『ルシア』について/ マリオ・ピエドラ(ハバナ大学教授) | MARYSOL のキューバ映画修行

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『ルシア』 監督:ウンベルト・ソラス (1968年)
                             マリオ・ピエドラ(ハバナ大学教授)


1959年以降のキューバ映画の監督のなかでウンベルト・ソラス(1941~2008)は、女性を中心人物として据えた最初の監督の一人だ。
1965年、ソラスの壮大な作品『マヌエラ』は人々の意表を突いた。なぜなら、マヌエラという名の田舎娘が主人公で、その彼女がやがてゲリラに転じ、バティスタ独裁政権(1952~1958)を倒す武装闘争に加わるというストーリーだったからだ。

確かに実際の反バティスタ闘争に女性も参加した。しかし“反乱者”といえば男性であるのが常。ゲリラ戦という一見“男の”活動の概念の中心を占めるのは男性と決まっていた。


1968年、ソラスはさらにアイディアを推し進め、女性を通してキューバ史の重大事件を語ろうと決意する。こうして生まれた長編『ルシア』(160分)は、百年に及ぶ政治闘争史から三つのストーリーを紡ぎ出し、統合している。
三話の時代はそれぞれ1868年、1933年、そして196…。いずれルシアという名のキューバ人女性が時代の求める闘いと関わる内容だ。第一話は、対スペイン独立戦争。第二話は、残酷な独裁体制との戦いで、キューバ人にとり特別な意味をもっている。第三話のルシアは、1959年に勝利した革命が要請する活動や労働に熱中する。


この三話が示すのは、歴史的重大時における女性の関与のみならず、時代が進むにつれ、女性がより自覚的に参加していることだ。最初のルシア(1895年)は、本人の意思と無関係に、対スペイン戦争にからむ裏切りと死の物語りに巻き込まれる。二人目のルシア(1933年)は、すでに能動的な活動家で、独裁と闘い、夫の死後は威厳をもって彼の立場を継ぐ。

そして三番目のルシア(196…年)は、夫との関係において政治的に進歩的な姿勢を推し進めていく。


ソラスは一話ごとに鮮明な映像化を達成したうえに、各時代やその感情にふさわしい形式を用いた。その結果、各々独自のスタイルをもちながらも、テーマと意図において連結する3本の作品が観客に届けられた。この功績の多くは、100時間に及ぶ撮影フィルムをまとめたネルソン・ロドリゲスの編集と、名カメラマン、ホルヘ・エレーラの撮影に負っている。


『ルシア』は瞬く間にキューバ映画の四大“古典”と見なされ、ソラスはラテンアメリカ映画の名監督の一人となった。彼の映画とビジョンは、ルキノ・ヴィスコンティの影響を色濃く受けており、本作を含め全体に“オペラ風”で壮麗な作りを特徴とする。
また、ソラスの作品は、終始一貫して女性への讃歌である。そこには、どの時代にも存在する矛盾、問題、不正が最も良く表されている、と彼は言っていた。“女性映画の名手”という点で、ソラスは日本の巨匠、溝口健二とも似ているかもしれない。