私は、朝の空気を体に満たす。私の体の中に、気持ち良いくらいに綺麗な空気が入ってくる。

 今日から、私は新しい学校に通う。制服は、今までのままのセーラーをあと半年着用するつもりだ。

「杏璃ー、早くしなさい。遅れるぞ」

 父さんの声が居間から聞こえてきた。それに適当に返事をし、荷物をまとめる。

 そして、居間でたわいもない会話を交わしながら朝食を取り、学校に向かう。

 外に出ると、心地よい風が私の体をすり抜けた。

 前に住んでいた街では、時間に追われる毎日だった。前の街は、別に都会というわけでもなかったが、ここより、格段に時間の流れる速度が早足だった。
「あ、杏璃! おはろーんっ!」

 トコトコと歩く私の背後から、朝とは思えないほどテンションの高い声が聞こえた。その、検討がついている声の主の方に振り返ろうとすると、それを何かが妨害した。私の背中に、ずっしりと重みのあるものが乗っかったのだ。そして、洗いたての制服のまま私は地面に倒れこむ。

「あっはは! もー、ゴロー! それは駄目だよー。 おしおきに、ごはんにネギ入れちゃうよ?」

「巫礼、死ぬから。それは、さすがのゴローも死ぬから! おしおきのレベルを余裕で超えてるぞ」

 巫礼ちゃんの声と、もう一人、聞き覚えの無い男の声が、地面に寝そべる私の耳に入ってきた。

 少し顔を動かすと、私の背中に乗っているものの正体が明らかになった。それは、巨大な真っ白で毛がやたらフサフサした、犬だった。名前は2人の会話からもわかるように「ゴロー」というらしい。
「あっははは! ほらほらゴロー、杏璃が遅刻しちゃうでしょ?」

 そう言いながら巫礼ちゃんが、ゴローを私の背中からどかす。ゴローは、「どーん」というような効果音がふさわしいように、地面に寝そべっている。そんなゴローにはリードがついていないことに私は気付き、巫礼ちゃんにリードをつけることを勧めたが、あっははと高らかに笑うだけだった。

 とりあえず、この場を離れることが賢明だと考えた私は、巫礼ちゃん、同い年くらいの見知らぬ男に別れを告げ、池に沿って行けば着く、学校に向かう。

「あ、杏璃、だっけ?」

 男が私を呼び止めた。

「池に沿って歩くと、遠回りになるぞ。そこの橋を渡って、神社を突っ切った方が断然近道だ」

 男が指差す先には、レンガ造りの橋があった。それは池の真ん中にある島のような所にかかっていた。そこはそこそこ面積があり、池の半分は占めているんじゃないかとも思える。そこには立派な神社が建っているのが見えた。その池の形は、ドーナツのようにも見える。

「あはは! 偶然だねぇ。私たちも神社に向かう所なんだよ。杏璃一人を行かすのは不安だからね。神社までついていくよ」

 そう言い、巫礼ちゃんは地面に寝そべるゴローを引きずる。ゴローはゴローで動く気が無いらしく、全く歩こうとしない。

「あ、なんか申し訳ないなぁ……」

 私がそう呟くと、男が口を開いた。

「ゴローはうちの学校で飼ってる犬なんだ。それで、飼育係が朝と夕方散歩に連れてってやらなきゃならないんだ。で、巫礼がその飼育係ってわけさ。だから今は学校に向かってるわけだから、全然迷惑じゃない」

「そうなんだよー。中学生の頃から世話してやってるってのに、この態度だからねー。本当、焼き肉にしてやりたいよ」

 巫礼ちゃんが頭をかく。

 それから歩きながら、巫礼ちゃんはゴローについて話してくれた。

 中学2年の夏、巫礼ちゃんは友達と隣町の七峰町に遊びに行った時に、公園に捨てられていたゴローを拾ってきたらしい。その時のゴローはまだ小さかったらしく、小型犬だと思った巫礼ちゃんたちは自分たちで育てようと御鷹に持って帰ったらしい。そして中学校で飼い始めたのだが、巫礼ちゃんになついていたため、巫礼ちゃんが高校に上がる時にそのまま連れて行って、今に至るらしい。

