私は、ローマの誇り高きグラディエーター。
戦いのためだけに生かされた魂は、獲物を探し彷徨い続ける。
毎日、毎日、誇りにまみれ、血にまみれ、己の存在意義のために戦い続ける。
勝ち続けなければ、明日はない。
今日も戦う。
ローマ一強い戦士として。
「驕り高ぶるのも今日までだ!」
荒々しく連れていかれ、新たな戦士と向かい合う。
戦う相手が誰であろうと関係はない。目の前の敵を倒すことだけが、私に与えられた使命なのだから。
キンっ!キンッ!!
剣を合わせるたびに圧倒的な強さを感じる。
「コイツ・・・強い。」
地に組み伏せられ、剣が目前に迫る。
頬が裂け、血が流れる。
「ここまでか・・。」
意を決したとき、ふっと身体が軽くなる。
目を開けると、一輪の白百合が投げ込まれていた。
「貴方が・・・?」
観客席からまるで白百合そのもののような姫が私を見つめている。
戦うことでしか存在できなかった私を、彼女は救ってくれた。
「私のために生きて下さい。」
手を引かれ誘われた先は、地下にある風呂だった。
もうもうと湯気の立つ中、裸の男女が入り乱れている。
「ここの湯は傷を治します。」
ちゃぷんと薄布のまま姫が湯に入っていく。
戸惑いながらついていくと、彼女が私をじっと見つめる。
抱きしめると身をゆだねてくる。
恋にー・・・落ちても良いのだろうか?
戦いの奴隷として生きることしかできなかった私が。
温かい湯の中で、彼女に触れる手が段々と大胆になる。
「・・・愚かな者よ。」
束の間の幸福を味わっていると、荒々しい手に湯から引きずり出された。
「あの姫は王者の愛人だ。お前のような者が触れてよいお人ではない。」
・・・なんだと?王の愛人??
頭が混乱する。
やはり私はこの世に存在してはいけないのか。
姫に恋心を抱くことさえ許されぬのか。
どこにーー行けばいいのか!
混乱のまま人込みを抜け、走り出す。
「・・・ほう。こんなところに隠れていたとは。」
立ち居振る舞いと豪華な装飾から王であるとわかる人物が、私の前に立ちはだかる。
「姫はお前に心を奪われたそうだ。だから最強の戦士を差し向け、お前を殺そうとした。
だが、よく見ればお前も美しい顔立ちをしておる。姫の代わりに私に抱かれるなら、お前の命を助けてやろう。」
品定めをするような王の瞳が私を射すくめる。
荒々しく抱きしめられ、全力で抵抗する。
「・・・嫌だっ!あの姫は私を救ってくださった!私の命はあの姫のために存在するっ!」
「ふっ・・・、どこまでも愚かな奴よ。」
王に顎をつかまれ、後ろを振り向かされると、複数の男に組み敷かれる姫の姿があった。
肌をあらわにし、喉をのけぞらせ、肢体をくねらせても、気品を失わない姫。
男たちにいいように扱われても、その瞳はどこか悲し気だった。
「所詮、あれは私の愛人。お前たちがどう思おうと私の意のままだ。お前も所詮は男。欲望という名の奴隷となれ。」
絶望の淵に呆然としていると、裸の女たちが次々と私の肌に触れる。
絶妙なテクニックで誘惑してくるが、私の心は沈んでいく一方だ。
女に囲まれる私をあざける様に、王が姫を抱きしめる。
「・・・どうして、お前の心は私のものにならぬっ・・・!」
姫が王の腕をすり抜けて、私のもとに駆け寄ってくる。
苦し気に王が声を吐き出し、立ち去ってゆく。
「貴方を愛しています。」
「私もだ。」
どんなに身体が穢されようと、魂まで支配されはしない。
私の魂を救ってくれた姫よ。
お前と共に生きよう。
熱っぽい視線で問いかけると、それ以上の熱で答えてくれる。
唇を重ね合わせると、喜びで打ち震える。
美しい肢体に手を伸ばすと、しなやかに仰け反り優美な弧を描く。
ちゃぷん。と、水音が響く。
温かな湯気に包まれ、恋人たちが愛を紡ぐ秘密の地下風呂。
「愛のために生きる」
そんなものが存在したのかー・・・。
姫を腕に抱き、幸福に浸っていると、突然、湯気でぼやけた視界を鋭い光が切り裂く。
「手に入らぬのなら、殺すまでよっ!!」
「・・・っ!!!!」
王が私に斬りかかると同時に、姫が血しぶきをあげて舞う。
「・・・どうして・・・どうして・・・。」
私にすがるようにゆっくりと姫が血の海に倒れてゆく。
「お前のために生きるのではなかったのか。この命はお前のために・・・。」
束の間の勝算と、仮そめの愛の詩(うた)
美しき人は、花のごとくー・・・。
私を救ってくれた白百合を姫の上に落とすが、目を覚ますことはない。
散ってしまった命。
お前がこの世に存在しないのなら、私も生きる意味がないー・・・。
血に濡れた剣を手に、王が呆然と立ち尽くしている。
空虚な心を投げ出すように、王の唇を奪う。
「愚かなる者よー・・・。」
私たちは、一番尊い命を奪ってしまったのだ。
「好きにするが良い。この身はくれてやろう。」
荒々しく王の手が私の衣をはいでゆく。
心はどこにも存在しない。
ただお互いの怒りを埋めるためだけに、肌を重ね合った。
*
大好きな大好きな「ビューティフルガーデン」のローマ風呂こと「ローマの白百合」の物語でございます。
何十回とリピートして、私なりの解釈で物語にしてみました!
オリジナルとしても読めるようにしてありますが、普通に読んでしまうと、ただの男女の物語・・・(笑)
あきられい・・・みりれい・・・みりあきら・・・
目まぐるしく男役同志ばかりが(笑)恋模様を繰り広げるショーに腐女子としては妄想が止まりません!
白百合ってとこがねー。また(笑)
男女の話だけど、男役同士で、演じているのは女子同士。というなんとも複雑な構図を表しているタイトルだなあ。とWW
ショーの通りに「美しき人は花のようにー。」で終わっても良かったのですが、誰も救われないショーなので、残った二人に反省会をしていただきましたW
メサイアでみりお様と共に死ねなかったから、ショーでみりお様を守って死ねたれいちゃんはある意味幸せなのかも・・・。