ピョーーー。
冷たい空気を切り裂いて、甲高い笛の音が響く。
聞く者の心を鷲掴みにするような、力強く、それでいて寂寥感がある音色。
初めてその音を聞いた者は、必ず涙を流すだろう。
人里離れた静かな森に、しんしんと静かに雪が降り積もる。
「白」一色の世界において、彼の笛と艶やかな唇の朱だけが、浮かび上がる。
薄布をまとい小高い丘の上に佇むのは、一人の美しい少女・・・いや、少年だろうか?
ザアっと吹く風が、彼の黒髪を舞い上げ、透き通るようなうなじが露わになる。
「お呼び、でしょうか?」
気配もなく、彼の背後に一人の青年がかしずく。
笛をゆっくりと降ろした少年は、前を向いたまま、言葉を発するわけでもなく、ただ風に吹かれている。
「今宵は、月が綺麗だ。」
「・・・左様で。」
薄く雲がかかった冬の空に、輪郭がぼんやりとぼやけた月が浮かぶ。
曖昧なこの月を「綺麗だ」と表現する彼は、何を思うのだろう。
「私は、時々わからなくなるのだよ。」
「・・・・。」
「何のために、この旅を続けているのか。
一番愛する者(兄上)から、この身を隠すためだけに生きていることが・・・。」
二人の間に沈黙だけが流れてゆく。
求める愛が、与える愛と同じとは限らない。
彼は美貌と才能ゆえに兄から疎まれた。
ただ、兄に認められたくて、尽くしてきただけなのに。
「我が血は、何のために存在するのか。」
切れ味の悪い刀が、細い腕の皮膚を傷つける。
鮮やかな朱が、真っ白い雪を美しく染めあげる。
彼の眼には、兄のために戦場を駆け回った記憶が蘇っているのだろう。
命を晒して、自分の存在意義を確かめることのできた美しい日々を。
「わたくしは、いつも貴方様の側におります。」
「そうだな。」
青年は彼の心を乞う(恋う)ていることを言葉にできない。
決して裏切らず、彼の命のある限り、守り通す者としてしか存在できない。
彼は気が付いているのだろうか?
一番愛してくれる人が、一番側にいるということを。
「一番愛する人のため」ではなく、「一番愛してくれる人のため」に生きることもまた命。
と、いうことを・・・。
求める愛が、与える愛と同じとは限らない。
ここにもまた・・・。
苦しむ命がある。
「それだけでは、不十分でございますか?」
「いや・・・。それもまた良いものかもしれないな。」
ザアッとまた風が吹く。
雲がさあっと流れ、くっきりとした月が明るく輝いた。
「月が・・・美しゅうございますね。」
「そうだな。」
真実を偽らなくてもよい。
己の愛のために生きよ。
月が、語っていた。
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えへへ。
リクエストして描いていただいたイラストから浮かんだ情景をお話にしてみました^-^
昔、二人で熱く語り合っていた時期に、「義経と弁慶と静御前」のイラストを頂いたことがあって、
その世界観が大好きだったから和モノを描いて~~。とおねだり(笑)
私はがっつり腐だったので、弁慶×義経!妄想を繰り広げてましたが、彼女は純粋に義経が好きだった(笑)
「牛若丸」とのことだったので、ぼやっと義経と弁慶っぽいお話に仕上げてみました(笑)
あくまで、ぼやっと・・・・W
彼女は宝塚を全く知らないのですが、「今、ハマっている男役さん」とこの写真でれいちゃんを紹介したので、このイメージで描いてくれたんだろうなー。優しいな~~///と、感激^-^
ただ、このイメージでお話を書いてしまうと、相手はどうしても「みりお様」に(笑)
「お呼びでしょうか?」ではなく「待たせたな。」とドSな妄想が始まってしまって、困惑しましたWW
どんな師従関係やねん!
あー、やっぱりコラボ楽しい~~。
久しぶりにフィールドに返ってきた気がしました(笑)