夏子のハバナ国際映画祭レポート2006 (3) | MARYSOL のキューバ映画修行

MARYSOL のキューバ映画修行

【キューバ映画】というジグソーパズルを完成させるための1ピースになれれば…そんな思いで綴ります。
★「アキラの恋人」上映希望の方、メッセージください。

【No.3】 貨幣制度+物価+お勧め作品紹介
こんにちは。レポート第3回目の今日は、作品紹介とキューバの貨幣制度&物価について。なんて言ってもキューバの複雑な二重構造の貨幣制度は旅人泣かせ!です・・・。


キューバには人民ペソ( moneda nacional )と兌換ペソ( peso convertible )の2種類があり、この使い分けがとても不透明で分かりづらいんですね。

ちなみに1兌換ペソ=約24人民ペソ=約131円です。基本的にキューバ人はお給料も人民ペソでもらい、買い物も人民ペソでします。逆に外国人は基本的に兌換ペソを使用することになっているようです、が!キューバ人も兌換ペソを持っていて時には使いますし、外国人でも人民ペソを使って受け取ってくれる場所・機会があります。そして、人民ペソで支払う場合と、兌換ペソで支払う場合には値段が大幅に異なる場合もあるし、同等の金額の場合もある。ね?!分かりづらいでしょう??これが時にはトラブルの素に・・・


あれは忘れもしない映画祭開催1日目。朝一番の上映を見て感動しまくった後、急いで昼食をとって次の映画館へ行かなくちゃと、私が近場のカフェテリアに飛び込んだ時のこと。昼食の値段を聞いたら30人民ペソ(1.25兌換ペソ)との返事。安い!それなら兌換ペソでも2ペソぐらいだろうと、チキン&野菜&ライスを注文しました。そこへ、白人系外国人の映画祭関係者が登場(なにせこの人、2メートルはあるだろう大男、どこにいても超目立っていました)。ちょっと離れた席で同じく値段を聞いた後、昼食を注文。お互いに黙々とご飯を食べ、偶然同じタイミングでお勘定を頼んだところ、、、なんと伝票には6兌換ペソ(約144人民ペソ)って書いてあるじゃあないですか!!!彼も私も「なんじゃこりゃ~!」と同時に全く同じリアクション。思わず顔を見合わせてしまいました。


ウェイター達は6兌換ペソと書かれたメニューを持ってきて私たちを説得しようと試みましたが、彼は壁に書かれているメニューに3兌換ペソと書かれていることもチェックした上で注文していたので、「これは殆ど詐欺だね」、とウェイター達に詰め寄り、「キューバの人々が低所得で大変なことは理解している。しかし人民ペソの5倍近い値段はやりすぎだろう。3兌換ペソまでなら支払おう。しかしそれ以上は払う謂れはない」と宣言。私の分もまとめて交渉してくれ、ウェイター達も納得してその金額を受け取り、事なきを得たのでした・・・。


ちなみにこのカフェテリアの場合、外国人でも人民ペソで支払うことが出来て、その場合は価格もキューバ人と同じ30人民ペソ(1.25兌換ペソ)。なので、やっぱりキューバに長期滞在しようと思ったなら、人民ペソも両替して持っていた方が得ってことなんだろうと思います。


ただし、いつでも使える訳ではありませんので要注意。基本的に既製品の飲み物(ジュース・ビール・水など)は常に兌換ペソしか受け取ってもらえませんでしたし、高級ホテルやレストランなんかもダメ。逆に、大衆食堂やちょっとしたカフェテリアなんかではかなり通用しましたし、公共交通機関(バスなど)も問題なく乗せてもらえました。と言うことで、心構え的には、常に人民ペソも携帯しておいて、すかさず見せる→使えたらラッキー・・・というところでしょうか。


さてキューバの物価。こんな状況なので一言で説明するのはとても難しいのですが、ご参考までに例を挙げてみます。
・ パック入りジュース(200MLぐらい) 0.70兌換ペソ(約91円)
・ ハンバーガー  1.5~2.0兌換ペソ(約196円~262円)
・ 一般的な定食  3.5~6.0兌換ペソ(約458円~786円)
・ 民宿一泊     25~35兌換ペソ (約3275円~4585円)
・ タクシー(歩いて30分の所) 2ペソ(約262円)


う~ん、こうして書いてみると、やっぱり他のラテン諸国に比べても相当高い!一日3食食べて、タクシーにも2度ほど乗ってしまうと、1700円ぐらい毎日掛かる上に、プラス宿代なので、節約しても一日6000円ちょっとの計算!今回私はハバナ滞在16日間で10万円程掛かりました(とほほ~)。キューバに行かれる予定のある方、参考になりましたでしょうか。 

     スイス人ジャーナリストのゲリー  
ゲリー こうして色々とややこしいキューバの旅ですが、やっぱりいいこともあるんです♪この時知り合った白人の大男、実はスイス人のジャーナリストで、1995年の映画祭から毎年参加している“ラテンアメリカ映画の辞書“みたいな人でした。結果的に彼には映画祭開催期間を通じて助けられ、ラテンアメリカ映画やキューバ情勢について多くのことを教えてもらっただけでなく、彼の友人のキューバ人ジャーナリスト達とも親交を持つチャンスを与えてもらい、トラブルを通じた出会いに感謝なのでした♪







12月7日(水)に見たお勧め作品

Cronica de una fuga 『Crónica de Una Fuga 』
監督:Israel Adrian Caetano (アルゼンチン)
制作:アルゼンチン 2005年
上映時間:102分


