短気だけど、正義感の強い、私の父の話の続きです。
兄姉が面倒を嫌がり、たらい回しにされた祖父を引き取り、
最期を看取った私の父「末春(すえはる)」。
通夜の席で、何気ない兄の嫌味に、
短気な末春が爆発したのだ。
「やってられるか!」
祖父の面倒も見ずにノコノコと通夜、葬式だけに顔を出して、
「山形は寒いだの。」「熱燗はないのだの。」
遠慮のない兄妹に末春はキレた。
末春はそれだけでは終わらない。
祖父の遺体の前に置かれた戒名を、
汲み取り式の便所に投げ捨てたのだ。
(ここはトイレではなく、あくまでも便所と言いたい。)
うんこに刺さった祖父の分身、
これほどの親不孝があるだろうか。
一同、唖然。
兄への怒りを何故、戒名にぶつけたのかは謎だが、
末春はこれ以上ない怒りを、
「うんこと戒名」という究極のミスマッチで表現した。
しかし、末春の奇怪な行動はこれで終わらないのだ。
遺体の前にあるはずの戒名を失っては、
翌日の葬儀で坊さんが不思議に思うはずだ。
そう思った末春は部屋の片隅に置いてあった、
銀色の菓子箱の蓋だけを取り出し、
ハサミで切り出したのだ。
四隅を丸くした長方形の蓋に、
末春は投げ捨てた戒名に書かれたあり難い文字を、
マジックで書き始めたのだ。
翌日の葬儀は菓子箱に手書きした、
末春特製オリジナル戒名でなんとか乗り切った。
あれから40年以上経つが、
私の実家の仏壇にはそのお手製戒名が飾られている。



