カサノヴァ二回目観劇でした。

牢獄シーンでベッドが一つしかない!と気が付いて、またまた妄想が暴走・・・。

完全にオリジナルなお話になってしまいました・・・。

楽しい妄想にしたいので、名前もレイとリオに変えて、BL変換です(笑)

 

 

 

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神父という仕事はうわべだけのもので。

3人も女を妊娠させた罪で牢獄に放り込まれた。

 

4年間も毎日、毎日、壁の石の数を数えるだけで一日が過ぎてゆく。

 

レイと呼ばれたのはいつのことだったか。

ここでは「お前」としか呼ばれず、いつしか自分が何者だったのかさえ忘れそうだ。

肉欲の罪で投獄されたはずなのに、変化のない毎日にすっかり腑抜けにされてしまった。

 

「626・・・ふう。」

 

天井にある626個目の石を数えた時に、背後でガチャリ!と音がした。

 

「新入りだっ!リオと言う。」

 

看守に引きずられるように連れてこられた男は、はっとするような美形だった。

まばゆいばかりの銀の衣を身にまとい、ブロンドに輝く髪を無造作にまとめている。

すうっと整った鼻筋に、はっとするような美しい瞳。

 

造形はこの上なく美しいのに、ふてくされた表情に愛嬌がある。

 

「こんな狭い部屋に?」

 

思わず見惚れてしまったことを隠すように乱暴に答える。

退屈な毎日に湧き出たオアシスだ。

慎重に対応せねばならない。

 

「おいっ。何をやらかしたんだ?」

「できるもんができちまって。」

「馬鹿だなあ。女の扱いが下手なんだよ。」

 

机に肩肘をついて、「俺は1017人の女を抱いてきた。」という彼は、誇張表現をしているようには見えない。

椅子に座っているだけで、惚れてしまうようなフェロモンが垂れ流しになっているからだ。

 

「いきなり焦ってはダメだ。まずは視線で腰砕けにしてだな。」

「・・・視線で。」

 

リオが俺の顎をくいっと持ち上げて、瞳を覗き込んでくる。

微かに伏せた睫毛にすうっと切れる目尻。

 

泥のように眠っていた感情が、動きだす。

ドキドキドキドキ・・・・

錆びついていた歯車が動き出す音だろうか?

 

トクン。

 

彼の鼻筋が目前に迫ったときに、鼓動が鳴った。

ああ。これは俺の心臓の音だ。

そうだ、俺には心臓があった。生きていたんだ。

 

ゆっくりとくちびるが重ねられる。

同じ人間のものとは思えないような、甘美でやわらかいくちびる。

 

「リオ・・・。」

「覚えていてくれたのか?」

 

思わず彼の名前を呼ぶと、嬉しそうに笑う。

 

「そ、そりゃ。4年ぶりに会う外の人間だからな。」

「そうか。光栄だ。じゃあ、外の空気を吸わせてやろう。」

 

リオが再び顎をくいっと持ち上げ、言葉通り「吸わせてやる」ようなキスをしてくる。

濃厚に舌を絡め、吐息ごと流し込んでくるようなー・・・。

 

「ふっ。」

 

思わず声が洩れる。

腰が、砕ける。

 

「男の割にいい声してるじゃないか。」

「ばっ・・・馬鹿にするな!」

「馬鹿になどしていない。褒めているんだ。」

 

気恥しさに彼をドンっ!と突き飛ばしたが、両手をひょいっとあげ余裕の微笑みで返される。

 

「その反抗的な瞳が気に入った。名前は?」

「・・・レイ。」

「レイ。か。美しい名前だ。私にもパワーを分けてくれ。」

 

リオの手のひらが頬を包み、舌先を吸い上げる。

奪われるようなキスなのに、快楽は与えられる。

二人の間を熱い感情が行き交う。

 

熱い。

久しぶりに身体に血が流れてゆくようだ。

 

「分けてくれ」と言いながら、リオが俺に「命」を吹き込んでくれている。

 

「レイ・・・。レイ。」

 

キスの合間に吐息交じりに名前を呼ばれる。

 

「どうしてそんなに名前呼ぶんだ?」

「名前を呼ぶと愛しさが増すからさ。」

 

「そ、そういう台詞は女どもに言えばいいだろっ!」

「いや。レイだから呼びたいんだ。」

 

