「わたしは胃ガンなの」と

同級の女性が、突然、話しかけてきた。

近所のスーパーで、

数年前のこと。

それから、しばらくして、訃報。

 

術後の生存率は上がっているとは言え、

ガン宣告を冷静に受け止める人は稀。

多分、いない。

 

知り合いにカミングアウトするには

深刻過ぎる話題。

仲の良い夫婦でさえも、

避けようとする事柄。

 

自分自身がガンであり、

毎日、一生懸命、耐えている、たたかっている、

そのことを伝えたかったのだろう。

 

知り合いに話したところで、

ガンの痛みがなくなる訳ではない。

気持ちが楽になることもない。

それでも、真実を言うというのは、

ガンのことを口にする他に、

もっと適当な、当たり障りのない儀礼的挨拶が

思い浮かばなかったのだろう。

 

多分、

彼女の思考は、そのとき、

ガンのことでいっぱいだったのだろう。

 

ガン宣告され、

余命半年などと言われたら、

おそらく、一日の半分くらい、

その事柄を中心に

考えや感情がめぐるのだろうと思う。

 

私は、大きな病気はない。

しかし、老化が全身に現れている。

朝起きれば、指の関節が固まっているから、

動かさないといけない。

着替えで、片足立ちするにも注意。

よろよろする。

階段を下りるにも、一足ひとあし。

ときに四肢の筋が引きつる。

踏みしめたのに、力が入っていない。

一日に何度も体力のなさを実感。

鏡を見れば、老化した顔。

 

あと、10年生きればいいなと思う。

一日に20回以上も、死を考える。

ああ、死期まえ10年だよと、身体が断言している。

 

私のように病気がない者でも

そういう感じだから。

 

余命半年などと言われれば、

身体が、あと半年と

大音響で怒鳴っている感じだと思う。

 

その、怒鳴り声に

怯えたら、終わり。

できるだけ、聞こえないフリして

生きるしかない。

 

私は、ガン宣告、余命半年となったら、

多分、家族以外には言わない。

親しい友人にも言わない。

 

言ったとて、

何にもならない。

 

そとから見て、

さとれないように

生きるしかない。