『顔、疲れてるよ?』
そんなことを言われるくらい、夏の暑さが私から何かを奪っていたことに気づいたのは…向日葵もうつむきかけた頃だった。
足のケガと共に、私の中でピンと張っていた糸が切れた音がした。
周りに迷惑をかけまいと、元気の良さしか自分にはないだろと言い聞かせ、ケガを隠してみるものの、家に帰れば涙が止まらない日が続いた。
こういう時、誰か側で優しく頭を撫でてはくれないだろうか…
寂しさだけが日に日に増して、ホントに少しずつだけれど弱音が増えていった。
だけど…
ジョンさんにぼやけば、ジョンさんまで何故か元気がなくなってしまう。
他にぼやけば、元気でいることを求められ、救われる気持ちとはほど遠かった。
皆に愛されてはきたけれど、誰の中でも1番ではない自分の立場を嘆いた。
『誰か…助けて…。もう、疲れたよ…。』
折れかけた心のまま、久々にユウ君と仕事が重なった。
他愛もない会話の合間に、ふとユウ君の横顔が曇る。
あの頭痛を抱えながら、誰よりもハードなスケジュールで働いているユウ君だから…それを知ってる私だから…こんな状態の私でも弱音は吐けない。
今までの様に、ユウ君の横顔に問いかける。
『最近どうしてたの?…疲れてる?』
見上げる私に、我に返ったユウ君は、『ん~、無気力。』と一言。
分かる気がした。
『そっか…』と頷き下を向く私に、今度はユウ君が『りんごちゃんは?』と。
さすがに、いつもみたく『元気!』とは言葉にできなくて、一呼吸。
精一杯の笑顔でユウ君を見上げ…
『寂しい!』
と…誤魔化しの表情で素直な気持ちを一言だけ伝えた。
『寂しいか…男、欲しくなった?』
『ん…いれば少しは救われるかもね(笑)』
『そっか…そうだよな…。』
お互い、やりきれない笑顔を置いたまま、仕事に取りかかる。
職場が男だらけの時は、汗の匂いが働いていることを実感させ、女性が多い時は甘い香りが『迷惑かけちゃだめだぞ』と私の責任感を煽る。
そしてこの日は…ユウ君の香水が、同じ境遇で『無理しちゃだめだよ』と伝える私に『それは、りんごちゃんがね。』と言ってくれる存在が、なんとか私を支えていた。
仕事も終わりかけ、いつもの様にユウ君と軽くいがみ合い、じゃれ合っていた時だった。
少し薄暗く、ほとんど人がいないこの日の職場で、一瞬にして目の前が真っ暗になった。
何が起きたのか…混乱した頭の中をユウ君の香水の香りが包み、状況を理解した。
『あんまり…無理するなよ。』
優しく抱き締められ、ユウ君の声が、上っ面ではなく心の深い部分を潤していく。
誰からの『頑張れ』の言葉より、温もりが一番の優しさなのではないだろうかという気持ちが満ちていく。
少しだけ、こんな私を見逃してください。
心の中で呟きながら、そっとユウ君に身を委ねる。
優しい香りと温もりに、どこまでもどこまでも溺れていきそうだと感じながらも、身をもって感じ取れる優しさから目覚めたくない気持ちでいっぱいだった。
台風が近づく外の風が窓を震わす。
そんな天気とは裏腹に、ユウ君の香りはずっとずっと…穏やかだった。
雨だか、汗だか、涙だかわからない。
水滴が私を包み、息苦しさから逃げ出したくてただただもがく。
霧がかかる視界の先には、ジョンさんがいる。
霧を破り手を伸ばす。
ジョンさんの袖を掴めそうだが、ジョンさんはサラッと私の手をかわす。
ただその手に触れて…
ただ優しく握りたいだけなのに…
それすら許されない今が、そこにはあった。
ジョンさんの前でムスけたり、ジョンさんの前でぼやいたり、ジョンさんの前ではしゃいだり…
梅雨の霞みに誤魔化され、私は誤魔化しのない心を、水滴に乗せてジョンさんへと投げ掛けていた。
そんな6月も終わる頃。
誕生日が近付くと、さすがに1人きりの現状に、心の空は重く暗かった。
『私はずっと1人かもしれない…』
気付いたら、ジョンさんに真顔で呟いていた。
彼女の名前ばっかり話に出すジョンさんに、仏頂面で…嘆いていた。
フォローされても、言い返す。
ジョンさんの言葉をただ遮った。
ジョンさんは、伝えきれないもどかしさに顔を歪め、困った様に私を見つめた。
その夜。
携帯が雨の音に邪魔されながら、小さく鳴った。
