我々の新しいサイトに歩行研究者の法元君が寄稿してくれました。
体に合わせて歩く
私たち人間は1歳前後で二足歩行を開始し、その後5歳ぐらいまでに成人と同様の歩行動作を獲得するとされています。
一般的に何かの運動を身につける行為には「習得」「学習」という文字をあてますが、ここで「獲得」としたのは、多くの人にとって、乳・幼児期の歩行はだれかに習うことなく、身につけるものだからです。
そして多くの人は、成人するまでに(成人してからも)、「もっと姿勢よく歩きなさい」「ポケットに手を突っ込んで歩かない」といった小言を言われたり、運動会の前に整列行進の練習をしたりする以外にはほとんど「歩く」ことについて何かを習うということはなかったはずです。
このような私たちの「歩き」の履歴が何を意味するかといえば、私たちは誰に習うことなく歩くことを覚えていき、そして自らの体に合った歩きをしているということです。
ところが、私たちの顔・表情には親から受け継いだ遺伝子だけでなく、生活の習慣やストレス、性格等が刻みこまれるように、歩きにもその人それぞれの親から受けついた遺伝子や生活習慣が刻み込まれています。
すなわち、身体を構成する骨や筋、靭帯等の様々な組織の大きさや固さが反映されています。
Holtなどの研究者1)は歩行中の人間の身体を、地面に逆さにした振り子と、股関節からぶら下がったスイング脚による振り子で構成される二重振り子として単純化し、振り子の回転軸に粘弾性、要する実際の身体でいう筋と腱の発揮する力だけでなくばねの要素を見込んだ上で消費エネルギーの最も少なくなる効率的な歩行の周期を推定しています。
その結果、歩行開始の初期条件では筋による張力の発揮が必要であるが、脚の長さ、体重、といった身体の大きさや筋と腱によるばねの要素に見合った周期時間を選択すればエネルギー発揮することなく歩き続けられることを述べています。
さらに、慶応大学の山崎教授2)は恐竜の二足歩行について、化石等から得られた痕跡から振り子よりも複雑なモデルで分析しています。
その結果、上記の二重振り子に単純化した人間の歩行と同様に、恐竜の(化石から推定される)体型にあったエネルギー発揮が最小となる歩行周期を推定しています。
実際の人間の身体は単純化して考えることはできませんが、実際の歩行においてもこのような関節のばねの要素を活用することによって、消費エネルギーの少ない、効率的かつ、その人のもつ体の大きさに見合った歩行があるといえます。
そして、生活習慣によって影響を受けて固くなった筋・腱,靭帯や、ゆがんだ骨格の配列によって、各人の体の大きさ、特性に合った歩行から遠ざかった人も少なからずいるということが考えられます。
また、そういった影響を及ぼす生活習慣とはえてして運動不足に関係したもので。運動不足に起因した生活習慣に「適合してしまった」身体の状態で歩行を継続するということは、何がしかの歪みを抱えた歩行ということになり、却って身体に悪影響を及ぼすことも考えられます。
そのため、運動不足から文字通り一歩踏み出して歩き出す場合には、運動不足による生活習慣が身体に及ぼす歪みをほぐし、本来の身体特性に合った歩行を自分の中からもう一度見つけ出す必要があるといえます。
文責:法元康二
1) Holt, K.G., Hamill, J., and Andres, R.O.:Predicting the minimal energy costs of human walking, Med.Sci.Sports, Exerc. 23(4), 491-8 (1990).
2) 山崎信寿:二足恐竜の正しい歩き方,バイオメカニズム,10,85-90(1990).