拝啓
ラボとシュウのかあさんへ
貴女もきっと、あの子たちと同じ黒猫でしょうか
きっと貴女によく似たラボとシュウは
今日、私のもとを巣立って行きました
何が何だか分からない、真っ黒な塊みたいな
生後1日の赤ちゃん猫…
その仔たちが我が家にやってきたのは
5月24日の事でした
その頼りない3つの命は
呼吸を始めて数時間で絶える運命でした
貴女を母と知ることもなく
自分が何者であるかも
何故この世に産まれたのかも
何故死ななければならないのかも
何も知らないまま…
きっと、貴女は必死に探しましたよね
耳をそばだて
赤ちゃんたちが私を呼んでいないかと
大きな声で鳴きましたよね
小さな小さな3つの命
きっと貴女は、慈しんで
お顔を舐めて
喉を鳴らして
赤ちゃんの良い匂いを胸いっぱいに吸い込んで
痩せた体で、栄養のないおっぱいを含ませて…
貴女はそうやって
どんな環境でも、ささやかな幸せを感じて
あの子たちを育てていきたかったはず
それなのに、人は
貴女にお情けの敷物は用意してやりながら
そこを安心できる唯一の場所と信じて産んだ貴女の赤ちゃんたちを
紙くずでも棄てるかのように
汚れた敷物に包んで袋に詰めて、ゴミとして棄てました
あの日から、
あの仔たちを育てながら、
私は、貴女を想わない日は1日たりとありませんでした
どれほど大変でも、
眠れない日々が続いても、
貴女の気持ちを思うと
苦労なんて何一つありませんでした
生きて、と
死なないで、と
幸せになろうね、と
そう祈り、育てた日々
きっと私1人の願いではありませんでした
沢山の人が、
貴女の赤ちゃんを見守り
時には笑顔になり
時には涙を流してくれました
貴女は
人の優しさをまだ知らないのだと思います
でも
この仔たちが生きられたのは
間違いなく人の優しさと想いのおかげだったと私は思っています
ホットカーペットに猫ベッド
貴女の代わりの黒猫のぬいぐるみ
栄養満点のミルクに、哺乳器にシーツ…
みんなが、生きて、と願ってくれました
小さくて頼りなかった赤ちゃん猫は
いつの間にか
沢山の人の愛情を受けて
立派な子猫になっていました
ラボとシュウは
甘えん坊で、元気な良い仔に育ちました
本当に本当に、
貴女に一目会わせてあげたかったです
今日は、ラボとシュウとの別れの日でした
いつかは来る日でした
分かっていたことでした
私は今日、この日のためだけに走り続けてきました
この子たちの幸せのためだけに
私はこの3ヶ月半を生きて来たのです
一つだけ、謝らなくてはならない事があります
赤ちゃん猫の1匹、クーちゃんの死です
堪え難い哀しみでした
確かに生きようとした
あの小さな手のひらの中の温もりを
最期の小さなのどのゴロゴロも、
私はこの先も、決して忘れる事はありません
ほんの6日間でしたが、
私がどれほどあの仔を愛したか
言葉では言い表せません
救えなかった事
本当にごめんなさい
ラボとシュウのかあさんへ
あの仔たちは、
私に、
そして多くの人に、沢山の課題や想いを残していきました
人の残酷さと優しさ
生きるということの意味
避けられない死
小さな命の儚さ、強さも…
あの仔たちは、幸せになります
それも、兄弟一緒に
貴女のお腹の中から
産まれた時から
棄てられた時も
見つけられずに死ぬ運命だったとしても
何もかもずーっと一緒だったあの仔たち
これからも一緒の生活が約束されました
あの日、貴女に誓った
あの仔たちの幸せを
ようやく、果たすことが出来ます
今、私は
空になったケージを見下ろしています
あの子たちが遊んだ
あの子たちが眠った
空っぽのケージを見つめています
朝になり、ケージを開けると
喉を鳴らしながら抱きついてきたラボとシュウ
そんな日は、もう2度と訪れる事はありません
でも、哀しくはありません
辛くもありません
やはり、私の目は間違ってなかった
そう思える方に出会えました
この3ヶ月半は
本当に本当に
思い出せばついつい笑みがこぼれてしまうような
幸せな、宝物のような日々でした
そして、今
私は
とても貴女に会いたいです
本当に貴女に会いたいです
今も、貴女は
同じ場所に一人きり、眠っているのでしょうか
もしかしたら、また痩せた身体に大きなお腹を抱え