【ストーリー】
1977年、軍事クーデターによる独裁政権下のブエノスアイレス。国軍所属の“課題チーム“はBリーグのサッカーチームでゴールキーパーを勤めるクラウディオ・タンブリーニを拉致し、モロン地区郊外の貴族の豪邸-セレの館―と呼ばれる非合法の邸宅へ監禁する。多くの若者が己の運命が決定されるのをひたすら待つ、このルールの無い拷問施設で、クラウディオは社会運動家のギジェルモと出会う。4ヶ月間の捕虜生活の後、明日に処刑を控えるギジェルモを先頭に、クラウディオと2人の若者は監視の目をかいくぐり、窓を開け放ち、嵐の闇の中へ全裸で飛び降りた・・・。これは実話をもとに製作された歴史映画である。


本作、2006年ハバナ国際映画祭最優秀編集賞と世界カトリック教会賞を受賞した力作です。

Israel Adrian Caetano監督は前回ご紹介した『Oso Rojo(赤い熊)』を撮った監督で、その力量はさすが。アルゼンチンの独裁政権下の悲劇については知識として知ってはいましたが、「映像が訴える力って本当に計り知れない!」と実感させられた、映画というメディアが持つ力を遺憾なく発揮している作品と言えます。


そもそも、私達が生きているこの瞬間に、パラレルに進行する世界各地の歴史、事件、出来事を一体私達はどこまで知っているでしょうか。1976年に始まった同独裁政権時代の膨大な行方不明者の家族は今も癒されない傷を抱えて生きていて、これは決して“遠い過去のお話し”ではなく、紛れもない“我々の時代の物語”です。更に今この瞬間、例えばメキシコのオアハカ州では汚職政治家を巡って激しい社会運動が起っていて、それら社会運動のリーダー達が刑務所に入れられているだけでなく行方不明になっている現実などもあり、中南米の多くの場所で1900年代に起ったこのような歴史的事件は今も尚いつ起っても不思議じゃない」要素を孕んでいると言えます。


だから、一人でも多くの日本の方にこの作品を見てもらい、ラテンアメリカの“シニカルな笑いのルーツである悲劇的な歴史についても、広く知ってもらいたいなぁと思いました。“陽気なラテンアメリカ“というイメージの根っこには、「笑って生き延びるか、絶望して死ぬか」という究極の状況・選択があったという事実を忘れては、本当のラテンアメリカの姿は見えてこないかもしれません。


12月8日(水)に見たお勧め作品

Madeinusa 『Madeinusa (マデイヌサ)』 
監督:Claudia Llosa (ペルー)
制作:ペルー・スペイン合作 2005年
上映時間:122分
【ストーリー】
ペルー奥地のインディオの伝統的集落、時は聖週間。聖なる金曜の午後から日曜のキリスト復活までの間は「神が死んでいる」ため、何をしても罪にならないと信じられているこの村では、この時、人々にはあらゆる欲望を満たすことが許されている。その聖なる金曜の前夜、村にリマから地質学者の青年が偶然流れ着いた。彼の存在がパーティーの妨げになることを恐れた村長は自宅の納屋に青年を監禁するが、村の外の世界を夢見る14歳のマデイヌサ(村長の長女)は彼を助け、自分をリマに連れて行ってくれるよう頼む。鳴り響く花火、酌み交わされる酒と音楽に酔いしれ踊る人々、妻と夫を交換し一夜限りの情交を結ぶ男女、饗宴の影で交わされるマデイヌサとの約束は、青年を想像のつかない結末へと追い込んでいく・・・。


本作、2006年ハバナ国際映画祭新人部門第3位を受賞しました。既に日本では昨年9月に『第3回スペイン・ラテンアメリカ映画祭』で上映されていて、マリソルさんも9月28日のブログでコメントしています。


映画のタイトルでもあり、主人公の名前でもあるMadeinusaはなんと、「Made in USA」のこと。

貧しい先住民集落にも入り込む多くのアメリカ商品に表示されるこの文字を、「何かいいこと」と勘違いして子供の名前につけてしまう親が実際に多くいると言います(キューバでもソ連製の薬の名前を子供につけてしまった例があったそうです!)。このタイトルは主人公の名前であると同時に、村の外の世界を全く知らない彼らの“無学の象徴”としてつけられたものと思われますが、 ”無学“であることの「悲劇性」よりもむしろ、「したたかさ」を描いているところがこの作品の素晴らしさだと私は思います。


実は私、昨年9月に日本に帰国する前は2年間、南米ボリビアで正にこの映画に出てくるようなインディオの人たちと共に仕事をしていました。以前から”ピュア“とか”ピュアな人“って言うのは、他者への配慮とか周囲の状況を考慮すること等を一切無視した傲慢さ、わがままと紙一重なものだなぁと・・・個人的に思っていましたが、ボリビアでの経験を通じて今更に、このインディオの人たちの逞しさ、したたかさ、”ピュア”と呼ばれるものの二面性をしみじみ感じています。


だからこの映画を見た私の感想は、「やっぱりInnocent とIgnoranceは全てに勝つのか・・・!!」でした。先住民集落の貧しい暮らしや、主人公マデイヌサのイノセントな表情にとらわれて、「貧困ってかわいそう・・・」という詰まらない視点でこの作品を見てしまうと、彼らの強い生命力は見えず、全く違った印象になるでしょう。また、いわゆる先進国の物差しで計ると、彼らの風習や習慣は“野蛮なもの”として受け取られてしまう危険性がありますが、ラテンアメリカを侵略した当時のスペイン人的発想は捨てて、彼らの世界に一歩足を踏み入れ、そこに根付く“掟”や“常識”をあるがままに見ることで、その場所できちんと機能している“生活”が見えることと思います。本当に良く出来た作品です。「やられた~!」と思ったお勧めの一作!!