客電を落としながら開演を告げるアナウンスとブザーを鳴らしてSE(場内に流れる効果音や音楽のこと)のボリュームを下げる。同時に3つのことを行なうこの作業…実は1番緊張する瞬間。
ステージに2人が出てきてから演奏を始めるまでの“間”を演出したかったので早めにSEのボリュームを落とす。演奏前の演者の息遣い。例えば万雷の拍手で迎えられたオーケストラの演奏が始まる前のちょっとした床や楽器の小さな物音や咳払い、ドキドキとワクワク、期待と少しばかりの緊張、様々な感情…。この演出が夢の入り口。
エンターテイメントは現実を忘れさせてゲストを夢の中へ誘うことを最大の目的とする。
Godin(ゴダン)5th Avenue CW に搭載されたP-90の芯のあるブッ太い音と、やはりRitomoさんの芯のあるクリスタルのように輝きを放つ歌声の圧倒的な存在感が響き渡った瞬間…………ライブの始まりは夢の始まり。
一方、PA席の私は当日まで2人とも立って演奏すると思っていたので照明の位置の微妙なズレが気になっていた。機材トラブルもあり気が回らなかったのは私の責任。ピンスポは一寸の狂いもなく狙わなければ思い通りの演出ができない。が、2人の歌がそんな不満を吹き飛ばすかのように観客の心に染み渡っていく。一瞬で“今夜はこのままで大丈夫だ”迷わず確信できた。
二人芝居を演出するような照明。かつて下北沢で芝居を見まくっていた頃を思い出す。小道具など何もない普通のビルの事務所みたいな場所を照明と役者さんの演技だけでその場を表現し、あたかもその場の目撃者であるかのような錯覚をしたあの強烈な空間。僕が目指しているのも正にそこだし小劇場と名もなき演劇集団が放つギラギラした得体の知れないエネルギーは言葉にならない刺激を得る。新しいカルチャーはいつもアンダーグラウンドから生まれる。
2人のセットリストと照明の注文が書かれた構成表を見ると「たんす」の部分が“無色”となっている…こりゃ新たなイジメであるw。ま、気にせず照明ドカーンといっちいましたがww。
コール&レスポンスもやり難い空気の中で歌われた「yellow」にはお客様も心の中でレスポンス。
煙と共にミラーボール好きなので最後の最後にミラーボールを回す。例えていうなら吉本新喜劇のオチと同様なポジションかと…。
そんなわけで贅沢な時間は大きな事故もなく無事終了。次回への課題はいつものこと(俺個人のね)。永遠に満足なんてしないだろうから面白い。
ライブ中、とあるオーディションの話題になったときに去年の場面が頭をよぎる。
審査員が「秋でもないのになぜ“紅葉(もみじ)”を選んだの?」とやや呆れたという調子の嘲笑よろしく質問を投げかけた。“しょせんその程度の奴らがメジャーと呼ばれる音楽界を牛耳っているのか”と思うとバカバカしくもあり。
後日この質問へのアンチテーゼとして「音楽が季節に合わせるのではなく音楽がその場、その季節へと誘うのだ」とかきこんだ。音楽愛がどちらにあるかなどという軍配はアメーバでもお分かりだろう。
山下達郎はライブのMCで「聴き飽きたという人もいるでしょうけど僕のライブが初めてという人で“聴きたい”という人がいる限り演り続けます」といってクリスマスイブを歌い続ける。たとえ真夏のライブであろうと関係なく。エンターテイメントの鏡だ。
もうひとつ山下達郎の話しだが土砂降りの野外フェス、氣志團万博のときに「台風がなんぼのもんじゃい。雨風上等です」と言った後か前か忘れましたが「セットリスト全部変えました。今日はバラード一切演りません。ダンスナンバーで温まってください」といって始まったライブはスマホの小さな映像でもカッコよくて感動してしまった。今後の悠宇にもこうあってほしい。
きっと昨年のオーディションは今回のために落ちたのだろう。おかげで「たんす」が良い感じに仕上がり(自画自賛)、審査員への反骨心も生まれ、オマケに大きな野外フェスも見えてきた…ってか絶対に間違いないだろう。「たんす」が売れたら俺もマージンもらえる約束を取りつけた。俺の取り分のパーセンテージは任せる。
「Ritomo、悠宇のツーマンライブに未来を見たんだ」そんな夜でした。2人の若者に注目。
思いのままに書いたら長文になっちゃったね。まだまだアツいよ。