『Los dioses rotos(仮題:壊れた神々)』 | MARYSOL のキューバ映画修行

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【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。


MARYSOL のキューバ映画修行-Los dioses rotos 1 『Los dioses rotos(仮題:壊れた神々)』

キューバ/2008年 


監督・脚本:エルネスト・ダラナス
撮影:リゴベルト・セナレガ
編集:ペドロ・スアレス
芸術監督:エリック・グラス


ストーリー
大学教授のラウラは、1900年代初めに実在した有名な女衒(売春斡旋業者)

アルベルト・ヤリーニについて調べるうち、現代のハバナ、サン・イシドロ地区に

巣くう闇の世界、そこに今なお息づく「ヤリーニ伝説」に絡め取られていく―


Marysolから
この映画、実際にハバナ映画祭が始まるまで“ノー・マーク”というか、存在さえ知りませんでした。

それで何の期待もなく、人影もまばらな映画館のシートに身を埋めたのですが、始まるなり、斬新な(キューバ映画にしては…)カメラワークに目を奪われ、芽生えた期待は、スリリングな展開を追って高まっていき、ラストでは、冬空の花火のように昇華したのでした。


それにしても鮮烈な印象と、複雑な構造(伝説と現実が混在する)に心がざわついて、もう一度見に行きました。

2度目は宿泊先のセニョーラと行き(この時は映画館は満席)、分からなかった点を説明してもらったのですが、それによると、現在のポン引きロセンドは、伝説的女衒ヤリーニの遺品(血のついたハンカチ)を所有しているがゆえに、その神話の力を借りてのさばっていたんですね。


というわけで、映画を理解するには、ヤリーニにまつわる伝説やサン・イシドロ地区についての予備知識が必要かも。
ネットで調べたところ、サン・イシドロ地区は1902年~1913年まで、ハバナの中心的な売春街だったそうで、当時は主にフランス人が牛耳っていたらしい。そこへキューバ人の女衒として頭角を現したのがヤリーニで、意外にも、彼は高貴な家柄の出だった。ゆえに甘やかされて育ち、浪費家となり、しかもハンサムでエレガントだった― そんな若者が“楽して稼げる”ヒモからポン引きになり、いつしか「サン・イシドロの王」と異名をとるほどの大物に成長。

しかし、何がきっかけだったのか、フランス人の女衒と揉め事を起こし、射殺されてしまう。
ヤリーニの埋葬には、上流階級の人たちから娼婦やヤクザなど下層階級の人まで何千人もの参列者が立ち会ったうえ、アバクア(アフリカの宗教を起源とする男性だけの秘密結社)のメンバーも歌や太鼓で追悼した。

 こうして今尚語り継がれる“伝説(神話)”が生まれた―


         MARYSOL のキューバ映画修行-Los dioses rotos2

      ラウラ(シルビア・アギラ)とアルベルト(カルロス・エベル・フォンセカ)


 
本作品の主な登場人物は、売春業の親玉ロセンド(エクトール・ノアス)、彼の娼婦サンドラ(アニア・ブ・マウレ)、その元恋人アルベルト、ヤリーニ研究家ラウラ。

この4人を中心にそれぞれの関係者や“世界”が入り込み、随所にアフロキューバン的要素も散りばめられているため、“よそ者”はまるで迷路に入り込んだような気分になります。

でも、その当惑こそが、この映画の魅力であり、現在のハバナのモラルを問う監督の意図するところ。
もし今回(2008年度)のハバナ映画祭で見たキューバ映画のうち、どれを日本で紹介したいかと訊かれたら、この映画『Los dioses rotos』を選びます! 

ちなみに映画祭では「観客賞」を受賞。


     注目の新人女優、アニア・ブ・マウレ

      MARYSOL のキューバ映画修行-Annia Bu Maure2

     チャーミングでスタイル抜群のムラータ

     『El cuerno de la abundancia』でも準主役級で

     存在感をアピール!