お正月と言えば。

 

こたつにみかんが置いてあって。

祖父母を交えて家族が全員集合して。

お喋りに花が咲きすぎて、誰がみているのかわかんないような紅白歌合戦が流れていて。

私が、突然に歌いだすと、家族がニコニコと見守ってくれていて。

 

気温のせいだけじゃない「あったかい空気」が流れているものだった。

 

宝塚に入団してからも、下級生の時は実家に帰ったりもしていたけれど、ここのところそんな暇もない。

「お正月気分」は大切にしたくて、しめ飾りを飾ったり、お雑煮を炊いたりはしてみるけど、あの空気は再現できない。

 

もちろん、「お仕事のお正月」も幸せではあるのだ。

今年も「大好きな宝塚」という場所で存在できていると実感できるし。

劇団やファンの皆様と過ごせるのは、感謝の場でもある。

賑やかなお正月はそれはそれで楽しい、のだけどー・・・。

 

一人で道を歩きながら、家族連れや仲睦まじい恋人とすれ違うと寂しさを感じる。

「羨ましい」だなんて、贅沢な感情だとはわかっていても、心にすっと冷たい風が吹く。

 

「同じ気持ちでいてくれるかな。」

 

ストールをきつめに巻いて、空を見上げる。

急に冷え込んだ空気も「冬」を感じさせて、慌ただしく急に師走が来たような気分になる。

 

「トップは孤独」って誰かが言っていたっけ。

どんなに仲間に囲まれても、愛する人が側にいても、結局は一人で背負うしかないから。

その時代に、その組で、その個性で、背負うものも方法もそれぞれ違うから。

 

「さーっ。がんばろっ!」

 

一人で、宝塚の真っ青な空に向かって決意した。

 

 

 

 

「さゆみさーん。」

 

声と共に、インターフォンが鳴る。

 

「えっ?どうして?れいちゃん??」

 

全国ツアーを終えてすぐに次の演目の集合日だったれいちゃんは、日々の用事を片付けるので精いっぱいなはず。しかも、お互いにお正月から別々のお仕事で、一緒に過ごす時間なんてないと思っていた。

 

「来ちゃいましたー・・・。」

 

えへへ。と眉を下げて照れ笑いをしながら、紙袋を掲げてみせる。

 

「ちょっと早いけど、年越ししましょ。」

「だいぶ、早いけどね。」

 

「細かいことは、気にしな~い!」

「いや、全然違うから!」

 

私のツッコミなんて全く意に介せずに、勝手知ったる・・・といった感じでリビングに入ってゆく。

 

「あ。お邪魔しま~す。」

「すでにお邪魔してるけどね。」

「ですね。じゃあ、お邪魔してます。ってことで。」

 

お洒落なボトルに入った色々なお酒やら、総菜やら。があっと言う間にテーブルに並べられてゆく。

 

「あ!でもやっぱり年越しにはみかんですよねーっ。」

 

キラキラのお洒落フードの真ん中に籠に盛ったみかん。

ものすごくアンバランスなんだけど、私たちにできる精いっぱいのお正月気分そのもので笑ってしまった。

 

「おかしいよ~?これ。」

 

あれ?

笑っているはずなのに、視界がぼやけてくる。

れいちゃんの笑顔、みかんのだいだい色。

暖房でいくら温めてもなくならなかった心の中の風が、ほわっと温かい空気で包まれてゆく。

 

「どうして泣いてるんですか?」

 

はしゃいでいたれいちゃんが、ふっと真顔になって私を抱きしめてくれる。

 

「ううん。何でもない。」

 

それ以上何も聞こうとしないで、ゆっくりと私の背中を撫でてくれた。

 

 

 

 

「なんだか今年は密度が濃かった気がするなー。毎年そう思ってはいるけど。」

「私にとっては、特別に、です。」

 

れいちゃんがこれ以上ないほど愛し気なまなざしで、ふっと私をみつめる。

その視線の意図するところを感じて、急に頬が熱くなる。

 

「そ。だね。」

 

両手の指を組んで指先を弄んでいると、れいちゃんの両手がしっかりと私の手を包む。

れいちゃんが二番手になって、二人の距離が急激に縮まって。

惹かれながらもどこか遠慮していた関係から、いつの間にか誰よりも近い存在になっていた。

 

こうやってみつめられると、ドキドキもするー・・・・

 

ふ。と視線を上げると、れいちゃんのくちびるがそっと押し当てられる。

 

「今まで生きてきた中で、一番幸せな一年でした。・・・あ!一番は宝塚に合格したこと、かな?」

「ぷっ。れいちゃんてば正直。」

 

黙っていればわかんないのに。

でも、思ったままを言葉にしてくれるから、れいちゃんの言葉はいつも信用できるの。

 

「私は一番じゃないわけだ。」

「や。そういう意味じゃなくて。宝塚に入団してなければ、さゆみさんに出会うこともなかったわけですし。」

 

「そうだねえ。私が花組にこなければ、こんなに近い存在になることもなかっただろうし。」

「縁(えにし)を感じますよね。」

 

努力や実力が必ずしも真ん中に押し上げるとは限らないけれど、誰もがキラキラしている。

「ポー」の時に私の一番側にきたれいちゃんは、元々華のある子だったけど一気に輝きを増した。

 

「頑張らないと、ですね。この縁に感謝して。」

「縁だけじゃないよー。この一年でびっくりするぐらい歌もお芝居も成長したもの。」

「や、それはさゆみさんが引っ張ってくださるお陰です・・・。」

 

もごもごと口の中で小さくつぶやく。

 

「だってさ。今や全国ツアーを率いるスターさんだもんね!」

「は・・・い。」

 

れいちゃんが複雑な表情をする。簡単に「はい」と一言で言ってしまえない思いが交錯しているのだろう。

私も経験があるからわかる。男役10年で一人前。10年と言えば、組を率いるという意識よりも「男役として」完成をめざす学年だ。学年が若ければ若いほど、上級生を差し置いて。という重圧も増す。

 

「あのね。厳しいことも言われると思うし、私も言ってきたと思うけど。みんなれいちゃんに期待してるから。れいちゃんならできる!って信じてるからだよ?それだけ、みんながれいちゃんに注目して応援してるの!」

 

大切に育てたい。

誰よりも愛され、愛する人を。

 

「これからもよろしくね。」

「いえいえ、こちらこそ、末永くお願い致します。」

 

ふかぶかとテーブルに手をついて、お互いにお辞儀する。

 

「なんかさー。」

「熟年夫婦の会話みたい!ですねっ!」

 

あははっ!とリビングに明るい笑い声が弾けた。

 

 

素晴らしき一年に感謝して。

来年ももっともっと素晴らしい一年になりますように。