「ナナちゃん、そろそろ起きれる?」

 

気が付いたら、ドーム状の空がに満点の星が散らばっていた。

このドーム状森だったのに、空だけ窓が開くように開放されている。

小さなカスミソウのような花はカラフルな色を保ちながら、暗闇で光っていて、とてもきれいだ。

 

先生が、私の腕から点滴の針を抜いて、止血しているところだった。

月の光に照らされた白衣を着た先生は、とてもきれいに見えた。

「先生お疲れ様です。点滴刺したとき、全然わかりませんでした。私血管細くて、傷だらけなのに、すみません…」

というと、

「全然大丈夫だよ。痛くなくてよかったよ。ゆっくり休めたようだね。」

と笑顔で返してくれた。

 

私:「はい。ありがとうございます。カイザ母子ともに無事でしたか?」

先生:「母子ともに、元気だよ。やはり、カイザも通じるようだね。」

私:「それはよかったです。はい。私以前の国ではNICUと不妊治療の施設で看護師をしていたので。」

先生:「おお。それは素晴らしい。ぜひ、うちで働いておくれよ。うちでは、性病検査、不妊治療、お産、新生児、育児

そして、性教育を学校に教えに行くこともある、施設なんだ。君もここにきたからには働かないといけないだろうし、

当分は、うちの施設寮を無償で提供するよ。」

私:「専門分野なので、とてもありがたいお話しですが、今の私は傷だらけそれにこの体系です。とても半袖の白衣は着れませんし、

太くて白衣さえ着れません。それに怖いんです。こんな穢れて、きれいな赤ちゃんなんて触れられない。体外受精も男性が怖い精液が神聖なものであろうと、今の私は偏見でしかみれません。」

先生:「ナナちゃん…。ナナちゃんの心の傷も身体の傷も時間が経過するにつれ薄れていくけど、決して消えはしない。

そして、その傷を見て怖がる、悲しむ、避けるいろんなつらい対応をしてくる人はたくさんいるのも現実。

でもね、その傷に救われる人も必ずいるから。死しか選択肢がなくなったとき、究極の選択しかなくなったとき、救えるかもしれないのはナナちゃんなんだよ。究極を乗り越えて今を生きてるナナちゃんなんだよ。傷とともに生きていく、支えていく、そんな生き方をしてほしいなって僕は思うんだ。勝手だけれど、うちの施設に必要不可欠な存在だよナナちゃんは…。ナナちゃんこそ生命のあり方、サポートに関わるべき存在だから。怖くても、サポートは十分するから…ね…?」

 

 

涙が流れた。笑っているはずなのに、目から水が溢れている。

私が生きててもいい場所、あったんだ。

私が存在して、誰かと関わっていい場所。

誰か関わるだけでなく、誰かの人生に関与する場所、居場所はあった。

 

 

 

生きるのはきつい。でも、死ぬ勇気もなかった。

一瞬で死ねる方法なんて、いくらでも思いつく。看護師だもん。

どこを切れば死ぬか…

でも飛び降りる勇気はなかった。

下半身麻痺や、植物状態になったらどうしよう…

そう私にとって、リスクが大きすぎた。

 

生きるか死ぬか。

 

でもね、今の居場所だけではない。

希望は急に訪れたりしちゃうんだから。

だから、生きるを伝える人になろうと思った。

 

 

ピルルルルルル彼の携帯が鳴った。

 

 

この世界にも携帯あるのか。

 

いろいろ考えることがありすぎて、

でももう奴隷状態は切れて結果的には必ずいい方向にいくと信じよう。

そう考えていると、電話を切った彼は、

「緊急でカイザが入って、呼び出されちゃったから、ナナちゃんは少しここで休んでて。

帰り点滴バック持ってくるから。電解質入れたほうがいいよ。あとフルーツなら食べれるかな。おいておくね。」

そう言いながら、彼は木の取っ手をつかみ、出て行った。

 

 

