私は、歌うマサヨシが好きだった。
私は今日も、彼のライブを聴きに行っていた。
ギターの弦に指を滑らせ、時に甘く、時に激しく歌う彼は、とても官能的だった。
女性客の半分以上は、あの弦を滑り、押さえる指が、自分に触れることを想像していたに違いない。
私は足繁く彼のライブに通って、スタッフと顔見知りになり、打ち上げに参加させてもらえることになった。
ライブを終えたマサヨシは、気心の知れたスタッフと、ステージの上で見せるはにかんだ笑顔とは違う、躊躇ない、はじけた笑顔でビールを飲んでいた。
笑うと凹むほっぺたが、少年のようで本当にかわいい。
私は、少し離れたところから、マサヨシを見ていた。
話せなくても、同じ空間で楽しげな彼を見ているだけで、体温が上昇するような感覚だった。
私は、軽く酔って、トイレに立った。
(あ~。ドキドキする。でも、せっかく来たのに全然知り合いになれないな…。)
と、洗面台の鏡を見ながら少し落ち込んでいた。
お化粧を直してトイレを出ると、偶然マサヨシもトイレから出てきたところだった。
(きゃー!今、今話しかけなくちゃ、こんなチャンスはないっ!)
意を決して、私はマサヨシに声を掛けた。
「あの、いつもライブ見ています。良かったら握手してください!」
私は、ねるとんで「お願いしますっ!」ってやっていた男の子のように、平身低頭で右手を出した。
彼は、少し吹き出しそうな笑顔で、軽くジーパンのポケット下辺りで手を拭いて、
「いつも来てくれてる子だよね。ありがとう。」
といいながら、握手をしてくれた。トイレで手を洗ったのか、彼の大きくはないけれどゴツゴツした手は少し冷たかった。
「あの、私、凛って言います。また絶対ライブに来ます。
ずっと応援してるので、頑張って下さいね。」
今日、話せたのはこれだけだった。
…残念…
(続く)