 なんだかんだ言いながら、巫礼ちゃんはゴローのことが好きなのだと思う。

 そうこう話していると、いつのまにか神社の鳥居をくぐっていた。

「杏ちゃんにみっちゃんにたくちゃん! おっはよーっ」

 神社に着くと、私たちの進行方向にある鳥居の下で、小夜が手を振っている。その横には、巫礼ちゃんと同じ制服姿の深夜が立っていた。

 私たちは彼女たちのもとに駆け足で向かう。そんな私たちと一緒に、さりげなく走っているゴローには何か可愛らしいものがあった。

「みっちゃんはゴローの散歩中?」

 深夜がゴローを撫でながら言う。ゴローは気持ちいいのか嫌がっているのかよくわからないが、無抵抗だ。

「うん、そだよ。放っておいたらブクブク太っちゃうからね。まぁ、その時は私がステーキにして食ってやるけどねー。あはははっ」

 そう言いい巫礼ちゃんはゴローを撫で、深夜と世間話を始める。それを見た小夜が「遅刻するから、行くね」と声を掛け、私と小夜は中学校に、3人と1匹は神社でゴローと戯れていた。高校は中学の30分後が始業らしい。

 私は小夜に、前に住んでいた街について色々と尋ねられた。彼女は私の話すこと一つひとつに驚いた。別に前の街が都会と言うわけではないのだけれど、小夜には大都会のように感じたようだった。

 そうしていると学校に到着した。予想していた通りの木造建築だった。小夜は職員室まで私を送り、教室にで待っていると言い、去って行った。そして、そこには8人の職員がいた。

 話を聞いてみると、小学1年生が12人、2年生が14人、3年生が13人、4年生が12人、5年生が11人、6年生が14人で、小学校の方が全員で76人。中学校は1年生が3人、2年生が4人、3年生が4人だそうだ。小学校まではこっちの学校に通い、中学校は自転車やバスで隣町まで通い、高校受験を目指す人が多いらしい。だから、御鷹中学に通う人は分校に進学するか、中卒で家業を継いだりする人がほとんどだという。中学の方は、1年生から3年生までが同じ教室で学ぶそうだ。

 そんな説明を中学の担当の先生から受けながら、私はその教室に向かった。

「それじゃあ、ここが中学の教室です」

 そう言いながら、先生はドアに手を掛ける。滑らかにドアが開かれると、一気に木の匂いが私を襲った。今まで歩いてきた廊下も木造だったのだけれど、何故か教室は木の匂いが強かった。

 私が先生の後について教室に入ると、悠磨くんと小夜以外の生徒は、転校生を見た時の典型的な反応の5倍くらいのオーバーリアクションで私を迎えた。生徒たちの転校生が来るのは初めてだ、という声が私の耳に入り、改めて、この村の過疎がうかがえた。

 私は、先生に促され、彼らは知らないであろう自分の元の中学校の名と、自分の名を名乗った。彼らは、私の出身地の名前は知っていたらしく、都会っ子だ都会っ子だと楽しそうに周りの友達と会話を始めた。

「先生ー、森口さんは私の知り合いなので、私の隣がいいでーす」

 小夜がガタリと椅子を引いて立ち上がって言った。

「あら? そうなんですか。じゃあ、岡本くんの隣の机、動かしていいですよ」

 その先生の言葉に小夜は、明るく返事をし、悠磨くんの隣にあった机を自分の隣に動かし、小夜の隣に座っていた男の子は、悠磨くんの隣に移動する。悠磨くんと親しいらしくニコニコしている。そして、私は手招きする小夜の元に私は向かう。

「改めてよろしくっ! 金崎小夜」

「俺は、及川和樹」

 小夜の自己紹介の後に、悠磨くんの隣になってしまったいかにも男子、って感じの男子が言った。その隣で悠磨くんは、相変わらず曖昧に笑みを浮かべていた。

「これから、あと半年もないけど、よろしくな」

 そう言って和樹くんはいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 窓から吹き込む風が、教室に木の香りを満たした。


続きを書こうと思いつつ、夏休み課題の短編小説に頭を抱え、書けていない今日この頃です。

読書感想文にしろやコラって感じですが、ギリギリまで粘って短編を上げてみたいと思います。

そのせいで、中途半端なところで更新ストップしていてすみませんm(_ _ )m

課題の小説と数学の課題が一段落したら、すぐに執筆にかかりたいと思います。


こんな私の小説にコメントしてくださる皆さんには、本当に感謝しています。


これからも温かーく、のんびり見守って頂けると幸いです。




 カケラアツメ 一.ハジマリ 其の四 更新しました!

 前の更新から、かなり時間開いた割に、短いなって感じですが、そこはダイナミックスルーで←


 とりあえず、これで ハジマリ はおしまいです。

 

 次回、新キャラ登場です。

 男が2人の予定です。


 火曜にテストが終わっちゃったりするので、それからはガンガンかいていきたいと思います☆



 これからも、どうぞよろしくお願いします(。-人-。)



 追記: 作中に出てきた両鎌槍↓


trash-槍

これの、鎌部分、槍部分が太めなのが、作中の少女の両鎌槍です。

こんなのでやられたら、とりあえず私は棺桶いきですね。