ジョンさんからのメールだった。
『なんだかうまく伝えられなかったけど…りんごさんは魅力ある女の子だよ。』
ジョンさんの言葉に社交辞令や同情はない。
それは長い深い付き合いだからわかってる。
だから…思う。
彼女がいなければ、私達がうまくいく可能性は今日の湿度くらい高いはずと。
だけど…そんな夢は夜露に幻となって消えていく。
こればっかりは、晴れ間は見えない問題なんだ。
その日の占いには、嫌味なことに『今の恋を引きずらず、新しい恋へ切り替える時』と、記されていた。
こんなにも、いろんな可能性を秘めていて、お互いにとてつもなく大事な存在なのに、何故か1番にはなれない。
もうきっと、恋愛ではない心の1部に、私とジョンさんの関係は確立されてしまっている。お互いに。
それは特別な1部だけれど、男と女として埋め合うことはないのだろう。
こんなにも好きなのに…想いは雨音にかきけされる。
『ジョンさんは、私の事が大好きですね(笑)』
冗談だけど本気で言った言葉に、ジョンさんが『はー?』と言いつつ赤くなる。
私は間違っていない。
ジョンさんは、私のこと、大好きなんだ。
雨だか、汗だか、涙だかわからない。
頬を伝う水に触れ、ぼんやりメールを見つめた。
恋をどうやって終わらせてきただろう。
もう終わらせなければならないということだけが、梅雨の霧とは逆に、とてつもなく…鮮明だった。
水滴が私を包み、息苦しさから逃げ出したくてただただもがく。
霧がかかる視界の先には、ジョンさんがいる。
霧を破り手を伸ばす。
ジョンさんの袖を掴めそうだが、ジョンさんはサラッと私の手をかわす。
ただその手に触れて…
ただ優しく握りたいだけなのに…
それすら許されない今が、そこにはあった。
ジョンさんの前でムスけたり、ジョンさんの前でぼやいたり、ジョンさんの前ではしゃいだり…
梅雨の霞みに誤魔化され、私は誤魔化しのない心を、水滴に乗せてジョンさんへと投げ掛けていた。
そんな6月も終わる頃。
誕生日が近付くと、さすがに1人きりの現状に、心の空は重く暗かった。
『私はずっと1人かもしれない…』
気付いたら、ジョンさんに真顔で呟いていた。
彼女の名前ばっかり話に出すジョンさんに、仏頂面で…嘆いていた。
フォローされても、言い返す。
ジョンさんの言葉をただ遮った。
ジョンさんは、伝えきれないもどかしさに顔を歪め、困った様に私を見つめた。
その夜。
携帯が雨の音に邪魔されながら、小さく鳴った。
ジョンさんからのメールだった。
『なんだかうまく伝えられなかったけど…りんごさんは魅力ある女の子だよ。』
ジョンさんの言葉に社交辞令や同情はない。
それは長い深い付き合いだからわかってる。
だから…思う。
彼女がいなければ、私達がうまくいく可能性は今日の湿度くらい高いはずと。
だけど…そんな夢は夜露に幻となって消えていく。
こればっかりは、晴れ間は見えない問題なんだ。
その日の占いには、嫌味なことに『今の恋を引きずらず、新しい恋へ切り替える時』と、記されていた。
こんなにも、いろんな可能性を秘めていて、お互いにとてつもなく大事な存在なのに、何故か1番にはなれない。
もうきっと、恋愛ではない心の1部に、私とジョンさんの関係は確立されてしまっている。お互いに。
それは特別な1部だけれど、男と女として埋め合うことはないのだろう。
こんなにも好きなのに…想いは雨音にかきけされる。
『ジョンさんは、私の事が大好きですね(笑)』
冗談だけど本気で言った言葉に、ジョンさんが『はー?』と言いつつ赤くなる。
私は間違っていない。
ジョンさんは、私のこと、大好きなんだ。
雨だか、汗だか、涙だかわからない。
頬を伝う水に触れ、ぼんやりメールを見つめた。
恋をどうやって終わらせてきただろう。
もう終わらせなければならないということだけが、梅雨の霧とは逆に、とてつもなく…鮮明だった。
100%の自分を出してから、私はより一層、ジョンさんの前で清々しい気持ちでいられた。
そしてジョンさんも、なんだか柔らかい笑顔が増えている様な気がする。
心地よい距離感でジョンさんと接する日が続いたある日。
