貴志祐介
2008年 講談社
今から1000年前の文明が滅んだ「血塗られた歴史」のあと、日本列島では9つの街に約5万人の呪術を操る人間が暮らしているだけだった。人間たちがやりたがらない仕事は呪術を持たないバケネズミが引き受けていた。
本人の思いとは関係なく呪術が漏出して周りの木々や大地、家の壁を捻じ曲げ、人命をも奪ってしまう業魔(別名 橋本アッペルバウム症候群)、人間が人間を呪術で殺すことは禁じられており万が一そのようなことがあれば愧死機構によって自らも死を遂げるのであるが、遺伝子の突然変異により攻撃抑制がきかない人間は悪鬼(別名 ラーマンクロギウス症候群)と呼ばれた。業魔や悪鬼は恐ろしいものとされ、悪魔を呼び寄せる行為 即ち八丁標を超えて街の外へ出る行為は固く禁じられていた。
しかし、子供ながらの好奇心と冒険心から八丁標外への探検に乗り出した5人の子供たちがいた。彼らはミノシロモドキ、不浄猫の存在を知り禁断の知識を得てしまう。それは封印すべき過去が巧妙に隠され、追究してはならない噂には閉口するよう誘導されているという事実だった。人間と情報が管理されることによって、この街の平和と秩序が維持されていたのだ。 5人は、想像をはるかに超える物語に巻き込まれていく。
貴志氏は自身のインタビューで「完全にインドア派で読書好き。友達の家に遊びに行った時も本棚から勝手に本を出して読んでいた」と語っている。村上春樹にハマった時期があり特に『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』は好きだったと述べる氏が描く洞窟内の様子は、同作へのオマージュではないかと感じた。蒸し暑く光のない洞窟内を住処とする蛭、蓄積した排泄物の中で生きる蝿、大群となり人の影のよう動き回る吸血ダニ…。血飛沫を浴びたり首の骨を粉砕するグロテスクな恐怖もさることながら、絶対的な恐怖は人間の心理への訴えである。この点を圧倒的に得意とする貴志氏が描く一言一句に、読者は引き込まれてしまう。
『新世界より』は2012 年にアニメ化されている。お経を唱えるような、妖術をかけるようなBGMが物語の不吉な展開を予期させる。主人公たちは大きな瞳で愛らしく、アニメらしい透んだ声であるが、原作に忠実に再現されており物語には不気味な重苦しさがある。 一方で文字で読み取れるような本能的な拒絶感、過去への哀愁といった炎が揺らめくような心の動きが映像では伝わりにくいのが少し残念である。
本書は鬼才と称される貴志祐介が1000ページを超えて書き下ろした一作である。日本SF大賞を受賞した本書をSFファンならずとも手に取っていただきたい。









