆえに甘い物ばかり。しかもクリーム系。もっとあるでしょ、柑橘系とか、ベリー系とか。
そんな風に思いましたが、彼のギターで彼が唄ってるのだから
私がとやかく思うことではありませんので、黙って聴くことにしました。
やがて曲が終わり、拍手をして念じました。次こそは頼みますよ、甘くない物をね。
しかし、願いも空しく甘い物です。。。
塩昆布系か漬物系をお願いしたいところであります。
気温の高さと甘い物攻めでフラフラしながら、私はとうとう彼女たちの座るベンチへ
同席しました。なぜそんな行動を取ってしまったのかは分かりません。
すると彼女たちは私の方を見て、苦笑いしています。
「ずっとラブソングなんですよ」と小声で言われ
彼女たちも私が思ったのと同じように聴いていたんだと判明しました。
次の瞬間、彼女たちはチャンスとばかり立ち去る用意を始めました。
「それじゃあ、すみません」とつれなく置き去りにされた私。
差し向って私はどうしたらよいのでしょうか。
この甘い甘い青年にどう接したらよいのでしょうか。
放心状態でベンチにたたずんでいると、曲が終わりました。
私は今しかないと思い、拍手をしながら質問してみました。
「ラブソング専門なんですか?」この時の表情はもちろん、キラキラスマイルです。
すると彼は照れくさそうに微笑んで言いました。
「いえ、その、実は…プロポーズしようと思ってまして…」プロポーズ!!マジですか!
「その時、彼女に唄ってあげる歌を考えてたんです」
私はその言葉を聞いて、さっきまでの失礼な発想が恥ずかしくなりました。
塩昆布も漬物もプロポーズには必要ないんだよ。やっぱり極甘のクリーム系だよね。
一世一代の大仕事をしようとしている彼に心が振るえました。素敵な青年じゃないですか!
今の私は、のおちん譲りの博愛精神の塊ですので、形は違えど愛に燃えているこの彼に
とても共感したので、何かしてあげたくてたまらなくなりました。
私は咄嗟にバッグを探ると出てきたスポーツドリンクを差し出しました。
「よかったら冷たいのどうぞ」
すると彼の表情はパッと明るくなり「ありがとうございます、いただきます」と
受け取ってもらえました。
彼はギターを横に降ろすとその蓋をねじり開け、ゴクゴクと音を立てて飲みました。
「…朝から何も食べてなくて、ちょっとヤバかったんですよ」
この暑さで飲まず食わずじゃヤバいに決まってるでしょうが。。。と心で思いましたが
おそらくプロポーズの事で頭がいっぱいだったんだな…と思い直しました。
私はまたバッグを探って非常食のおむすびも差し出しました。
「おむすび食べますか?冷えてますけど」
「すみません、いただきます、ありがとうございます」
彼は申し訳なさそうにそう言って、コンビニおむすびの包装を剥がす
その指さきの震えを見て本当にヤバかったんだな、倒れなくて良かった…とホッとしました。
冷え冷えおむすびを頬張って「おいしいです」と笑う彼。
私はもう一つのおむすびと水も渡しました。
こんなに冷え冷えおむすびが喜ばれる事ってそうそうありません。
私は良かった良かったとうなずき、ジロジロ見ているのもなんですので訊いてみました。
「プロポーズはいつされるんですか?」
「今夜、しようと思ってるんですよ」
時間を確認するとお昼をちょっと過ぎた頃。間に合うのか?!歌決まるの?
心配になりましたが、この緊張しているのか、余裕なのか、よく分からない彼の言動に
面白味を感じ、そこから小一時間話し込んでしまいました。
踊りに来たのに、まさか見知らぬ青年と恋愛話に花を咲かせるとは思いませんでしたが
貴重な経験ができて楽しかったです。
既婚者としてのアドバイスなども求められたのですが、上手く答えられたかどうか。。。
でも、冷えて硬くなったおむすびを、おいしいと言って笑える彼ならきっと大丈夫。
どんな状況になっても乗り越えて行ける、私はそう思いました。
のおちんの背中を追いかけてからというもの、ミラクルな出会いが頻発しているのですが
私自身が人と積極的に関わることを、今まで避けていたのかも知れません。
人間として少し成長し始めたのかも分かりませんが
心を開いて接すると相手もそれに応えてくれるものですね。
私もですが、相手も心があたたかくなるように接していきたいです。
私の中でKing of sweetといえばコレクターズ。しびれるほど極甘。
甘い青年は、歌詞とギターコードを手書きしたノートを持っていたので
見せてもらったのですが、それはホントにラブソングしかなくて
プロポーズする彼女のために、精一杯掻き集めた気持ちそのものでした。
「このノートもプレゼントしたらどうでしょう?凄く伝わると思いますよ」
と提案してみました。
「いいですね!ああ~、いいですよ!それ、そうします!!」
彼の気持ちは間違いなく、天高く舞い上がっていました。
プロポーズはきっと大成功を収めたはずです。
あのノートを見たら答えはYESしかないと確信しました。