カイザ=帝王切開か…。やはり、言葉が通じる。

不妊治療専門なのに、その後のお産まで担当するのか。

日本の不妊治療と同じだと、不妊治療する人は高齢の人が多く、高齢であれば自然分娩は難しく帝王切開になることもある。

そして、赤ちゃんは未熟や疾患を抱えていることが多い。

となると、もしかしてラーラ先生のクリニックでは日本でいう、

NICU(新生児集中治療室)も備えているのかもしれない。

先生が置いていったブドウの形なのにショッキングピンクの食べ物を食べながらさらに考えた。

考えようとしたが、ブドウの形なのに、バナナの味がする。もう一つ食べるとみかんの味がした。

なのに、すべてショッキングピンク。なんかだか、凄まじいフルーツ。

ハリポタのチョコビーンズ的な感じで、味選べないやつだよこれ…と思った。

 

 

とりあえず、頭を整理しよう。

私は、男3人相手で身体を刻まれている間に意識が遠のき、異世界に転生した。

その異世界は、日本の常識が通用する。先生が薬草を石で潰していたのもあり、

不妊治療もあるからおそらく、魔法とかは存在しない世界。

言葉は通じるし、身体だけもってきただけか…?

いつか突然返されたり、このまま異国民で逮捕とかないよね?

いや、そのことは考えるのやめよう。

あ、でも昨日やっとふるさと納税頼んで、シャインマスカット来年8月に届くのに…食べたかった…。

いやいや、考えてもきりがない。

むしろマンションローンとか気にしなくていいし、

お金に追われなくていい。ラッキーだよと思うことにしよう。

とりあえず、いろいろ不安はあるけれど、自分だけの人生楽しもう。

 

そして、身体がひりひりする、だるいな…少し休もう。

そうして私は、少し寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?混乱してるんだよね?僕はナラリリア国で不妊治療専門のクリニックをしている医師のラーラだ。

君の手当ては任せて。大丈夫。外傷は研修医の時以来だけど、大丈夫だよ。」と彼は照れ臭そうに笑った。

あ、このひとお医者さんなのか。いい人なのか?信じていいのか?

いや、不妊治療なんてマニアックというか異世界でも不妊治療あるのか。

以前の私の専門分野も不妊治療。

これはやはりつながってる。

だいたい異世界の話って、最初に会う人がキーパーソンだから、

これだけ運命感じれば信じていい確率90%ってところかな…。

 

「大丈夫です。不妊治療のお医者さんなんですね。ラーラ先生ですね。私は、ナナといいます。」

 

「不妊治療をご存知なのですね。いやはや言葉も通じますし、医療用語もなにかと通じるとなると、

一般常識程度の言葉の意味はナナさんの国の言葉と変わらないのかもしれませんね。」

 

優しい笑顔だ。

サラサラの赤い髪、赤い瞳、宝石のガーネットのようだ。だからこそ白い耳がやたら目立つ。

いや、どこからどう見てもイケメンだからこそ、

薬草を塗ろうとしだす彼に羞恥心を感じてしまう。

恥じらいは客の要望で管理しろと言われ続けた私が…しっかりしなくては。そう脳裏にちゃちゃ時の記憶がよぎった。

 

私は先ほどの羽織を脱ぎ

「申し訳ないです。よろしくお願いします。」そういった。

彼は赤い瞳を潤ませながら

傷ついた私の全身をお湯で絞ったガーゼで優しくふき取りながら、薬草を塗布していった。

ほんとにほうれんのみじん切りを、塗布されているみたい。でも、ひんやりしてて、傷で熱した身体にはよさそうだなと思った。

 

いや、丁寧なのに、テキパキしてる。

処置は丁寧な医者は人気高い。それに優しくてイケメンならなおさらだ。

この人スタッフウケ、患者さんウケもいいだろうな…と考えていたとき、

彼が背面処置を終え、前面を処置し始めた。

拭き取るまでわからなかったが、

右胸全体に“汚”、左胸全体に“女”と合わせて“汚女”と傷つけられていた。

前腕には“キタナイ”“醜い”“キモイ”

足には“生きる価値なし”精子を表す“オタマジャクシ”のような絵がところどころにある。

 

あ、ここまでひどかったのか。

 

