3人のキューバ人が語るメーデーの真実 | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

あの超大型台風が吹き荒れた晩、BS1スペシャル「世界で一番アツい日~キューバ・100万人の大行進」を見た。

番組は、メーデー(労働者の日)の祝祭的パレードのシーンから始まり

《だが労働環境の改善や賃上げ要求をする者はいない》というテロップのあと

《それには理由がある―》と続き

《キューバの“言論の自由度”世界180か国中169位と出る。 

すると「本当のことは言わない。怖いから」と言う声がし、その声の主(ぬし)が映る。

 

 ここまでで私はかなり期待した。なぜなら「表現の自由」は、私にとって大の関心事で、キューバが好きだからこそ、そこにメスを入れて欲しかったから。 

というわけで、キューバの良さ・番組の特長は多々あれど、批評性を尊ぶキューバ映画の精神に倣い、拙ブログでは「表現の自由(不自由)」に焦点を当てて、ツッコミ(*印)を入れてみます。

 

《3人のキューバ人が語るメーデーの真実》 番組テロップ 

主な取材対象は3人。いずれもハバナで暮らしている。

そして、カストロ政権下で生まれ育つ(カストロ政権しか知らない)。

若い順に紹介すると、

アレハンドロ(16歳):ハバナ有数の進学校に通う高校1年生

ユスベル(28歳):タクシー運転手(自営業者)。冒頭の声の主

マルタ(50歳):女医、20歳の息子と暮らす。

 

 まず、この3人のメーデー参加/不参加とその理由が明かされていくのだが、3人のなかで最も雄弁かつ模範的な発言をしていたのは、マルタ。もちろんメーデー参加。彼女の話やナレーションを聞きながら、私は映画『シッコ』の拙稿を思い出していた。

 *『シッコ』とキューバの医療事情(2007年の記事) 

  「ファミリードクター制」のほか、あの当時見聞きした問題についても書いたので読んでください。問題点(海外派遣による医者不足)は改善されたのだろうか?

 

 アレハンドロは、冒頭「同じことばかりで変化がない」「飽きる」と言いつつも、メーデー参加。友達と楽しげだったが、学校から参加するよう言われているのだろう(というのは、あくまでゲスの勘繰りだけど、実際に聞いた話でもある)。

「革命とは?」という問いにも答えようとしなかった(が、彼の表情が代弁していた)。 

*彼の学校の授業で、先生が「社会主義には様々なかたちがある。他国のいかなる社会主義も模倣する必要はない」と言っていたのが印象的。その当初の理想(チェが象徴)=からソ連化に舵を切ったのはフィデルではなかったっけ?

 *人間の顔をした社会主義の終焉(チェコとキューバ)  

 そもそもキューバ革命を1961年に「社会主義革命」と定義したのもフィデルだった。

 *先生の言葉を聞くアレハンドロの表情が冷めている気がしたが、その後の発言が裏付けていた。

 

ユスベルは唯一の不参加。ただし、国営企業で働いていた頃は「メーデーに行かないならクビだ」と言われた(*やっぱり)。

自営業者(タクシー運転手)の彼は、近年のキューバの変化(外面だけでなく内面も)を象徴しているようだ。

 *《1968年 国民のほぼ全員が国営機関の職員に》というテロップが出たが、この一行の裏には歴史的出来事がある。同年の「革命大攻勢」によって、5万5千件以上の私有企業、個人商店が接収されたのだ(フィデルの失策と思われる)。それから40年以上を経て、遂に《2010年 自営業認可の規制緩和》に至る(戻る)。

 

*その結果、新たな貧富の差が生じる。外貨(CUC)を手にする者としない者との間に。

キューバでは配給物資があるものの、それだけでは暮らせない。必要な物を手に入れようとするとCUCが必要になる。それで観光客相手の仕事に就きたがる人が急増。『シッコ』の記事では医者からの転職に触れたが、学校の先生も同様で(ユスベルの父も教師からタクシー運転手に)、収入増を求めて辞める人が増え、教育の質の低下が問題化した。今はどうなのだろう? *拙ブログ記事

  

 それにしても、キューバ人の平均月収約3千円に対し、タクシー運転手の月収が約10万円とは!不安定要素はあるだろうが、30倍以上!ちなみにマルタの月給は約9千円。10分の1以下だ。

彼女は「給料で買えないものは買わない」と言うけれど、妹と弟がアメリカに住んでいるので送金があるのでは? 転職はしなくても、親族の送金(や送られる物資)に頼っている場合も多いし、外国に親族がいるキューバ人は非常に多い。

ところで、「送金」の話になると必ず思い浮かぶのが、映画『ビデオレター』

この映画には、家族に仕送りするための移民と別離、世代間の意識のギャップ、ゲイへの偏見(マチズモ)など、キューバの公的メディアでは語られない複雑で社会的に不都合な事情が描き込まれている。

キューバを深く知りたい人、変化を遡って知りたい人には、ぜひ見てもらいたい作品だ。

 

最後に、マルタは「太陽があり、海があり、仕事があ(り、家があ)る。ほかに何を望むと言うのでしょう」と言ったが、大事なものが抜けている。

「表現の自由」「異なる意見を持つ自由」だ。 

私がキューバ映画を通して伝えているのは、それを主張するキューバの声。

 

ちなみに、報道の自由度ランキングで、日本は2010年の178カ国中11位から今年(2019年)は180カ国中67位に転落と、G7(先進7カ国)中、最下位だ。(参考:韓国 41位、ハイチ 62位、ニジェール 66位、キューバ 169, 中国 177位) 

だから、キューバ映画の声は、私の願い、日本の「表現の自由」を主張する人の声でもある。

 

《3人のキューバ人が語るメーデーの真実》

あなたは、誰に共感しましたか? あるいはどんな感想をもちましたか?

 

追記(10月15日)

知人の中尾晃さんが番組の感想を寄稿して下さいました。

こちらもぜひお読みください。

https://ameblo.jp/rincon-del-cine-cubano/entry-12535880952.html