今更ですが、約半世紀前の日本映画「新幹線大爆破」(1975年/佐藤純彌監督)を一昨日見てきました。
理由は、何年か前に、私の尊敬するキューバの映画研究家J.A.氏(カマグエイ在住)が現地で見たときの感動と興奮をFBで語っていて興味をもったから。映画は大ヒットしたそうです。
手元の資料によると、キューバ公開は1978年。タイトルは”El super-expreso”
ちなみに本作は、日本国内ではあまり話題にならなかったらしい。
ところが海外で高く評価され、なんとあの『スピード』(1994年)のモデルになったとか!
私は『スピード』はテレビで放映された時にチラ見した程度(しかもラストまで見ず)ですが、あちらは〈バス〉で、こちらは〈新幹線〉。疾走感も閉じ込められた乗客・乗務員の数もケタ違い!
いったいこれをどうやって解決するんだぁ~!!と見ている側もパニックに💦
ストーリー(目黒シネマのチラシより)
爆弾脅迫事件が発生!人質は新幹線ひかり109号の乗客!
走行中の車体に仕掛けられた爆弾は、時速80キロを下回ると爆破するという。
止まることのできない新幹線は博多へ南下していき…。
制作当時、国鉄が新幹線などでの撮影を拒否したほど衝撃の内容。
※上映時間:2時間32分
トレーラー(今見ると、ゴージャスなキャスティング。最近鬼籍に入られた方々がまだ若くてエネルギッシュで感慨深かったです。合掌)
★人間ドラマとしての面白さ!
東京発の「ひかり」が終点の博多に着く前に、なんとしても爆弾を外さねばらならないというタイム・リミット。が、それ以前にも様々な危機・難題が待ったなしで迫りくる。
パニックに陥らず、冷静さを保ち、乗客の生命を守り抜く新幹線総指令室。
その指令室の指示を受けながら、走る時限爆弾と化した新幹線の制御を託された運転手(演じるのは、先ごろ亡くなった千葉真一)。
パニクる乗客(その数1500人)の対応に追われる乗務員一同。しかも一人の妊婦が産気づき💦
「爆弾の外し方を知りたければ、億単位の金をドルで即刻用意しろ」と電話で要求する犯人(高倉健ほか)。彼らを犯行に追いやったのは…
乗客の安全のため妥協しつつ、犯人を突き止め、逮捕すべく走り回る警察。
最悪の事態における最小限の被害を想定し決断を下さねばならない政府。
それぞれの立場が絡み合い、対立しそうになりながらも、一刻の猶予もない状況での連携プレー。だが、犯人グループとの交渉および爆弾解除のプロセスは、一難去ってまた一難の連続!
《日本の娯楽映画の最高傑作》というレビューもあるように、スリル・ドラマ性ともに濃密な2時間半。
これ、キューバの映画館で観たら、面白かっただろうなぁ。観客の反応が(笑)
★キューバ・ウオッチャーとして印象に残ったこと
犯人グループのひとりで元学生運動家(演じるのは、こちらも先日亡くなった山本圭)の次のような言葉:「革命が成功した国に行ってみたかった。人間性を取り戻せるかもしれないから」。
これを聞いて、当時の観客は皆〈キューバ〉を思い浮かべたのでは?
一方、キューバの観客は本作を見て、金銭の支配力や犯行の背景、仕事優先の乗客の態度に資本主義社会の欠陥を見たのでは?
そう思うと、ICAIC(キューバ映画産業庁)が本作を選んだ理由にも興味を覚えます。
いずれにせよ、本作がキューバで見てもらえて嬉しい!
おかげで私も見るチャンスをもらえました。
★個人的感慨
本作が公開された1975年の日本。新幹線が運行を始めて10年。
映画では、その〈完璧な安全性〉が逆手にとられ、爆破のリスク要因に転じており、安全神話の盲点、想定外の事象への対処の点で現在ともリンクする作品。
日本の危機管理は大丈夫なのか?
(全然大丈夫じゃなく、むしろ劣化しているのではないかと心配)
ウクライナ侵攻後、攻撃能力ばかりが問題にされているけれど、国民の安全のための対策は?
世界的な気候変動への対処は?
止まれずに疾走する新幹線は、私たちの住む地球の象徴かも。
★後日談(6月3日)
本投稿をFBでシェアしたら、すぐにJ.A.氏から「この映画をもう一度みたいなぁ。当時のキューバで大ヒットしたんだよ。我が国の映画の記憶を蘇らせてくれてありがとう」とお礼のコメントを頂きました。(ヤッター!)
そこで「あなたの投稿のおかげです。それにしてもICAICが本作を選んだ理由に興味があります。先見の明があったと思います」と返信したら、ICAICの配給について興味深いコメントが返ってきたので、今後の記事に活かしたいと思います。
ちなみに『新幹線大爆破』のほかに同じ佐藤純彌監督の作品では『野性の証明/ Persecución implacable』と『人間の証明/ La prueba del delito』もキューバで公開され、特に『野性の証明』は超ヒットしたそうです。
他にも、日本映画ファンのキューバ人(たぶん若い人)から「佐藤純彌監督は僕の映画リストに欠くことのできない監督だ」と返信があり、邦題のままで「これまでに『廓育ち』『空海』『敦煌』『男たちの大和』を見た」と教えてくれました。
私は『男たちの大和』しか見てない💦
ちなみに彼に「私がキューバ映画にハマったきっかけは『低開発の記憶』と書いたら、「なんて良いきっかけだ!」と。
J.A.さん曰く「映画は国境を超える装置」。
FBのおかげで、キューバの人たちと半世紀前の日本映画で繋がれ、一瞬ですがワクワクしました。
最後に、ブラジルの日系二世の友人からは辛辣なコメントがありました。
「革命が成功した国は世界のどこにもない。過去も現在も未来においても」
私の返信:「それを認めるのは辛いです。おそらく成功した国はあるのでは?問題は成功を維持すること」