若い頃は希望や夢がある。

可能性や未来もあるだろう。

死は、はるかかなたのこと。

ありえないに近い。

死はないと同じ。

それが、若い頃。

 

年取ると、

死が迫ってくる。

ありえないことではない。

明日かもしれない。

 

しかし、死は生に近くなっていく。

限りなく生と同じになる。

そうなると、死は再びありえないことに。

死はないと同じになる。

 

それが老人の特権。

 

要するに、

生きることのリアルさが、薄れていく。

人の意識が創るマボロシ。

それが人の生の実体。

 

マボロシだから、輪郭不明のことばかり。

例えば、人は胎内で育つ。

いつから人になるのか、

それが不明。

受精したとき。

3ケ月後、それとも6ケ月後。

 

人は死体となる。

いつから死体となる。

脳死、心臓停止、

血液循環がなくなってから。

感覚細胞の反応がなくなってから。

それも不明。

棺桶から出てくる人もいる。

 

人がつくるこの世は輪郭不明の出来事ばかり。

虚像と実像も区別不能。

夢と現実も識別できない。