汚物にまみれた敷物の上を
この世の天国と信じて
赤ちゃんを育てる夢を見て眠っているのでしょうか
私は、この街を歩きながら
どこかにラボとシュウによく似た
痩せた黒猫がいやしないかと
きっと探してしまいます
もしも奇跡が起きて
貴女に会う事ができるのなら…
会う事が出来たら、その時は…
ラボとシュウのかあさんへ
貴女の大切なラボとシュウは
とても素敵で優しい方の元へと巣立って行きました
安心してくださいね
猫と暮らすのは初めての方です
でも、とても若く
勉強家の方です
愛溢れるご家庭に育ち
お母様に命の大切さを教わった方と思います
きっと、ラボとシュウは
新しい家族の胸に
猫を愛する心という種を蒔きます
沢山の幸せを運びます
何十年か経ち、
この世からラボとシュウがいなくなっても
その種は消える事なく
心に芽吹き、美しい花を咲かせます
それが
貴女が生きた、
ラボとシュウがこの世に産まれた意味です
ラボとシュウのかあさん
私に、あの子たちをありがとう
育てさせてくれてありがとう
本当に、幸せでした
短い間でしたが、あの子たちのお母さんでいられて
本当に本当に、幸せでした
ありがとうございます
同じ街のどこかにいる
黒猫かあさんへ
敬具
ラボとシュウへ
あなたたちの第2の運命の始まりです
私は、今日からお母さんではなくなります
私の事も、育った家の事も忘れて
誰よりも幸せになりなさい
忘れてしまっても
愛された事、
喉を鳴らして抱きついて
抱きしめられ
鼻にキスをされて
一緒に遊んで、寝て
幸福だったという夢のような感覚は
ふわふわといつも心を温かく包むでしょう
もう私はそれだけで良いのです
あなたたちは兄弟一緒です
何も心配はありません
それが一番嬉しいです
いたずらはほどほどに
好き嫌いはせず
どんなに仲良しでも、
共謀して大切な宿題のプリントやテキストは破ってはいけませんよ
帰省の新幹線ではおとなしくね
健康でいなさいね
そうしたら嫌な病院も、年に一度で済みます
新しいお母さんが名を呼んだら
甘えて飛びついていきなさい
私にしてくれたように
涙の日は、そっとそばに寄り添い
喉を鳴らしてあげなさい
きっと、笑ってくれるから
寒い日は一緒にベッドに入り
暖めてあげなさい
その温もりが、猫と暮らす何よりの幸せだと伝わるから
この世の別れがくるその日まで
新しいお母さんと、兄弟と
ずーっと仲良く暮らしなさい
そして、誰よりも幸せだったと思える猫生を送りなさい
世界を見ることなく死んだクーちゃんの分まで
楽しいものも優しいものも
毎日たくさん見て過ごしなさい
それが、私の
お母さんの最初で最後のお願いです
帰り道は、泣きました
泣かないと思ったけれど
やっぱり泣きました
でも、哀しかったからではありません
寂しかったからでもありません
帰り道、休憩時間に
お母さんはあるお手紙を読みました
新しいお母さんから渡されたお手紙でした
それを読んだ後は、
涙が止まりませんでした
嬉しい涙でした
ただただ、
ラボとシュウの幸せな未来を確信する明るい光が
心の中に満ち溢れていました
あぁ、大丈夫
私は間違えなかったよ
そう、思いました
誰よりも、何よりも
本当に本当に心から愛したラボとシュウ
私の大切な宝物たち
私は、あなたたちが大きくなったこの家で
お庭に眠るクーちゃんと一緒に
ずーっとあなたたちの幸せを願っています
長く暗い冬が来て
短くも美しい春が来て
そのあと、クーちゃんの紫陽花が咲いた頃
私は、あなたたちがどんな立派な大人猫になったのか
写真を見つめながら、想像をします
きっと、かあさんによく似た
美しいビロードのような毛並みの黒猫でしょうね
幸せに
誰よりも幸せになってね
さようなら
ありがとう
ラボ
シュウ
ずっと忘れないよ
コメント欄開かせて下さいね。
なかなか個々にお返事が出来ず、本当に申し訳ありません
リブログして下さった方、そこにコメントを下さった方
メール、LINEを下さった方、本当にありがとうございます！！
全部読ませて頂きました〜〜！！
さっき自宅に帰って来たので、お返事ちょっと遅くなります
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