彼の言葉は水が流れるようにあまりにも自然で。

1018人目に加えられようとしているだけなのか?と、腹立たしくもなってくる。

 

「レイ・・・。本当のお前を思い出すんだ。」

「リオ・・・。」

 

真っすぐな瞳が心に突き刺さる。

例え、1017人の過去があったとしても。

今のリオの瞳に偽りはない。

そう、信じることができるだけの、深く澄んだ瞳。

 

本当の、俺。

 

緑の高原で走り回っていたあの頃。

母親が花を摘み、「ほら、レイができたわよ。」と俺の首にかけてくれた。

 

「レイはね。愛なの。貴方は愛そのものなのよ?」

 

大地と水と空気と太陽のエネルギーを、レイに編み込んでゆく。

ハワイで始まった風習をリオは知っていたのだろうか?

 

「こんなところで、命だけ永らえて何になる?お前はお前の人生を輝かせなくては。」

「・・・・っ!」

 

化石のように凝り固まっていた心が、リオに照らされてキラキラと輝きだす。

 

「わかった。お前と共にここを出よう。」

「よし!じゃあ、計画を練るぞ。」

「おう。」

 

ろうそくの明かりだけを頼りに、狭苦しい机に額をくっつけるようにして話し合う。

真剣なリオの瞳。時折俺に投げかけられる視線。

 

俺の心の扉を開いて、外へと連れ出してくれたー・・・。

本当は、もう俺は自由になっている。

脱獄などできなくても、自分が何者かを思い出させてくれた。

生きていることを、教えてくれた。

 

「よーしっ。今日はここまでっ!さっ。寝るか!」

「・・・寝るってどこで?」

「どこで寝るんだ?」

 

リオがオウム返しに尋ねてくる。人々

狭苦しい天井部屋には、小さくて硬い木のベッドが一つきり。

 

「看守のヤツ、ツインにするのを忘れたな?」

「そんな優遇措置があるものか。」

「じゃあ、どうすんだ?」

 

リオの身なりからして、元々豊かな暮らしをしていたのだろう。

ベッドが一つきりしかないという状況が考えられないらしい。

 

「テーブルの上で寝るか?」

「あの?ちっぽけなテーブルで?」

「・・・いや、無理だな。悪かった。」

 

リオの背丈の半分ほどのサイズなのにしかない。

おまけに高さまであるから、落ちたら怪我をしそうだ。

床は石でできており、立っているだけで底冷えがする。

一晩中床で寝転ぼうものなら、間違いなく朝には冷凍人間のできあがりだ。

 

「ひとつしかないなら、一緒に寝ればいいじゃないか。」

「この狭苦しいベッドで?」

「ベッドは共にするのが美学なんでね。」

「それは女の話だろ?」

「いや。惚れた相手なら誰でも。」

 

リオが俺の顎を捕え、ちゅ。っとキスをする。

どこまでが本気でどこからが冗談なのか図りかねるのに、胸がトキメクのを止めることができない。

 

「二人のほうが寝心地もよくなるし、あったかいぞー?」

「俺は布団代わりかよ!」

 

確かに、この硬くて冷たい木のベッドではリオは眠れないだろう。

 

「ほら。こっちこいよ。」

「・・・わかってるよ。」

 

俺のベッドだと言うのに、勝手に潜り込んでシーツを持ち上げている。

 

「明日には、この部屋ともおさらばだからな。別れを惜しんでおきな。」

「・・・そうだな。」

 

リオの腕に抱かれて、そっとまぶたを閉じる。

俺を縛り続けた場所から、リオが救いだしてくれた。

 

硬く狭いはずのベッド。

昨日までと同じはずなのに、今日はあたたかくて、心地よい。

 

リオがいるから。

 

ふと天井を見上げると、先程数えていた626番目の石が目に入った。

 

「なあ。リオ。あの626番目の石を爆破すれば、外に出られるんだぜ。」

「そうか。私の誕生日は6月26日だ。・・・きっと成功するな。」

 

いつもなぜだか626番目の石で止まっていた。

リオと出会うずっと前から。

 

「・・・そうだな。」

 

リオの胸に頬を寄せる。

リオの鼓動が頬に伝わる。

心地よいまどろみに誘われる。

 

明日からは、新しい一日が始まる。

 

「2018で数字が終わればいいのに。」

 

そう願いを込めて、ぎゅっと目の前の男に抱き着いた。