何気ない会話から、恋の話しに。
『ジョンさんはともかく、彼女さん的にそろそろ結婚したい年齢なんじゃないですか?ほら、早く結婚しちゃえばいいじゃないですか。』
思う気持ち半分、思わない気持ち半分でジョンさんに言葉を投げ掛ける。
『そりゃあ結婚したいけどさ~…でも今の状態じゃあね…』
ジョンさんがモジモジと体を動かす。
その発言から、ジョンさんの頭の中は結婚のことでいっぱいになった様だった。
夕方、一息ついていると、ジョンさんが…
『あんなこと言うからさ、結婚のことばっか考えちゃうじゃん。』
そういうジョンさんに、私はため息混じりで適当な言葉を並べた。
『早く結婚すりゃぁいいんですよ。考えてたって、どーせジョンさんは変われないし、おもいきれないし…考えないで結婚しちゃえば、結局はなんとかなりますよっ!』
『…うるせーうるせー!…ってか、自分は人の事言う前に男つくれっっ!王子様でも待ってんのか?待ってるだけじゃダメなんだよっ!自分から探さないと!』
ジョンさんがふざけたように吐き出す。
一瞬、自分の言葉が詰まる。
形勢逆転、今度は私がモジモジする番だった。
『だって…』
それ以上言葉が出なかった。
それと同時に、ジョンさんに伝えたい『好き』が溢れ出してきて、声に出して言ってしまいそうだった。
ジョンさんが結婚しないからといって、私の気持ちがジョンさんに伝わるわけではない。
逆に、早く結婚してくれた方が、自分の気持ちを吐き出せる気も…。
『好き』の気持ちは、どうしようもないくらい大きくなっていた。
伝えたくて仕方ない。
結果なんていらないから、ただ『あなたが好き』と言いたいと思う。
自分勝手だが…
その日の夜、指が『好き』の2文字をメールに示す。
『ジョンさんが…好きなんです。先輩として…家族の様な存在として…男性として…。ジョンさんが、好き…』
ゆっくりと送信ボタンを押す。
宛先のないその想いは、ジョンさんに届くわけもなく、私の携帯でもがいて消えていったのだった。
そしてジョンさんも、なんだか柔らかい笑顔が増えている様な気がする。
心地よい距離感でジョンさんと接する日が続いたある日。
何気ない会話から、恋の話しに。
『ジョンさんはともかく、彼女さん的にそろそろ結婚したい年齢なんじゃないですか?ほら、早く結婚しちゃえばいいじゃないですか。』
思う気持ち半分、思わない気持ち半分でジョンさんに言葉を投げ掛ける。
『そりゃあ結婚したいけどさ~…でも今の状態じゃあね…』
ジョンさんがモジモジと体を動かす。
その発言から、ジョンさんの頭の中は結婚のことでいっぱいになった様だった。
夕方、一息ついていると、ジョンさんが…
『あんなこと言うからさ、結婚のことばっか考えちゃうじゃん。』
そういうジョンさんに、私はため息混じりで適当な言葉を並べた。
『早く結婚すりゃぁいいんですよ。考えてたって、どーせジョンさんは変われないし、おもいきれないし…考えないで結婚しちゃえば、結局はなんとかなりますよっ!』
『…うるせーうるせー!…ってか、自分は人の事言う前に男つくれっっ!王子様でも待ってんのか?待ってるだけじゃダメなんだよっ!自分から探さないと!』
ジョンさんがふざけたように吐き出す。
一瞬、自分の言葉が詰まる。
形勢逆転、今度は私がモジモジする番だった。
『だって…』
それ以上言葉が出なかった。
それと同時に、ジョンさんに伝えたい『好き』が溢れ出してきて、声に出して言ってしまいそうだった。
ジョンさんが結婚しないからといって、私の気持ちがジョンさんに伝わるわけではない。
逆に、早く結婚してくれた方が、自分の気持ちを吐き出せる気も…。
『好き』の気持ちは、どうしようもないくらい大きくなっていた。
伝えたくて仕方ない。
結果なんていらないから、ただ『あなたが好き』と言いたいと思う。
自分勝手だが…
その日の夜、指が『好き』の2文字をメールに示す。
『ジョンさんが…好きなんです。先輩として…家族の様な存在として…男性として…。ジョンさんが、好き…』
ゆっくりと送信ボタンを押す。
宛先のないその想いは、ジョンさんに届くわけもなく、私の携帯でもがいて消えていったのだった。
