『天使と悪魔』
ダンブラウン著 越前敏弥訳
角川書店 2003年
太古から科学と宗教の間には深い溝が存在し、コペルニクスのように率直な科学者は教会によって殺害された。教会が”真理”を独占している事を不安視した物理学者、数学者、天文学者は密かに集いある組織を創設した。それがイルミナティ=啓示を受けた者たちである。イルミナィはヴァチカンではシャイタン(神の敵)、英語ではサタン(悪魔)と呼ばれ最も危険な反キリスト勢力とみなされた。
イルミナティは安全な場所を求め、別の秘密結社フリーメイソンに入り込み、世界中のフリーメイソンの人脈を巧みに利用して影響力を拡大していった。彼らの目的は新世界秩序の創造であった。現在、イルミナティは崩れ去ったと言われているが詳細は不明である。
宇宙や生命を創り出したのはダーウィンの進化論が正しいのか、はたまた神の創造論であろうか。科学者でありながらカトリック司祭を務めていたレオナルドヴェトラの夢は宗教で科学を正すことだった。ある日彼は2種類の粒子ビームを管の中で加速、正面衝突させる事で物質を生み出す実験に成功した。これはビッグバンと創造記双方に説明がつく大実験であった。物質を生み出したと同時に対消滅を引き起こす反物質が生成された。街を崩壊させる程の威力をもつ反物質は許された人物の網膜センサーでしか開けることが許されない部屋で管理されたが、レオナルドを殺害しその眼球を抜き取ってセンサーを解除し反物質を盗み出した人物がいた。イルミナティである。
目的は報復のみ。4人の司祭を殺害しヴァチカンを崩壊させ恐怖と不安を与える。「神は私たちをお守りくださらないのか?」信仰心を喪失させるのが狙いであった。レオナルドの娘、ヴィットリアヴェトラと宗教学専門の教授ラングドンはダビンチが残した暗号を解き明かし司祭4人を助け出そうとするも虚しく全員が殺害され、イルミナティの焼印を胸に押されて発見される。
土、空気、火、水…暗号になぞらえたあまりにも残酷な殺人に人々は困惑し憔悴し、今こそまさにすがるべき存在を欲していた。そこに登場したのが聖職者カメルレンゴであった。彼は人々の予想と反しイルミナティ=科学の勝利を認めた。その上で、科学が夕陽をただの波長と周波数だと解き明かす事に、生きとし生けるものが偉大な仕組みの無意味な一部だと嘲ることに、神がいる証拠を見せろと問い詰める事に一体何の意味があるのかと解く。 人々は神々しいカメルレンゴの姿に膝を折って涙した。そして今こそ神が降臨したと祈りを捧げた。
…しかしこの時誰一人として気が付いていなかった。
ビックバンが科学的に作り出せることは神への冒とくであるとし、イルミナティが科学と一体となった悪魔だと人々に大昔の恐怖を蘇らせ、その恐怖を打ち砕く唯一の方法こそがあつい信仰心だと立ち帰らせることに狂騒した人物…反物質を盗み出し4人の司祭を殺したのは次期指導者として宗教を正そうと欲していたカメルレンゴ自身であった。
…聖職者カメルレンゴは教会を信じ、教皇を崇拝していた。実は教皇には子供がいると聞かされた時、キリスト教の掟に反して行為を犯し子までもうけていた事実に憎悪の炎が燃え上がった。神への冒涜だ。許されざるべき悪態。もはや教皇は教会を汚す存在である…。
しかし彼は最後に知る。教皇はキリスト教の掟には背いていなかった。教皇は心身の底から教会を崇拝していた。教皇は人工授精という科学の最先端の方法を駆使して子を持った。そしてその子供が、紛れもなくカメルレンゴ自身だった…。
カメルレンゴは自分が科学の力で生を受けたこと、そして教皇が自分の父親だったことだと知る。自らを支えてきた炎がすっと消え去るのを感じた。彼は神に身を捧ぐと言い残し油を全身に浴びて自ら火をつけ夜の闇へ消えていった。
『天使と悪魔』原作の英語表記は『angels &demons』である。天使と悪魔は対峙するもの、即ち天使versus悪魔=宗教vs科学ではなく、物事は白でもあり黒でもある側面を持っているのではないだろうか。本書はダビンチが残した謎を解き明かしながら読み進めていくミステリースリラーの分野に分けられるが、映像化するとなればアクロバティックな戦いのシーンが長くなるだろう。
原作タイトルはなぜデーモンなのだろう?デビルやサタンでない理由が気になるところだ。4人の司祭の死に目を向けられる自信がないが機会があれば映画を見てみたいものである。




