私は二歳上の兄を尊敬していた。

 

この兄は時折、おネショをする癖があった。

母は色々な治療を試みたがうまくいかなかったようである。

子供心にも私は彼に同情していた。

ある夜、隣で寝ていたこの兄が真夜中、私をゆさぶり起して、

「また、やってしまった」

と情けない、泣きそうな顔をした。

私はその時、どう思ったのか、あまり覚えていない。

あれを兄にたいする同情でしたのか、尊敬でしたのかもよくわからない。

ひょっとすると同情でしたのかもしれない。

たしかなことは兄がおネショをしたならば、こっちは、もっとデカい大きなことを

やってやれと考えたのである。

 

いずれにしろ翌朝、母は長男の布団におネショを、そして私のほうには寝糞を

発見して仰天してしまったわけだ。

私が子供の時、兄より、デカい大きなことをやったのはこれがただ一つである。

 

遠藤周作著「ぐうたら人間学」から引用

 

久しぶりに、おかしくて、大笑いした。