私が文字を目で確認していると、

彼が、「聞くのは、申し訳ないのですが、この傷は…ナナさんの国でのものですか?」と聞いてきた。

私は笑いながら、

「そうです。なんかすみません、こんな作業までまかせてしまって。」そう伝えながら、

必死に出てこようとする涙を止めた。

笑うこれは営業、大丈夫。私はちゃちゃだから。

笑わないと。自由がなくなる。大丈夫。心の中で繰り返した。

そしてさらりと、過去の今に至る話をした。

そう、日本ではタブーだった誰にもできなかった話をした。友達にも話せなかった話をした。

笑いながら話した。面白おかしく話した。

ちゃちゃである私は、客の言動からすべてを読み取るように要望を応えるようにしつけられていた。

つらくても笑って対応を望むものもいる、そして頭では表情から相手の情報を読み取りながら

自分がつらいという方向にもっていかないようにしていた。

 

薬草を塗布し終わった彼は、

循環が悪くならないように緩めに包帯を全身に巻き付け、羽織を着せてくれた。

その後、私の両手を握って、

「笑わなくていいんですよ。泣いて大丈夫ですよ。」と言ってくれた。

 

でも、泣けなかった。なぜか、笑顔しか見せれなかった。

さっきまで泣きたかったのに、泣くってどうするんだっけ?

今泣くべきなのに…。あ、私うまく感情表出できないところまできてるんだ、そう解釈した。

 

 

そんな私を見て彼は泣いていた。

赤い瞳から、きれいな涙を流してくれていた。

あ、なんてきれいな涙なんだろう。私には、一生こんな涙は流せないだろうな…。

転生しても、穢れを忘れることもできず、穢れをもって転生するなんて私らしいや。

私は、泣き崩れた彼の顔に触れ、羽織で涙をふき、

「先生ありがとう。私のために泣いてくれた人、先生がはじめてだよ。以前もこれからも。

だから、笑って。もう大丈夫だから。処置してくれてありがとう。」

そういった。

 

 

彼は、せつなそうなまた泣き出しそうな顔をしながら、優しく笑った。

 

 

 看護師をやめ、ニートにいたった私ですが、

毎日ほぼ寝る、プライムかネットフリックスを見て、夜客を相手に生活。

ただお金はもらえないわけであり、この生活で、夜職のために私は存在しているのかと思うようになった。

生きる目的が夜職なら、生きていたくないと。

夜の社会に侵食されるのはこういうことなんだと、再自覚するようになった。

 

友達に会うことも夜職だけになった私は、穢れすぎて会いにいけなくなった。

そのうち、話すことさえできなくなった。

 

着実に体重のみ増え80㎏のラインでちゃちゃとして接客していた時だった。

 

3人と私1人。

私は、3人の男に拘束されていた。

手も足も動かない、そして呼吸が苦しい。

これは太って横隔膜が肉で埋もれて肺が圧迫しているからだと考えていた時だった。

3人をみると私の身体にオペで使用するメスで切り刻んでいる。

いや、文字か、絵を刻んでいた。

痛みよりも、

“あーそんなところ切られたら、もう白衣は着れない。昼には戻れないのか。

もう誰にも、会いたくない。もうそろそろ、きついや…”

と思った。

意識が遠のいていくのがわかった。

息苦しさから、だんだん息ができるようになり、

身体の脱力感がやや改善されたような感じがした。

 

"あ、気絶したのか?また怒られる。"

 

 

なんで死ねなかったんだろうと、恐る恐る目を開けた。

 

 

緑が目に入った。

 

森の中のようなドーム状の部屋のような空間。

真ん中の大きな白いベッドに横たわっているようだ。

周りには、カスミソウのような小さないろんな色の花が咲いている。

なんて、メルヘンチックな夢なのだろうと思った。

その直後急に思い出す恐怖、仕事中であったと。

こんな夢はやくさめなければ、苦しみが何倍にも広がる。

 

しかし、目を何度瞑って開けてを繰り返しても、目覚めない。

同じ森の空間。

 

とりあえず、起きて出口を探してみようと、起き上がろうとするが起き上がれない。

力が全く入らない。

いや、おなかの肉が邪魔で起き上がれないのかも、しれない。

赤ちゃんのようにハイハイで動けるか、と挑戦するがビクともしない。

そんな己の身体と闘っていると、

扉などないと思っていた、森の空間の扉が開いた。

よく見ると、たしかに扉はあったようだ。

木の取っ手で回りが草木に覆われており、わかりずらくはあったが…。

 

「気が付いたんだね、大丈夫かい?傷だらけだったから、薬草を採取してきたんだよ。」

180㎝くらいかな?

