(天使と暮らして9)
右脳人になった
日常会話の簡単な事柄も、
娘には理解できないことがある。
病気の話題になると、
「病気だったの、初めて知った」と言っていた。
(この文句は最近なくなった、
理解度が良くなったのだろう。)
身体の調子を尋ねられると、
「至って健康」。
「いらっしゃいませ」は、
自分以外の他人に対し使われる言葉だが、
娘は自分で「いらっしゃいませ」と言いながら、
食事時に台所にやってくる。
デイサービスから帰宅時は、
ただいまの代わりに「おかえりなさい」
出かける時は、「行ってきます」ではなく、
「行ってらっしゃい」となる。
立場によって、会話の言葉が変わるというのが、
娘には理解できない。
「ごゆっくりどうぞ」と自分から口にする。
時間経過を説明する言葉も、理解が難しい。
「その後で」、「明日」、「あさって」、「その前に」など。
仮定法「もしも、・・・」という文章も理解が難しい。
娘の場合、左脳の損傷がある。
論理的考えが苦手。
しかし、右脳が残っている。
右脳は情動、映像、音楽など、
人の楽しみの多くは、ここから生じる。
幸いにも、娘は生来の左利き。
右脳に言語中枢の一部があったのか、
聞きとる能力がいくらか残っていた。
テレビドラマを楽しんで観ている。
発病の前後で、娘の性格はまるで変った。
左脳人間から右脳人間へ。
病前は理屈屋で顔つきも態度もきつかったが、
一転、笑顔の多い穏やかな人柄になった。
結果的に、
一緒に生活し仲良くやれる娘に変貌。
親としては、うれしいやら悲しいやら。
である。
つづく