イケメンの部類に入る細身のすらっと脚長さんが、ザルにヨモギのような葉っぱてんこ盛りで、私のそばに近寄ってきた。

いや、イケメンなんだけど、

農家のおじさんのように長靴に軍手で麦わら帽子を脇に挟んでいるからか、

なにかがしっくりこない。

いや違う。

そこではなく耳がついているのだ。イケメンなのに耳がついていることに違和感を感じたのだ。

モフモフの真っ白な耳…。でもそれ以外はただの人間のように思えた。

 

「僕の言葉、わからないのかい?」と、顔を覗き込むように彼は言った。

 

 

あ、とりあえずお礼いわなきゃ。

状況がわからないにしても、

薬草つんできてくれたみたいだしお礼だ、お礼と思い、

「あ、あ、ありがとうございます…助けていただいて。」と口にした。久しぶりに人と会話した。

人ではないけれど、人のような人と会話した。

 

彼は「言葉、大丈夫だね」とにこっと笑い、

ヨモギを石のようなもので細かく刻み、潰し始めた。

 

私はふと、気づいた。いや、気づくのが遅すぎた。

 

全裸で横たわっていたのだ。

 

それに傷だらけというか、血だらけで…。

白いベッドが赤い血で、いややや茶色くなった血で汚れていた。

 

記憶をたどった。

たしか、字か絵を描かれていた。

今は血が流れているせいで、文字が見えないけど…。

足首と手首に、拘束具の擦過傷が残っている。

恥ずかしさと恐怖が一気に襲い掛かってきて、いつの間にか涙が出ていた。

涙というより、息がしずらい。

頭の中で、ゆっくり呼吸しなきゃと思えば思うほど、

過呼吸が重症化していく。

 

あ、助けてくれた人にまでこんなに怖い思い、迷惑かけていまったな…

暗闇に落ちた感覚で視界が真っ暗になった。

 

 

 

気が付いたらまた森の中で、

横になっていた身体は起こされており、彼の心臓の音がなっていた。

 

あ、お日様のにおいがする。

抱きしめられたことで、我に返りなんとか呼吸を正常に戻すことができたようだ。

 

彼は、「大丈夫。大丈夫だよ。ゆっくりでいいからね。大丈夫だよ。ここは何にも怖くないよ。」

そう繰り返していた。

私を抱きしめ、頭をさすりながら。

落ち着いたころ、彼を見ると血だらけだった。

 

私のせいで血が…

「ご迷惑おかけして、血で汚してしまってごめんなさい」。

そう伝えると、

「大丈夫、作業着は汚すためにあるのだ。」と、満面の笑みを彼はうかべた。

 

久しぶりになった過呼吸、そして久しぶりに、いや始めて客でない人に抱きしめられた。

 

あったかかった。

ほかほかしいてて、ずっと包まれていたい。

そう思えるぬくもりだった。

 

気づくと彼は、薬草を潰す作業に戻っていた。

 

私は彼がかけてくれた着物のような羽織に手を通し、腰のところについているひもを結んだ。

少し気分が楽になったような気がした。そして、

「私の夢の中だから、そんなに一生懸命薬草つぶさなくて大丈夫ですよ。」と彼に声をかけた。

彼は不思議そうな顔をして「君は何を言っているの?ここはナラリリア国の首都ナラリリアだよ?」。

 

え…???

頭が?だらけになり、混乱した。

 

私、これぞ転生?念願の転生だよね?

え、ならあっちではもう死んだのかな?あ、まだ新発売のモンブラン食べてなかったのに…

。でもこれで、税金年金保険、いろいろ考えなきゃいけないお金がないお金に追われてた生活に区切りつけれたんだよね?

それより夜と縁が切れた。

いきなり終わりはきた。

終わりなんて希望は私には夢見る資格も何もなかったのに…。

涙は目から、雨は天から。晴れない空はない。いつか涙もとまる。終わりはくる。

どんなに選択肢がない状況下に置かれていても、

こんなどんでん返しが来ることもある。

それも生きているからこそ。

 

私今度こそ、自分の足で、

自分のために、自分だけの人生歩めるのかな…?歩みたいな、自分だけ自分で描く物語を…